定期試験の勉強をする。(どの程度手を抜くか)
「リア姉に、ソラ兄……なに、してんの?」
珍しく姿を現したと思ったリア(いまだにネアラに慣れてないらしく時々しかネアラの前に姿を現さない)と最近姿も見ていなかったソラトが家でなぜか教科書を広げて机と向かい合っているのを見て、ネアラは思わず問いかけた。
二人が学園に通っていることは知っているが、こうして勉強している姿をネアラが見るのははじめてのことであった。
「……試験、勉強」
「リア姉たちって……、勉強必要なの?」
「手を抜く、勉強」
「はい?」
ギルドの高ランク所持者が勉強必要なのかと問いかければ、手を抜く勉強なんて言葉がかえってきてネアラは驚いたように声を上げた。
(手をぬく勉強って、何?)
などとネアラが考えるのも無理はないだろう。
第一ネアラは、リルア皇国の皇女として生きてきた。その皇女として相応しくあろうと一心に勉強をし、その実力を認められていた少女。それが、ネアラだ。
父親である皇帝が亡くなったことにより、命を狙われ、国を追われたものの、皇帝が死ななければ今頃立派に次期皇帝として様々な知識を身に着けていたことだろう。
そんなネアラにとって勉学とは、全力を尽くして励むものである。
勉学とは、そういうものである。第一、あえて手を抜くなんてするものはほとんどいないだろう。
「……目立つ、や。だから、平均点、とる」
「……目立つの嫌だからって平均点目指すの?」
リアの言葉に益々何とも言えない表情を浮かべるネアラである。目立つのが嫌だから平均点を目指すだなんて、どう頑張っても平均点しか取れないような人たちからしてみれば憤慨ものであろう。
学園は、実践経験を学ぶための場所であり、社会に出る前の少年少女たちの学び舎である。
リアとソラトは、もう既にギルドという社会に出ている身であり、実践経験は沢山している。それこそ、ギルドの高位ランク所持者はそんなもの経験しなれているとしか言いようがない。
事実、《姿無き英雄》として活躍しているリアは、実践経験は誰よりもある。
リアが資格がほしいなどとよくわからない思考をしているからこそ、学園に通っているだけの話であって、本来リアもそしてソラトも学園に通う必要は全くない。
「ん。私は平穏に、学園、卒業、したい」
「俺はただリアちゃんと一緒がいいから手を抜いて遊んでいる」
二人の言葉を聞いて、ネアラは益々何とも言えない気持ちになって仕方がなかった。
ギルド最高ランク所持者にして、英雄の一人ともいえる《姿無き英雄》は学園を平穏に卒業したいなんていって。
その幼馴染でギルド高ランク所持者である《炎剣》はリアと一緒が良いなどと口にして手を抜いて遊んでいる。
本気で勉強をしているものに本気で怒られそうな話である。
しかしそういう風に色々と普通からずれているからこそ、少女と少年は強者になりえたのだろう。
「……そう、なの」
「そう。ネアラは、どのくらい……手をぬくべき、思う?」
「どのくらいって、手を抜く勉強とかそんなのしたことないからわからない」
正直リアに問いかけられてネアラは困った。手を抜く勉強なんて正直な話をすればやったことなどない。それに仮にも皇族として生きてきたネアラに学園に通う生徒たちの平均なんてわかるはずもない。
だからこそ、当たり前の言葉だといえるのだが、ネアラの言葉にリアは不服であったらしい。
「使えない」
などとばっさりと自分勝手な言葉を言い放つと、ネアラに対する興味も失せたとばかりに、教科書と向き合う。そしてどのくらい手を抜くべきかと頭を抱える。
「うーん、ここはこのくらいはわかってて、これはわからない?」
「いや、リアちゃん、このくらいは一般常識として知っているんじゃないか?」
「……ソラトに一般常識語られても」
「リアちゃんに言われたくない」
「……観察は、してる。でもどのくらいなら、知っているかとか知らない」
「観察しててもそこまでわかんないよな。てか、リアちゃん相変わらず盗み聞き続けてるのか」
「盗み聞き違う、情報収集」
盗み聞きなんて嫌な言い方をされたのが嫌だったらしく、リアはキッとソラトの事を睨みつけた。
「やっていること一緒だからね、リアちゃん。まぁ、俺はリアちゃんに知らない間に何を聞かれてようと嬉しいけれど」
「変態」
「別にリアちゃんになら罵倒されても問題なし。他の奴ならぶちのめしたくなるけど」
「やっぱ、変態」
溜息混じりにリアが発した言葉でさえも、ソラトにとっては嬉しいことであるのかにこにこしている。そんなソラトを相手にするのもリアは面倒になったのか、それ以上何も言わずに教科書へと視線を落とした。
リアとソラトには一般常識というものが正直欠けている。
それは、彼らが強者の位置に僅か十代にして到達しているからこそである。普通では経験しない事を彼らは経験し、成し遂げている。そんな彼らに普通の生徒ならこれを知っていて、これを知っていないとかそういうことがわかるかといえばわかるはずもなかったのである。
そんなわけで、手をぬくために《姿無き英雄》と《炎剣》は頭を悩ませながら苦戦するのであった。




