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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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友人とずっと遊んでいる。

 一匹のドラゴンと、一人の少女の間で魔法が飛び交う。

 少女は長剣を両手に、真っ白なドラゴンへと向かっていく。そこに躊躇は一切見られない。

 ただただ、向かっていく。

 何度も戦闘不能になりながらも。

 ドラゴンに回復してもらうと、またしばらくすると向かっていく。

 何度も何度も何度も―――――数えきれないほど、少女は向かっていく。

 「……リアよ、どれだけ俺に向かってくる気だ」

 「いくらでも」

 「今日だけでもう十数回だぞ」

 「うん。でも私ルーンともっと、遊びたい」

 一日で十数回も殺し合い(遊び)は繰り広げられている。

 リアはルーンと遊ぶのが大好きだった。遊べば遊んだだけ強くなれる気がした。幾らでも向かっていきたかった。強くなったという実感を感じる瞬間がリアはすきだった。

 「リアも懲りないな」

 「懲りるわけないじゃんか」

 「俺に全敗しておきながら向かってくるのはお前ぐらいだ」

 「だって、私はルーンに勝ちたいんだもん」

 そう、勝ちたいから。

 貪欲に強さを求め、強者に至ることを望んでいるから。

 リアはただそんな思いで、絶対的強者であるルーンに向かっていく。勝ちたいという思いが消えない限り、勝つまで彼女は向かっていくだろう。

 リアはルーンに勝てる気はしていない。だけど、勝ちたい。追い込みたい。そう思っている。

 (ルーンに勝てたら、嬉しいのにな。ずっとずっと挑んでいるのに、ルーンには勝てないから。ルーンに勝ったらまた次の目標を見つけなきゃ)

 ルーンという存在はリアの目標。

 勝つことが目標。

 勝てたその先の事はまだ考えていない。

 MPを消費して向かっていく。

 尻尾でたたきつけられたり、気絶させられたり、そういう敗北を積み重ねていきながらだけど成長はしている。

 敗北は人を成長させるべき出来事で、ルーンに与えられた敗北の中で、リアは様々な事を学んでいる。

 実戦を生きてきた《超越者》、それが《姿無き英雄》だ。

 永遠と強くなるためと戦いの中に身を置き続ける《臆病者》。

 その臆病な心がなくなることはきっとなく、《臆病者》が故に強くなり続ける。

 そんなリアの事をルーンは面白いと思っている。だってこんな人間はそうはいないから。

 怖いからなどという理由で強さを求めて、戦いの中に突っ込んでいき、ルーンという存在と友人になった少女。

 (俺を友人だなんていうのはリアぐらいだ)

 それを思って心底面白いと思っている。面白くて、リアのその先を、リアが将来どうなっていくかを見たいとそんな風に考えているからこそ、簡単に殺せてもルーンはリアを殺さない。

 向かってくる人をルーンが殺す事はよくあることである。わずらわしいという理由でルーンが何かを殺すのは当然で、リアもルーンに気に入られていなければ一番最初の時にとっくに死んでいる。

 互いに友人と思い合っている。種族は違うが、確かに友人である。

 そんな二人は殺し合い(遊び)ばかりしている。


 また、遊びにひと段落がついた。



 リアが、地面に横たわる。

 「……こう、さん」

 口を開くのもきついとでもいうような態度。実際HPもかなり減らされている。

 《ギルド最高ランク》所持者をここまで出来るのはルーンを含めてそうはいない。

 リアは回復魔法をかけると、しばらく休むと口にした。

 本調子でも勝てないのに、こんな状態でかてるはずもないからだ。

 巨体を丸めてのんびりとしだしたルーンに寄りかかりだすリア。

 他の者にされたらすぐに払うだの、殺すだのするだろうが、リア相手だからか別に気にしていない様子のルーンである。

 「ルーンに、また勝てなかった」

 「俺はまだまだ負ける気はしない」

 「……悔しいけど、まだ勝てる気はしない」

 むすっとした表情でリアはそう告げる。勝ちたい、でも勝てる気がしないほどルーンは強い。

 (私より強い存在は結構いる。死にたくないから、もっと力をつけなきゃ。強く、強くならなきゃ。強ければ、死ななくて済むんだから―――)

 死にたくない。一度死を経験したからこそ、もう一度死ぬなんて嫌だった。

 正直、僅か十五歳で《超越者》であるリアは成長速度がおかしく、どれだけレベルが上がるかも想像できない存在で、周りから見ればリアの方が恐ろしいだろう。

 しかし、将来的に最強になる、ではなく、今もう誰にも負けない強さが欲しいとリアは望んでいた。

 だからこそ、彼女は成長し続ける。

 「ルーン、休んだらまたやるよ」

 「また、やるのか」

 「うん。ルーンとの遊びは楽しいし、良い経験になるからね」

 「そんなことを俺と殺し合っていうのはリアぐらいだ」

 「だって楽しいし、勝ちたいし、強くなりたいし」

 「だからってやりすぎだろう」

 「学園に通っているから時々しか会えないし。こういう時に思いっきり遊びたいの」

 そんなわけで学園に通っている間あまり遊べないかわりに今思いっきり遊んでいるらしかった。

 ずっと、彼らは殺し合いという名の遊びを繰り広げている。




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