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ギルド会議前のひと時。

 「リアちゃん、リアちゃん」

 リアの名を嬉しそうによぶ一人の少年が居る。

 ボサボサの灰色の髪を肩まで伸ばし、黄色の瞳を持つリアと同じ年ほどの少年だ。背はリアよりも高く、百七十センチは超えているだろう。

 そこは、アルフィルド学園から歩いて行ける距離に存在する一つのアパートの一室。

 二階建ての少し寂れたそのアパートであった。1LDKのそこには、限られた人以外訪れる事はない。そしてそのソラト・マネリという名の少年は、その限られた人であった。

 「鬱陶しい」

 ソファに座ったリアは嬉しそうに自身の名をよぶソラトに視線を向けて、バッサリと言い放った。

 酷く冷たい目を浮かべている。が、そんな視線をソラトはものともしない。

 「リアちゃん、冷たい! でもそんな所も好きだからいいや」

 「……ソラト、用があってきたんでしょう? 用件を言って」

 ぷいっとそっぽを向いてリアは告げる。

 (全く、どうしてこいつは好きだの恥ずかしがりもせずに言えるのか……。昔からこうだけど言われてるこっちが恥ずかしいっていう)

 あまり好意を真っ直ぐに向けられることなどないリアは、いつものことだが、そんな風に言われて少し恥ずかしくなるのであった。

 リア・アルナスとソラト・マネリは幼馴染である。

 リアの義父の親友の息子――それがソラトであった。

 そして長い付き合いのあるソラト相手だからこそ、リアは普段からは考えられないほど口を動かしていた。

 「リアちゃん、照れてて可愛いー」

 「……用件言わないならぶっ飛ばすよ?」

 「あはは、幼馴染だからって『殺す』ってリアちゃんがそこで言わないのが俺は嬉しいよー」

 ソラトはにこにこと笑っている。

 ちなみにリアはソファに座っているのに対し、ソラトは立っている。

 (リアちゃんは可愛いなぁー。何だかんだで幼馴染だからって俺に甘いリアちゃんが俺は大好きだよ)

 冷たい態度をとられていようともそんな思いに駆られているソラトは何処までも嬉しそうであった。ソラトはリアの事が大好きであった。

 ――ギルド最高ランクの《姿無き英雄》であるリアにおいていかれたくないという思いからギルドSSランクを保持するまでに。

 リア・アルナスという少女は基本的に冷たい人間だ。自身の邪魔をする人間をリアは許さない。だけれども、何だかんだで心を許した人間にはリアは甘い。それをソラトは知っていた。

 (最もリアちゃんは、俺がリアちゃんの敵に回るなら俺を躊躇いもせずに殺すだろうけどさ。ま、俺がリアちゃんの敵に回るなんてありえないけど)

 ソラトがリアの邪魔をするならば、敵に回るならばリアは幼馴染だろうとも躊躇いもせずにソラトを殺すことだろう。それをソラトは知っている。

 でも邪魔をしないならば、敵に回らないならば、リアは決してソラトを殺そうとしないだろう。

 「いいから、用件を言いなさい」

 《アイテムボックス》から愛用の真っ黒な長剣《黒雛》――切っ先の部分がデコボコになっており、相手をえぐることに特化したような形のもの――を取り出すと、ソラトの首にあてる。

 いい加減、用件を言わないソラトにリアは怒っていたらしい。

 「ごめんごめん。あのさ、リアちゃん。今日ギルド会議いくんだよな?」

 自分よりも遥かにレベルの高い相手に殺気を向けられているというのに、ソラトは緊張感の欠片もない笑顔を浮かべている。

 ソラトの口にしたギルド会議とは、ギルドランク高位者による定期的な集まりである。その参加者はギルド最高ランクとギルドSSSランク所持者である。

 「いく。でも、それソラトに関係ない」

 リアがそういうのは、ソラトがSSランク所持者であり、ギルド会議に参加する資格がないからである。

 「関係ないとか酷い」

 「だってソラト、参加出来ない」

 「うん。参加は出来ないよ? だけどさー、俺もギルドに用事あるから一緒にいかないかなって」

 「やだ」

 ソラトのお誘いはすぐに拒絶された。

 「えー。俺、学園でもリアちゃんに話しかけないように我慢してるんだよ! いいじゃんか、ギルドに一緒に行くぐらい」

 「やだ。《炎剣》と一緒に行くとか目立つもん」

 自分が一番目立つ存在だという自覚がないのか、リアはそんな事をいう。

 注目されることと目立つことがリアは死ぬほど嫌いであった。自分だけで動くのであれば、ユニークスキルを使えば誰にもばれずに動くことが出来るが、ソラトはそういうスキルを持ち合わせていない。

 ソラトはリアと同じ学園にかよっているものの、クラスは違うし、接触禁止令が出されていた。

 「ほら、リアちゃんはユニークスキル使ってていいからさー」

 「……私、一言も喋らないよ?」

 「全然それでいい」

 「……それ、一緒、行く意味ある?」

 「あるよ! リアちゃんが一言も喋らなくても、会話しなくても、一緒にリアちゃんとギルドに向かっているというその事実が重要だから!」

 一言も喋らず、ユニークスキルを使ってそこにいるかも不明な相手と一緒に並んで向かうだけで満足らしい。

 「…まぁ、それならいい」

 「よっし、じゃあ帰りも一緒帰ろうよ。どうせ帰る場所一緒だし」

 「……ユニークスキル使ってていいならね」

 ソラトはリアと同じアパートに住んでいる。そもそもこのアパートはリアの義父――ギルドマスターの所有するアパートであり、リアもソラトもそれゆえに此処に住んでいたりする。

 「全然いいよ。もうギルド行く?」

 「……準備してから。ちょっと待って。準備できたらそっち行くから。ソラトも準備してきて」

 「了解」

 そしてリアはそのまま自室で準備を、ソラトは一旦自分の部屋へと戻って準備を始めるのであった。





 ――そして二人並んで(リアはユニークスキルを使ってだが)、ギルドへと向かうのであった。




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