家での会話
「リア姉ってさ」
「ん?」
珍しく姿を現していたリアは、ネアラに話しかけられていた。
もうすぐ課外実習があるなー、面倒なことが起こらなければいいななどと考えながら、ソファに腰かけリアは足をぶらぶらさせていた。
その様子はまるで子供のようである。
そしてネアラが用意した夕飯を食べ、ネアラが注いできてくれたジュースを飲み、甲斐甲斐しく世話をされている。
一応リアが義姉であるし、ネアラの面倒を見る立場である。しかし基本的に家にリアはいないのもあって、ネアラはすっかり自立していた。一応皇女などという立場であったのだが、リアはそういう事情など一切考慮せずに放置していた。中々ひどい。
《超越者》とは自分勝手な存在が多く、その中でも《姿無き英雄》は一際異質な存在である。誰もが存在を知らない、誰もが姿を見ない。強者であるというのにこそこそ常に隠れている。そんな変人。
正直そんな変人で個人主義な存在に義妹の面倒を見させるのがまず間違っている。
「凄く秘密多いよね」
「そう?」
「うん。あの連れてきた男の人の事もさ。ソラ兄が凄いぶつぶつ言ってたよ?」
「……別に、言う必要なし」
ソラトはリアに対して隠し事は一切しないだろう。それはソラトがリアに自分の事を知ってほしいとそんな風に考えているからだ。しかし、リアは違う。昔からの仲であろうとも、ソラトに幼馴染としての情が少なからずあろうとも、それでもリアはソラトに必要以上には語らない。
義妹となったネアラの目から見てみても、リア・アルナスという少女は一言でいって変である。
(強者であることをリア姉は驕らない。寧ろ自分が殺されるかもしれないなんてそんなことを不安に思っている。そもそも《超越者》であるなら学園に通う必要なんてないのに通っているし、本当意味がわからない)
リア・アルナスは、世界一般的に見て強者である。絶対的な強者である《超越者》の一員。
圧倒的な強さを持つ存在にもさまざまな性格の者がいるだろうが、リアはちょっと変だ。
常にこそこそと隠れていて、裏で色々な事を行っている。
そのユニークスキルにしても、よっぽどこそこそ隠れて、常にあらゆる可能性に臆病であらなければ発現しないスキルであっただろう。
人に存在を悟らせないスキル。それはそれだけ息をひそめて生きてきたという証である。
「学園の人たちがリア姉が、《姿無き英雄》ってしったらどんな反応するんだろうね」
「ん、バレないようにするから問題なし」
「ソラ兄って苛めも受けているのでしょう? 《炎剣》相手に苛めてたとか、知ったら大変なことになりそう」
「ん、ソラト、《姿無き英雄》の弟子とか、言い放ったから。馬鹿」
「ある意味間違ってはないよね」
「ん。でもソラト実力、隠しているし。雑魚が弟子だとか嘘にしか見えないこと、言ったから」
しかもそれを学園内で言いふらした理由がリアとのつながりを感じたいという理由である。同じ学園にいるのにリアに話しかけられない事に対してどうしようもない気持ちを感じているらしいソラトである。
リアからしてみれば家にはよく来るし別に話していないわけではないし良いではないかという感じだ。
「ネアラ、ギルドは、どう?」
「少しずつ、上がってきているよ」
「友達、一緒だよね? 覚悟はしといた方がいい」
「覚悟?」
「ネアラ、お義父さんが養子にするぐらい、実力ある。普通の人、ついていけない」
「……それ、は」
リアの言葉に、ネアラは固まった。
リアが言った事実は、友人たちと共にギルドの依頼をこなしていて感じていた事だ。ネアラと彼らでは実力差がある。ネアラが出来ることが彼らは出来なかったりもする。
友人であっても、確かに実力差があり、そこには壁がある。
この世界では強者と弱者の差は明確に分かれる。《超越者》と一般人であれば、それはもっとだ。寿命が違う。同じ種族でも同じ時の中を生きていく事は出来ない。
それを感じているからこそ、ソラトはリアに追いつこうと必死だ。まだソラトは《超越者》ではないが、いつの日か《超越者》に至るだろう。
「ネアラは……、頑張れば、《超越者》いつか、なれるよ」
「……」
「友達、ついてはいけない。離れたくないなら、彼らと一緒に居るのも、一つの選択。でも、強くはなれない。強くなりたいなら、無茶必要。それ、相当の事しなきゃ」
ギルドマスターが養子にしたほどの人材だ。いつか、《超越者》に至る事だって出来るだろう。リアはそう考えている。
しかし《超越者》に至るという事は、普通の一般人との決別を示す。
ともに生きていく事は出来ない。《超越者》は普通の人にとって雲の上の存在であり、ネアラがもし《超越者》に至ったのなら向こうの態度がそのままであるとは言えない。
「だから、強くなりたいなら、覚悟いる」
「……リア姉は」
「ん?」
「《超越者》になるの、躊躇わなかった?」
「全然。私、死にたくないって、思ってたから。それに、私友人、ルーンぐらいしか、居ないし」
リアは人においていかれる事に何も感じていない。誰かと共に生きるよりも、自分が死にたくないという思いが勝っている。そういう、少女なのだ。
ネアラは聞いて、リアの言う事は全く参考にならないとそんな風に思うのだった。
そしてネアラは黙って考え込み、リアはただ黙々と食事を続ける。そんな空間はリアが「魔物、狩ってくる」と去っていくまで続いた。