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    青き絵描きの少女 1-5



「ほら!!やっぱり金属バットもってきておいたほうが良かったんじゃない?」


「いや必要ない。私の貸す力で十分戦える。それより奴は私達に狙いを定めた。おそらくアキのその服に描かれている小さな青の文字が気になったのだろう。」

 自分の着ている部屋着の左胸のところに小さな青い熊の刺繍が入っていた。その刺繍を引っ張りあげ確認すると曇りのない綺麗な青だった。裾はボロボロ腕のゴムもだるだる。さらにはパーカーの紐すらない中学の頃から着続けた服。愛着があり今日この日まで捨てられなかったこの服に恩を仇で返された。帰ったらこの服の処分を考えなくてはならないかもしれない。


「今日はひとまず逃げようよ!あれがナイトメアでしょ?助けるよりも助けて欲しいよ!」

「そうもいかないんだ。アキ。例の自警団グループの一人がこの学校に来ていてさっきのナイトメアを狙いにきているようなのだ。しかし、そこまでの実力ではないようだな。先ほどの教室の方向で衝突した音が聞こえたがナイトメアは着実に私達の元へむかっている。」

 確かに今の会話中にちょっとした物音が三階のほうから聞こえてきたがナイトメアが鳴らしただけの物音だと思っていた。まさか、すでに例の自警団の人が動き出しているとは。

「その人達でも倒せないんだから私には絶対に無理だと思うけど・・・」

「そうだな。お前みたいなただの普通の能無しの小娘には不可能だ。」

 どっちが小娘?不意に浮かんだ突っ込みはこの場の空気を乱してしまうだろう。アキはあえてアリスに突っ込まなかった。

「しかし、ただの普通のバカな小娘のアキでも私の能力ちからさえあれば、あのような下級ナイトメア恐るるに足らずだ!この学校でなるべく広く、そして隔離された空間はあるか?」

「え~~と。体育館とかかな?」


「よし。今からそこに向かえ。着くまで足を止めるな。その途中で私の能力の使い方の説明をするから聞き漏らすなよ。」




 体育館までの距離は階段の長さを含めると約三百メートルほどしかないため一分もかからず体育館に到着した。三十以上の照明が昼間の体育で使うような体育館の明るさを演出する。ステージのある面に近い場所で奴の到着を待ちわびるアキ。ちょっとした集中力が気持ちの良い瞬間。例えるなら今まさに得意な数学のテストの開始時間を待つような、そんな感覚だった。そしてそのときは訪れる。

 グルルルルルッルルルルルル

 犬の唸り声よりも鈍い低音を響かせながらのそのそと体育館入り口の少しの階段をのぼってくる。奴が追いかけてきているときほぼアキと同じくらいの速度で追いかけてきていた。しかし今はお世辞でも動きが早いとはいえない。わざとゆっくり動いているようだった。おそらく奴は自分達を追い詰め、後は仕留めるだけというような余裕を見せているのだと直感的に感じ取った。まったくお笑い種だ。自分が追い詰められていることにも気づかずに。



「きたぞ。アキ。準備はいいか?」


 ステージの段に適当に立てかけられた学校新聞は言う。

「うん。・・・・・閉めて!」

 アリスは学校新聞の紙の中から指を鳴らす。体育館内全体に響き渡るほど大きなその音は体育館のドアを魔法にかけて操り、地下室からアキを逃がさないように自宅の閉じた地下室のドアのように体育館全体のドアが閉まり、そして鍵がかかる。

「もし、これで自警団が追いかけてきたとしても私達の邪魔は出来ない。存分に暴れろアキ。」

 目をつむり体育館に来るまでの間に聞いたアリスから借り受けた能力の使い方をアキはゆっくり順を追って思い出す。


 まずナイトメアを救う方法だが、あの真っ黒なナイトメアをある特定の色でペインティングすることにより新たなる生命体として創造しなおすことが私の言う救出だ。飢えで消えてしまった彼らのデータベースに個性、知性、理性などを吹き込む作業だと思っていい。それにはまずペインティングする道具が必要なのだが、着色には何がいる?そう。絵の具、クレヨン、色鉛筆、ペンキ。さらに色だけじゃなくそれらを操作する道具もセットで必要だ。そしてそれらは今手元にない。だが安心しろその道具は”私の貸した能力”ですぐに呼び出すことができる。



 「ヴェノムパレット・オープン!」

 右の胸にあてた左腕の拳を、合言葉を言うと同時に勢いよく体の真横に開く。すると、アキの左前方に半透明の6つの文字列がひとつづつゲームの決定音のような音を出し出現する。

 まず”ヴェノムパレット・オープン”の掛け声でメニューカテゴリが開く。これが、すべての保管してある道具を取り出す用意となる。つまり戦闘態勢。お道具箱を机から引き出したイメージだな。ヴェノムパレットに表示される文字はすべて英語で、上から①WEAPON、②COLOR、③SIZE、④MODEL LOCK、⑤CREATE、⑥CHANGE(NOT AVAILABLE)

「FIRST CALL。WEAPON1、BRUSH!」

 WEAPONとCOLORの間に複数の小さな文字列が現れその一番上のⅠ.BRUSHが光り、小さい文字列は閉じられる。そしてアキの右手に長さ30センチ程の筆が現れた。

「おおお!」

 なかなか良質な筆で関心すると同時にテンションがあがる。



 当たり前の話だが、30センチ程度の筆であの大きさのナイトメアをペインティングするのには時間がかかりすぎる。しかしもう少し大きな筆だったらどうだ?二倍、いや十倍の大きさの筆だったら。きっと三回筆を振るだけでナイトメアはその色に染まるだろう。




「NEXT。SIZE、Medium8。COLOR、コバルトブルーをジェネレート。」

 アキの持つ筆は三メートル近い大きさとなり、さらに筆の先が綺麗な青に染まった。右手から左手に持ち替え筆を肩にかける。重そうに見えるかもしれないが、実はこの筆は元の三十センチのときの筆の重さと同じで軽いのだ。ただ少し持ちにくくはなるが。

 グルアアアアアアアア!

 ナイトメアが声を上げるとその体はどんどん膨れ上がり饅頭のような形に変形する。おそらく奴もまた戦闘態勢に入ったのだろう。体は少し透け体内が蠢き生きているのがよくわかる。

 ・・・・驚いたな。見た目に騙された。奴はギリギリ中級のナイトメアか。初めてのアキには少し厳しいかも知れん。



「ここまでは準備の段階。ここからよ。ナイトメアさん。」


ラストスパートだお

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