友人の元へと向かいます
エルフの国から帰宅したリアは、いそいそと準備をしていた。
この場には、ネアラとソラトもいる。
「リア姉……念入りに準備しているけれど、どれくらいいくの?」
「ん、決めてない。入れるだけ」
霊榠山――一般人は足を踏み入れるのもためらうような場所。だけど、リアにとってみれば霊榠山は、友達の居る場所で、遊び場であるという認識しかない。そういうものなのである。
そのあたりは一般人と《超越者》の間で考え方の違いが大いにあるだろう。普通の思考を持っていないのは、それだけの経験をしてきたから。リアは目立ちたくないなどといって普通を目指しているが、《超越者》という異常者が普通を目指すことがまず色々おかしい。
「リアちゃんと会えないとか寂しい」
「……私はさびしくない」
「エルフの国に行っちゃうし、夏休みなのにリアちゃんと全然遊べてないのに」
「私は遊べなくても問題ない」
「俺は遊びたいのー」
「ソラト、煩い」
リアはソラトが幾ら言い募ろうが、冷たくあしらっている。
「っていうか、リア姉。あの、リア姉が霊榠山にいっている間、私はどうしたら……」
「ん、適当に過ごして。それかソラトに、面倒見てもらう」
「なーんーで、俺が」
「……霊榠山にネアラ、連れてけないし。頼めるの、ソラトぐらいだし」
義姉や義父に任せてしまったら、一緒に住んでいるリアが何者なのかと話題にでもなりそうで、そういうことも考えてソラトしかいないといっていた。
リアは色々面倒な事はソラトに押し付けようなどと考えていた。
というか、ソラトは「ソラトにしか頼めない」と言われたからには、断るという選択肢は脳内から消えて行ったらしい。
「任せて、リアちゃん!」
「ん、お願い」
勢いよく言葉を放ったソラトに、リアはそう告げた。
「ソラ兄、ちょろい」
そしてそんな会話を聞きながらネアラはそんな言葉を言い放つのであった。
それから、準備を終えたリアはさっさと部屋から消えて行った。
霊榠山へと向かっていく。リアの出せる最速でだ。
(はやく、ルーンと遊びたい。沢山沢山遊びたい)
リアの感じている思いなんてそれだけだった。リアにとって、友人と呼べる存在はルーンだけであり、友人に会えることに心を躍らせている。
嬉しそうに顔をほころばせている。
霊榠山へと向かう途中も、見つけた魔物はかたっぱしから殺す。襲われている人を助けたりもしながらも、移動速度は信じられないほどにはやい。
霊榠山の麓までたどり着く。
大量の魔物が溢れている。それらを、圧倒的な力を持って蹴散らしていく。
此処は《ギルド最高ランク》所持者の目からしてみても、危険だと言わしめる場所だ。
そんな場所だからこそ、リアだって簡単に頂上までたどり着けるわけではない。
気を抜ける時などほとんどない。
真っ白な霧が視界を埋め尽くしている。十歳のころから何度も何度も足を運んだ場所。
友人であるルーンに会うために、危険を承知でここに何度もリアはやってきた。
今はともかく、昔は、特にルーンと出会ったばかりのころはルーンの元に行くのも苦労したという事をリアは山頂を見上げながら考える。
たどり着くまでにもそれなりに苦労をする。だけど、それでもリアはルーンの存在を気に入った。
無鉄砲にルーンへと襲い掛かったリアを、ルーンは面白いと告げた。興味を持ったから、気に入ってくれたからこそ始まった友人関係。
(あのあと、二回目にやってきた時、ルーンは驚いてたっけ)
もう来ないと思ったと、二度目の訪問の際にルーンはそんなことを言っていた。
それもそうだ。ルーンが見逃してくれたのは運が良い事で、最初の邂逅で殺されていてもおかしくない。殺されずに済んだと安堵して、その後二度とルーンにちかづかないとかそういう存在のが多いだろう。寧ろルーンのような圧倒的に強い、《超越者》をも超える存在に進んで近づこうとする存在はまずいない。
ルーンはそういう存在なのだ。人族最強のエルフの女王様と並ぶ、この世界の絶対的な強者。
だけどリアはルーンとまた会いたいと思った。ルーンが自分を殺さないならと考えた。そして会いに行った。何度も会いに行って、何度も喧嘩を売って、軽くあしらわれて、そういうのを繰り返してきた。
「----成長した私をルーンに見せるんだから」
自分をよく知っている友人。
勝ちたいと願っている目標。
「ああ、楽しみ」
小さくそうつぶやいて、リアは霊榠山の魔物たちを蹴散らしながら山頂へと向かっていくのだった。




