夏休みが終わって
結局リアは夏休み中のほとんどをルーンの元で過ごした。毎日毎日殺し合いを繰り広げるという、聞いたものからしたら信じられない、だけどリアにとってみれば最高の夏休みであったといえるだろう。
尤もそれだけをしていたわけではない。気まぐれにネアラを修業させたり、ギルドマスターから告げられた依頼をこなしたりはしていた。
(夏休み、終わるのはやかったなぁ)
そしてリアは学園で、椅子にこしかけてそんな思考をしていた。
周りのクラスメイトたちが夏休み中の思い出を互いに楽しそうに語り合っている中で、話しかけないでくださいオーラを出しながら無表情で本を広げている。
リアは相変わらずクラスメイトたちとかかわる気は皆無であった。
《姿無き英雄》であるとバレでもしたら大変である。普通の生活は出来ない。そういうことをよく知っているからこそ、リアはそれを隠し通すことに力を入れていた。
(それにしてもハーレム主人公は、そのうちばれそうだな。一学期でももう色々疑われているし)
本に視線を向けながらもそんな思考に陥るのは、ティアルクの元気な声が耳に響いてくるからだ。
「夏休み中はゲ――お世話になっている二人と一緒に過ごしていたんだ」
ゲンさんとルノさんといいかけて、慌てて訂正をする。
ゲンとルノと二人の名を口にすれば、それが《ギルド最高ランク》所持者である《竜雷》と《風音姫》と気づくものは気づくからであろうが、そんな風に訂正すれば怪しい事この上ない。
「私は実家にかえっておりましたの」
レクリア・ミントスアはそんな風にいって笑う。
それはリアも承知の事である。
(……それにしても、エマリス・カルトも何かあるかもなぁこれ。ハーレム主人公ってどんだけ主人公体質なんだろう?)
見ている分には面白いが、それだけの存在が集まっているとなると色々おこりそうで面倒なリアである。
夏休みが終わった初日の学園は、連絡事項などがされて終わった。
毎年二学期に課外演習があるらしく、その説明もされた。一学年から三学年までごちゃまぜで班が組まれ、実践を経験しようという考えのものらしい。
(実践を経験っていっても、学園がおぜん立てした奴だときっと簡単なんだろうな。それに他人と集団行動しなきゃとか絶対にやだ。でも参加しなければ単位がなぁ…)
話を聞きながら、そんな思考である。
リアは相変わらず言葉を発さないし、喋らないが、心の中では人一倍喋っていた。
大体のクラスメイトたちが、課外学習に思いを馳せる中、リア同様、カトラス・イルバネスは興味がなさそうであった。
(過去あり主人公は相変わらずハーレム主人公とは正反対のテンション。資格は欲しいけれど、学園生活、めんどくさいなぁ。ルーンと遊びたい)
数えきれないほどの殺し合いを繰り広げて、数えきれないほど敗北を知って、だけれどもリアからしてみれば足りないらしい。
そもそもリアはルーンの事を友人として大好きなので、いくらでも遊びたいのである。
(ルーンと遊ぶのは楽しかったな。ルーンと遊ぶと強くなれたって実感もすごくするし。本当楽しい)
リアが一番楽しいと思っている事はルーンと遊ぶことだった。
強くなることが趣味のようなリアにとってそれは最高の遊びだった。
連絡事項を頭に適当に留めながらも、夏休み明け初日の学園は終わった。
そして、家へと帰宅する。
「……ネアラ」
「うわ、リ、リア姉。久しぶり」
ユニークスキルを使ったまま、中へと入り、声をかければネアラは驚いた声をあげた。
夏休み中は大体ルーンの元へいたために、ネアラがリアと会うのは久しぶりだった。
「学園いってたの?」
「ん」
リアはそう答えてソファに腰かける。
リアもネアラにちょっと慣れてきたのもあって、本当に時々だがこうして話しかけるようにはなっていた。
「学園、私も行きたいなぁ」
「………多分、年なったら、通える。頼めば、通える」
ネアラが将来有望だからというのもあってギルドマスターは養子にしたのだ。望めば学園に通う事ぐらいしてくれるだろうという事である。
「それまで、時間あるね」
「ん」
「私……友達、欲しいな」
「学園、通っても、友達、出来る限らない」
「……リア姉は作ろうとしていないだけでしょ」
リアと一緒に住んでいるネアラは、友達らしい友達が居なかった。皇女時代もそういう存在はおらず、正直作り方もわからない。買い物とかをしているからお店の人とはそこそこ仲良くなっているものの同年代はいないのであった。
「作りたいなら、何か、すれば」
「何かって?」
「ん、私がわかるわけない。でも、学園、通わなくても……作ろう思えば、作れると思う」
リア、そんな助言だけをしてまた姿を消してどこかにいってしまった。
助言をされたネアラは「どうやったら友達出来るかな」としばらく頭を悩ますのであった。




