護衛任務の前のひと時
さてさて、レクリア・ミントスアの護衛依頼をこなすことになったリアであるが、その前に何をやっているのかといえばのんびりとしていた。
《何人もその存在を知りえない》を行使して、ソファに寝転がっている。その場でのんびりとしているネアラはもちろんのこと、リアがそこで寝転がっているなんてこと欠片も気づいていなかった。
いい加減、自宅でぐらいユニークスキルを使うなとでも突っ込まれそうな話であるが、リア・アルナスという少女は基本的に誰にも悟られずに隠れる事を望んでいたのである。
(ああ、もうめんどくさい。レクリア・ミントスアの護衛とか。これも全てティアルク・ルミアネスのせいだ。半殺しじゃなくて、殺しておくべきだったかなー。でもルノさんたちの弟子を好き好んで殺したいわけではないし。次何かばらすようなら殺そう)
物騒な事を考えながら、寝転がっているリアである。
「………リア姉は今日も不在か。稽古をつけてもらいたかったのだけれども」
ネアラはそうつぶやく。すぐ近くのソファでリアが寝転がっているだなんて想像もしていないことであろう。
その場にいる存在に悟られることなく、話を聞いている。
リアはそういう存在であった。
ネアラが独り言をいうのを聞いているのなんて日常茶飯事であるといえた。
(それにしてもネアラって独り言多いよね。このままの調子でいけば私の私によるネアラの独り言集でも作ろうと思えば作れそうだ)
リアはそんなことさえ考えているのだから、ネアラがその事実を知ったらどれだけ動揺することだろうか。
というか、自身の独り言集なんてものが作られていたらそれはもう恥ずかしくてたまらないのは当然であろう。リアの恐ろしい所といえば、その強さももちろんだが、その隠密能力にあることは間違いない。
誰にも知られることなくその場に存在する。
誰にも悟られることなく話を聞くことが出来る。
誰にもわからないままに移動していける。
そういう存在が故に恐ろしいのが《姿無き英雄》である。
(ネアラは稽古をつけてほしいのかー。まぁ、今度気が向いたら見てあげようかな)
なんて思っていたら、壁が回転して「リアちゃんって、いないし」と言いながらソラトが現れた。
ソラトはリアがそこにいることをもちろん知らない。
というより、レベルがリアより低いソラトはリアを認知することが出来ないのであった。
「ソラ兄……リア姉ならいないです」
「うーん、リアちゃんすぐどっかいくからなぁ。いや、もうもし部屋にいたとしてもわかんないしなぁ」
「リア姉のユニークスキルって凄いですわね」
「ネアラはまだ解放していないんだよな?」
「はい。まだですわ。ソラ兄は……《炎剣》のスキルといえば有名ですね。私もリア姉とソラ兄のように役立てるユニークスキルを解放したいのですが」
ユニークスキルといえどもピンからキリまであるのである。ユニークスキルの中には役に立たないものも多くある。その点を言えばリアの《何人もその存在を知りえない》とソラトの《かくて炎の雨は降り注ぐ》は実用的なものであるといえるのだ。
リアのユニークスキルは派手さはないものの、使い勝手が良い。こっそりと、誰にも知られることもなく動くことが出来る。
ソラトのユニークスキルは派手で、対象を一気に殲滅できるほどの攻撃力を持っている。
そういうユニークスキルを保持しているリアたちの事を羨ましいと感じているようである。
「そうか。お前もそのうち解放するだろう」
と、そんな風にソラトがいうのはなんだかんだでギルドマスターが認めた存在であるネアラがそのうちユニークスキルを出現させるということは目に見えていたからだ。
(ソラトもなんだかんだでネアラの事気に食わなくても面倒は見る気はあるみたいだなー。素直じゃないなぁ。まぁ、かわりに面倒見てくれるなら助かるけど)
というよりリアは基本的にユニークスキルを行使して、こそこそしているためにソラトの方がネアラと接している時間の方が長いだろう。
「……リア姉は今、何処で何をしているのでしょうか」
「さぁな? リアちゃんのことだから……また魔物を狩っているとか?」
正直幼馴染のソラトにとってもリアの事は謎である。転生者だということは誰にも言っていないので、リア以外その事実は知らなかったりもする。
リアはそういう人間なのであった。
(私はここにいるんだけどなぁ。まぁ、いいんだけど。全然気づかないと安心できるなぁ。そこそこレベルの高いソラトにも気づかれないっていうのは安心できる)
リアはそんな風に考えながらもソラトとネアラの会話に加わることなくのんびりとし続けるのであった。




