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一話 青き絵描きの少女 1-1

 「今日は逃がさないんだから! コンクールはもうすぐそこまで近づいているのよ?」

 男子の力は高校生になると女子一人の力ではかなわない。同じクラスで親友の唯に手伝ってもらい何とか連れて行くことに成功している。もう少しばかり歩けば私達の活動する部室に到着し、この力仕事も終わる。あと少しだ。


「もう仕上げだけなんだからいいだろ別に。放せよ姉ちゃん!唯!」

「だ~~~め~~~。副部長にハルくんつれてこい~~って言われたから~~~。それに仕上げって言うのはある程度完成した状態の事を言うんだよぉ~~~?シャーペンで下書きしただけで後は仕上げだけなんてよく言えたよね~~~~。」

「色塗るだけだろ?俺はそれを仕上げって言うんだよ。というかそれ相変わらずだな!そのフニャフニャしたしゃべり方さっさと直せっていっただろ!唯!」

「努力はしてるんだよぉ~~~~? でも~~~~~ム~~~リ~~~。」

「直す気ねぇじゃねぇか!」

「ほら久しぶりの部室だよ!ハル!」

 姉の橘アキに右腕を強く引かれ、同じクラスで友達の花城唯に背中を押される。目の前に迫っている美術室のドア。憂鬱になる。橘ハルは個性的過ぎる美術部員が苦手だった。


「YHER! ハルぅ! 久しぶりだな、感動の再会にお前もどうだ?」


 ハルはため息をこぼす。上半身裸で、目にゴーグルをつけ紙がはがされ木の板になったキャンバスを美術部の備品で固定しサーフボードのように乗りこなす紅葉高校美術部の部長が出迎えてくれた。入部したての頃からこれに似たようなことで何度も驚かされた。三年で部長なのに美術室で一番バカというポジションは部活をサボっていた二ヶ月間も顕在だったようだ。そういえば自分を美術室に引っ張ってきた後ろの二人は何も反応しない。まさかこの部長の奇行に慣れてしまったのだろうか?


「「ハァ・・・」」


 ハルが少し前に進み後ろの二人が部室を見渡せる位置に動くと二人の口からからため息がこぼれた。ハルは安心した。あんなものに慣れてしまったのだとしたらたとえ長年連れ添った友達、この世で唯一の姉でも距離を置かざるを負えなかっただろう。しかし、入部3ヶ月目でほぼ毎日顔を出している二人でさえため息をこぼすとなると一体いつからこの男の奇行を日常として受け入れられるのか。美術部に残る部長以外の三人の先輩に聞いてみたいところである。



「久しぶりだな。ハル。7週間と3日ぶりか。」

 美術室入り口の左に備えられた水道で水を汲みながら一人の女子がハルに声をかける。女子であるにもかかわらず低音の声、少しぽっちゃりな体型とメガネがまさに美術部の原型のようなその女子は紅葉高校三年A組名護由紀。ちなみに3年の美術部員は名護と部長の二人だけである。

「名護先輩。お久しぶりです。それよりいつから美術部は水泳部になったんですか?」


「水泳部じゃない競泳部だ!さあハル、お前も俺に続くんだ!」

 部長の喝が入る。しかし、呼ばれたハルを含め部長の方を見る者は当然誰もいない。


「気にするなハル。あたしがムカついたから青く濁った水を頭からかけてあげたんだ。本人も喜んでいるみたいだしよかったよ。」

「ああ、だから上を着ていないんですね・・・。また名護先輩にちょっかいかけたんですか部長。親しき仲にも礼儀ありですよ!」

ハルと名護の会話を聞いたアキが部長をにらみつけて言う。


「違うんだアキ。名護の素敵なメガネに急に触りたくなってしまったんだよ!」

「てめえ、2年以上も毎日毎日メガネに指紋つけにきやがって拭くの面倒臭えんだよ!」

 反省の色を2年以上もみせない部長は名護にサーフボードなるキャンバスから叩き落され、がっしりと顎をつかまれた部長は名護の怖い目を見てやっと反省の色を見せる。

「まあ、なんていうか愛情表現っていうか・・・」

「ってことわぁ~~~部長は名護先輩の事が好きってことですか~~~?」



「「「・・・・・・・」」」


 少しの間が開く。部長が唯の質問に答える。



「ぜ~んぜん好きじゃない。」

 唯の仕掛けた地雷に即引っかかり、再び名護を怒らせてしまった部長は名護のマジ拳を顔面にうける。つけていたプラスチックのゴーグルになんとヒビが入ったが、そんなことでもここの美術部員は驚かない。それどころか文句を言う者すらいる。

「先輩方。そしてアキ、唯。お静かにしてくださいませんこと?」

「あ、桜先輩だ!」

「わたくしは2週間後に迫るコンクールの締め切りに焦っていますのにこうもうるさくては・・・・・

!? ハ、ハルくん!?」

 お嬢様のような丁寧な言葉遣いと気品のある容姿を持つその女子は紅葉高校二年B組水沢桜。ウェーブのかかった明るい茶髪の毛先をねじりながら現れ、うるさい部長達に注意をしに来たようだったがハルを見つけた途端その注意は止まる。桜の顔が心なしか赤くなっていく。


「桜先輩。お久しぶりです!」

 先輩に対する普通の挨拶。

「え~とあの・・・その・・・ああ・・・もうダメですわ♡」

 ハルの先輩に対してする普通で当たり前の挨拶は桜を一瞬で押し沈めた。顔が赤くなっていると自分でもわかった桜はそれを隠すため美術室の角におかれている机まで駆けていき、机の下に隠れ、小さくうずくまって顔の熱が引くのを待ち一人唸る。


「フッ・・・さっきまでの強気な態度が嘘みたいだな。」

「名護先輩。僕は嫌われてしまったのでしょうか。ただ・・・ただ僕は可愛くてお美しい桜先輩に挨拶をしただけだというのに・・・・。しかし僕は待ちます彼女がいつか僕に心を開いてくれるその日を!」

 この学校のマドンナ的存在の桜に惚れられているという事実がハルを調子に乗らせる。桜の反応がハルを見た瞬間にいつもこうなるので誰もが一瞬でハートの矢印の存在を確信できる。ハルは桜の気持ちをわかった上で臭い演技派俳優のようにわざわざ腕の動きを織り交ぜながら教室の端に移動してしまった桜に聞こえるような大きな声で言った。

「わざとらしいんだよ。寝癖バカ。」

ハルの頭にぴょこんと重力に逆らい跳ねる髪の毛を名護が指摘する。さらに・・・・

「あんまり調子にのらないでね~~~~。」

「図に乗るなよ。」

 名護。唯そしてハルの後ろでアキがつぶやく。姉の注意は他の二人のそれとは比べ物にならないくらい迫力があり。わずかに背筋が凍る。


「それで?なにしに来たのお前。この学校の美術部はまともに”活動しなくてもいい”部活。そしてお前は”活動しない派”の奴だろ?」

「実は~~~ハルくんはふくぶちょ~~~に呼ばれているので~~~す。」


「・・・・・・そうか。じゃあさっさと済ませて出てけよ。ゴミ。」

「へい。へーい。」

 名護は何か考えるような表情を見せた後、最後に毒舌を混ぜて自分のキャンバスの前に水をもって戻っていった。その最中に唯が寝転がる部長に何かを尋ね、それに対し部長が腕だけを動かして答える。やはりさっきの名護の一撃がまだ響いているようだ。

「ハルくん!副部長は隣の第二美術室にいるってさ~~~~~いってあげて~~~~~。」

「あ~はいはい。いけばいいんでしょ。」

 そう言うとハルは副部長がいるというたくさんのキャンバスや今までの作品が置かれているいわば倉庫のようになった美術室の隣の部屋の第二美術室へと歩いていく。


「ハル!わかってるわよね?」

 強めの声でアキは自分の横を冷たい空気のように通り過ぎたハルに呼びかける。

「あ?なにが。」

「部活はサボっちゃダメ!今日は参加していきなさい。それと今日は家に帰ってくること!」

「うっせえな。帰ればいいんだろ?わかってるよ。」

「あと部活もサボらない!」

 ハルは右手を軽く上げで後ろ向きで返事をしその場を去る。アキは眉をよせ、適当な返事をするハルに苛立ち拳を強く握る。”今までの事”と名護の一撃を思い出すと殴りかかってしまいそうになるが、そんなアグレッシブなことはアキにはできなかった。

「アッキー~~~~。絵、描こ~~~~~。」

「うん。」


紅葉高校美術部の今日の活動が始まる。

今日は一話全部を投稿したいと思います。投稿のペースとしては通常3日に一回の投稿を考えていますが、ご要望があれば早めたりするかもしれません。^^

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