街は今日も平和です。
さて、その日、リア・アルナスはのんびりと過ごしていた。
《何人もその存在を知りえない》を使って、うろうろしていた。特に目的もなく、沢山の話を聞いていた。
誰にも聞かれていないという状況だと思っているからこそ、リアの視界に入る人々は機密事項だろうとぺらぺらと喋る。そんなわけでリアは色々な情報を保持している。中には表沙汰になったら問題があるものも多くある。流石に放っておくと面倒な事になりそうな情報はギルドマスターに流しているが、それ以外は心に秘めていたり勝手に対処をしたりしている。
目的もなくうろうろしていたリアだが、不審な動きをしている人物を見つけたのでそちらに視線を向ける。
(うーん、なんか怪しい動きしているな。杞憂だったらいいけど、もし何か起こすっていうなら……対処したほうがいいか。自分の住んでいる街で面倒な事起こったらややこしくなるし。ラウルの関係だったら、ラウルのためにも放置するとして、……)
そんな事を考えながらリアはその男の後をついていく。
男の外見は一見して普通である。どこにでもいるような街の住民に見える。が、少し動きが怪しい。
ユニークスキルを使って、いつも人の事を観察しているリアからしてみればわかるのだ。人と会話を交わさない分、人の観察を続けてきたリアだからこそ気づいたというべきか。
そしてリアは軽い調子で男についていくのだが、もちろん男はリアの存在に気づくことはない。
リアがついていった先で、男を待ち構えていたのは数人の男である。
(なんの会合だろうね、これ。普通に雑談とか、久しぶりに会いましたーとか、趣味の会談とかならまぁ、どういう趣味だろうと大目に見る事出来るけど……ちょっとどうなんだろうね)
と思いながらリアはじーっと彼らを見ている。
「首尾は上々か?」
「今の所は大丈夫だ」
「この街にはギルドマスターも居るから気をつけなければならないだろう」
そんな会話をし始めたものだから、リアはお義父さんにばれたくない後ろ暗い事をしているのだなとすぐ分かった。
(それにしても、誰もいないと思っているからって油断しすぎだよね。私しっかり聞いちゃってるよ? ってこういう秘密の会合でぺらぺら喋っているの聞くといつも思うんだよね)
リアはいつも人に悟られないように色々な場所をうろうろしながらこういう会話をよく聞いているのであった。
そのたびに思う事はなんて不用心なんだろうというそういう事である。何処までも彼らは不用心である。周りに人がいないというのは彼らにとっての事実であっても、此処はリアの前世で暮らしていた地球ではなくファンタジーな世界だ。ファンタジー世界において、リアのように隠密に長けたスキルを持つものも多く居るというのに何であんなにぺらぺら話せるのだろうとそんな風にリアは思うのだ。
(ぺらぺら喋ってくれる分にはこっちとしては助かるけど……というか、お義父さんの居る街で何か起こそうとか馬鹿だよね、こいつら)
そう考えながら話を聞いていると、どうやらこの男たちは麻薬の販売をしようとしているようだ。いくつかの大きな町でそれが出来たからと今度はこの街に目をつけたと。
学園のあるこの街は大きく、彼らからしてみれば、少しずつやっていれば上手くいくと思い込んでいるようだ。
(なんという楽観的な連中なんだろう。ばれたら逃げたらいいって……というか、もうばれてるよ? そもそも逃がす気ないしね)
リアはある程度話を聞いたので、すぐに動き出した。男たちがリアを認識する時間も与えないほどの一瞬で、彼らの意識を刈り取る。情報を色々吐いてもらわなければならないし、殺す事はしない。
そして縄でぐるぐる巻きにして、動けないようにする。また魔法が使えないようにもする。
それが終わればリアはギルドマスター室に向かった。男たちはそのまま放置である。
「お義父さん」
「リアか、どうした」
ギルドマスター室で一人で仕事をしていたギルドマスターは、リアが突然現れたというのに一切驚いた様子はない。
「街、うろうろしていたら怪しい奴発見した」
「ほう、そうか」
「街で麻薬売る事模索。捕まえたから、回収して」
リアはそれから男たちを放置している場所を告げると、そのままその場から消えて行った。
ギルドマスターは「あいつは相変わらずだな」とつぶやきながら、部下を呼び、リアが捕まえた男たちの回収に向かうのであった。
さて、ギルドマスターに男たちの案件を預けた後は、リアはまた目的もなくうろうろする。その中で女を襲おうとしている馬鹿男を見つけて対処したり、噂話に耳を傾けて情報収集をしたりしながらのんびりと過ごすのであった。
そんなわけで《姿無き英雄》の活躍もあり、街は今日も平和なのであった。




