護衛任務はこそこそとするものです(それ、違う)
「それで、レクリア様、《姿無き英雄》様は何処におられるのでしょうか?」
「わかりませんわ。でも、居る事は確かですわね。ギルドマスターがそれを保障してくれましたから」
「しかし、女王陛下の親族であるレクリア様の前にも姿を現さないなどっ」
「やめなさい。《姿無き英雄》は貴方のその言葉もきっと聞いておりますわ。殺されたいのですか? 《姿無き英雄》はマナ様が認める強者ですわよ? そんな存在に対してそのような口を利くなど、死にますわ」
リアの目の前で、レクリア・ミントスアと護衛の兵士たちがそのような会話をしている。
(正解、私ここにいるよ。まぁ、そんなこと言われていら立ちはしても、殺しは流石にしないよー? 私は必要最低限しか殺しなんてしないんだけどなー)
リア・アルナスは、レクリア・ミントスアからほんの少しだけ離れた位置にたっていた。もちろんのこと、護衛の者たちには一切気づかれていないというのだから、流石である。
リアは簡単に人を殺せるだけの力を持っているし、臆病であるが故に敵はすぐに殺そうとする。殺すと決めたら殺してしまう。だけど、基本的に人の死におびえているのがリアである。必要以上にそういうことはしない。それは言い換えれば必要だと思えば殺すということだが、リアは人の死を見たくないと、恐ろしくて嫌だとそんな気持ちから多くの人間をすくってきた《英雄》である。
《姿無き英雄》として尊敬を集めているのは、そういう事実があるからである。
得体が知れなくても、確かに助けてくれた存在。
たとえ姿は見えなくても確かにそこにいる存在。
そういう《英雄》である。
(っていうか、ミントスアの護衛だけではなく、エルフの女王様にも会わなきゃとか嫌だなー)
リアは一切の音を立てずにそこに存在しながら、そんな思考をする。
別にばれないようにクラスメイトを護衛するのは面倒でもまぁ、仕事ならあきらめは出来る。しかしだ、エルフの女王であるマナは、リアにとってどうしようもなく恐ろしい存在である。
(うぅ、人族最強のエルフの女王様とか怖い。前の時にお義父さんが、私をエルフの女王様の所までやらなかったら知り合いにもならずにすんだかもしれないのに)
恨めしそうにそんなことを考える。リアにとって自分よりレベルの高い存在は特に恐ろしいもので、マナが敵に回ったらというもしかしてを考えて、今日も怯えていた。
「そろそろ行きましょうか」
レクリア・ミントスアはそういって微笑む。優しい、穏やかな笑みは学園で成績優秀者とはいえ、生臭い戦場を経験したことがない笑みである。
不安何て欠片もなく、ただ、エルフの国に帰ろうとしている。
そういう、表情を浮かべている。
色々なものに不安しか感じていないリアからしてみれば、まったくもって考えられないような楽観さである。
まずレクリアと護衛たちは、船着き場のある町まで移動するようだ。
(うーん、遅いなぁ。まぁ、普通旅って色々とな事を想定して、体力とか色々温存して行うものだしなぁ)
リアは旅路の遅さにうーんと微妙そうな顔である。
それもそうであろう。リアはMPを思いっきり使って《何人もその存在を知りえない》、《空中歩行》、《瞬速》を活用して一気にかけていくのだから。
(あ、魔物だ)
リアはレクリアたちが移動している中で、魔物を探知する。
(ちょっとくらい目をはなしても護衛いるし大丈夫だよね? とりあえずあいつ殺してこようと)
そんな軽い調子でいっているが、リアが探知した魔物は一般的に見て脅威といわれている《レッドタイガー》である。二メートル以上ある身体を持ちながら驚くべきスピードで襲い掛かってくる。そんな存在であるが、敵を認識する前に、首を飛ばされていた。
よっぽどの強者ではないとまず、リアの存在に気づけない。
そして存在を気づけていない状況で振り下ろされる刃に対処することも出来ない。
リアはそれらを手馴れた様子で解体して、《アイテムボックス》の中へと突っ込む。
レクリアたちのもとへ戻れば、丁度魔物に襲われていた。
とはいっても《レッドタイガー》よりは弱い存在たちである。
レクリアの護衛たちは、
「くそっ、本当にいるのか」
などと文句をいっていた。
(いるよ。ちょっと他を対処していただけだよ)
なんて内心考えながらリアは、魔物の命を散らした。
「え?」
目の前で対峙していた魔物が一瞬で肉塊に変わっていったのを前に、彼らは目を剥く。
そうしている間にも、リアの手によって魔物たちは次々と葬られていく。
気づかれないように近づき、気づかれないように切り裂く。
リアがやっていることはそれだけであるが、見ている方からしてみれば気づけば次々と魔物が肉塊へと変わっていくという状況である。
「これは……」
「《姿無き英雄》様ですね……。凄いですわ」
声を失う護衛たちと、感嘆の声をあげるレクリア。
そんな声を聞きながらもリアはこそこそとしながら姿を現さないのである。




