友人を観察中
リア・アルナスは、その日友人を観察していた。
友人は観察するものではないといった突込みをするものはその場にはいない。そもそもその場にリアが存在する事に誰も気づいていないのだから注意のしようもない。
リアが観察している友人は、《爆炎の騎士》ラウルである。
リアが自ら友人認定している存在はホワイトドラゴンのルーンと地球から迷いこんできたラウルだけである。ラウルはリアよりもレベルが高いのだが、あくまでVRMMOの世界でそうだったというだけであり、現実的問題としてリアを知覚できるほどではない。
(ラウルは本当抜けてるなぁ。これ、私がラウル殺そうとしたら瞬殺できるんじゃない? もう少し警戒しようよ。というか、よくこんな無防備で過ごせるなぁ)
リアは部屋の中で本を読むラウル――この世界の常識について知るために沢山読んでいるらしい――のすぐ後ろに立ちながら思考する。
(転生とトリップの差? ううん、私は少なくとも無理。トリップだったとしてもここまで落ち着けない。いや、トリップの方がきっと私は怖いと思う。だってトリップはその世界に欠片も存在していない状態から急に放り出されるのだ。転生はまだ生まれる場所があって、育つ場所があって、その世界を受け入れるだけの準備は出来るだろうけど、トリップは違う。ラウルだって私という元友人が居たからこうしてここにいるけど、私が居なかったら不審人物としか言えないしなぁ。お義父さんも経歴が無なラウルの事気にしているみたいだし)
リアはラウルの背中を見ながら長々と思考する。
正直リアはラウルがここまでのんびりしているのが理解出来ない。此処まで寛げるのが理解出来ない。
リアはラウルに対して前世の友人であるという事から、友人という括りにしている。だけど、正直この友人、色々不安になるぐらい抜けている。
(まだ日本人としての感覚が残っているからならいいけど……、それなら無理やり自覚させるから。自覚してもアレだったら、私の事他に漏らさないように脅しつけなければ。ラウルのせいで私の日常が壊れるとか絶対やだし)
リア、そんなことを思考している。
友人に対しても一切容赦がない。
「ふぅ……」
本を一旦閉じて、ラウルが息を吐く。そして振り向くが、目の前にいるリアには一切気づかない。
(私結構突然現れたりしているのに、私が見ているかもっては思わないのかな。私凄いラウルの事今見ているのに。レベルが私よりも高いし、気づきやすいと思うのにな。そういう可能性を欠片も考えてないっていうのは、ちょっと警戒心が足りない)
リアは最近よくラウルの周りをうろうろしている。ナキエルが元いた闇ギルドに対しての警戒もあるが、単純にラウルがリアに気づくのだろうかと思いながらうろちょろしている面も強かった。
そんなわけでリアはラウルの前を本当にうろちょろしていた。
ラウルは部屋を出る。リビングに向かう。その後ろをリアもひっそりとついていく。
ラウルは気づかない。
リビングにはナキエルが居た。ナキエルはラウルの姿を見た瞬間駆け寄ってきた。
「ラウルさん」
ナキエルはリアからしてみればよくわからない事だが、ラウルの事を慕っていた。
(気絶させられて俺が面倒を見るって言われて慕うものなのか、普通。私なら少なくとも無理。気絶させるっていう強硬手段で連れてこられるって相手が嘘言っている可能性もあるし、私ならそんな信じないけどなぁ。慕うが恋愛か友愛かはわからないけれど、これ恋愛だったらどれだけ惚れっぽいの)
リアはナキエルも気づかないかなと目の前で手をふったりするが、予想通り気づく事はない。
(というかこの子も所属していた闇ギルドに狙われている自覚あるのかな。ラウルはレベルだけは高いからどんなことがあっても大丈夫って思ってるのかな。それはそれで闇ギルド育ちにしては警戒心が薄い事になるけど。これでラウルを慕うふりして実は牙を剥こうと機会をうかがっているとかの方が面白い)
完全に他人事である。友人がどういう状況になろうが特に手を伸ばす気はないのがリアの思考からよくわかるだろう。
リアはラウルを友人とは少なくとも認識している。でもこの世界で生きていくなら、もっと強くあってもらわなければ困るのだ。リアがラウルの命の危険を全て事前に排除するというなら早いだろうが、それは最早友人の関係性ではない。
リアはラウルにこの世界で生きていく覚悟をしてもらって、また友人として歩みたかった。
だからこそリアはラウルのやることに手出しをしない。
「ナキエル、明日は……」
ラウルはこの世界の現実を知るためにギルドマスターからの依頼をこなしたりしている。それにナキエルを一人にするわけにもいかないと連れまわしていた。
その日程の確認をしている。
(正直見ている限り、ラウル全然警戒してない。すぐ死にそうだなぁ)
リアはそんな感想を持ちながらも、警戒を促す事さえもしないのであった。




