道中もレベル上げのための努力は欠かさない
レクリア・ミントスアたちの移動速度に合わせて移動しているリアは、暇を持て余していた。護衛任務中に暇を感じるなど、普通はありえない事だろうが、そこは《姿無き英雄》というべきか、退屈しているようだ。
《何人もその存在を知りえない》を行使し続けている事はリアにとって一切の負担ではない。結構いつも使用しているからである。レベルを上げるためにはきつくてもスキルを使い続けることが一番である。
そういうわけで退屈をしていたリアは、移動しながら調合で使えそうなものを採取したり、読みかけの本を読んだりと好き勝手である。
レベルを上げるために使う必要はないのに、《浮遊》のスキルを使ってふよふよと浮いていたり、《空中歩行》を行使して少しだけ体を浮かせて空気を踏んで歩いてみたり。
レクリアたちがエルフの国への道中警戒しながら進んでいる中で、そんな我が道を行くリアである。もう少し真面目にやれよとでも突っ込まれるかもしれないが、これでもリアはまじめにやっているのである。不真面目にやっているわけでは決してないのだ。
幾ら、周りからはそうは見えなかったとしてもである。
レベルを上げる事は、リアにとって当たり前の事であった。死にたくないから、強くなりたい。もっと強い人は沢山いるから死なないように強くなりたい。
たとえその思いが臆病すぎる気持ちからわいたものだったとしても、リアは確かに強くなることに対して貪欲であった。
(うーん、もっとはやく移動してくれないかなぁ。ルーンの所にはやくいきたいからはやくしてほしいんだけど)
リアはリア的にゆっくりと進んでいる彼ら(平均からしてみればそのスピードははやいほう)を見ながら嫌そうな顔である。
面倒そうにしながらも片手間に魔物を葬る。
魔物を適当に葬るだけではレベルは上がらない。でも少なからず糧になるため魔物退治は雑魚でもいくらでもやる。リアは毎日の積み重ねでレベルを上げている。毎日毎日、ひたすらにスキルを使い、魔物を葬る。それを繰り返しているからこそ、レベルはまだ上がり続けている。
そうやって過ごしているうちに港町についた。
通常、エルフの国のあるアスラン大陸に向かう際はここから船にのる。海上を休憩もなしに一気に駆け抜けるのはリアぐらいである。
レクリアたちが船の手続きをしている間、リアは思考していた。
(うーん、船のスピードに合わせなきゃかぁ。めんどくさーい。流石に七時間スキルを使って海上にとどまるのは疲れるんだけどなー。でもんー、レベル上げにはなるしやるか)
そんなリアである。
レクリアたちが、
「《姿無き英雄》の分はチケットとらなくていいのでしょうか?」
「ギルドマスターは何も問題はないといっていたので多分大丈夫ですわ」
そんな会話をしていたわけだが、もちろんそれに対する説明をするものはこの場にはいない。
そんなリアはレクリアたちが船に乗り込む中、船の上空で《空中歩行》のスキルでのんびりしていた。
護衛という任についているのもあって、レクリアの事が視界にとどまる範囲でである。
(それにしても船の中で一番良い客室もらっているとか、流石エルフの女王様の親戚って感じだな。それしてもミントスアはなんで隠しているんだか? 別にあの学園エルフの女王様の親族でも通うのは問題ないはずなんだけどなー)
のんびりとしながらそんなことを考えるリアである。
魔法を使ってしっかりレクリアたちの会話を聞いていたりもする。
「レクリア様、この調子なら二日後にはエルフの国にはつきますね」
「ええ、そうですわね」
帰国できることが楽しみなのか、レクリアはにこにこしていた。年頃の男はイチコロになりそうな笑みである。
「そういえば、レクリア様」
「なんです?」
「あの男の事ですが……」
「ティアルクさんの事をそんな言い方しないでください」
どうやらティアルク・ルミアネスの話題に移ったらしい。ティアルクをあの男扱いした護衛にレクリアは怒っている。
(うーん、ハーレム主人公は流石ハーレム主人公だなぁ。こんなところでまで話題になるなんて。ミントスアが女王様の親戚だっていうなら学園で親しくしている男の情報ぐらい把握しているだろうしな。エルフの女王様の親戚って事は色々狙われる部分もあるし)
リアは聞き耳を立てながら船の速度に合わせて歩いている。
「そう。そのティアルク・ルミアネスのことなのですが、色々と不自然なのです」
「不自然?」
リアはそれを聞いて「あ」と内心思った。
(そっか、そっか、ハーレム主人公って中途半端に隠しているからね。そりゃ、不自然だろうね。っていうか、ギルドランクAくらいで隠す必要ないと思うんだけどなぁ。それにハーレム主人公ってレベルは高くても実践経験はあんまないし、正直戦いなれている相手からしてみれば簡単に倒せるだろうし)
レベルが偶然上がった人間は、レベルが高くても弱い場合もある。そういうことを戦い続けてきたリアは知っている。
「レクリア様と親しいということで調べてみたのですが、彼は情報があまりありません」
「それは、ティアルクさんも情報を隠している立場ということでしょうか?」
レクリアが顔色を変えた。もしかしたら好きになってはいけない相手だったらどうしようとか考えているのかもしれないとリアは思った。
それから「……少し一人にしてください」とレクリアがいったため、護衛たちは部屋からさった。そしてレクリアが「ティアルクさん、何を隠しているのでしょうか」とつぶやくのをリアだけが聞いていた。




