エピローグ
5/9 7話連続更新
霊榠山と呼ばれる、山の上。
そこに《姿無き英雄》――リア・アルナスの姿がある。
学園の卒業式を終えた後、彼女はソラトの誘いを断って友人であるルーンの元へと向かった。
ソラトは「俺はリアちゃんと一緒がいいのにぃいいい。リアちゃんの友人のドラゴンが羨ましすぎる」と煩かった。どちらにしてもこれから彼女は新米薬師として働き出し、そして同じ街でソラトも働くことは決まっているのだ。なので、これからも交流がないわけではない。寧ろソラトはなんだかんだリアに関わり続けようとはするだろう。
なので別に騒ぐほどのことではない。ただしソラトは彼女と卒業祝いをしたかったようで、騒いでいた。
そもそも学園生活を行う過程で彼女が友人のドラゴンの元を訪れたのはそこまで多くない。学生としての姿とギルドの一員としての姿を持つ彼女は忙しく、そこまで友人の元へ行けるわけではなかった。
心が広い人間なら友人の元へ行くのを推奨するだろうが、生憎ソラトは心が狭いので「俺と一緒に卒業祝いしてほしかった……」とどちらかというとルーンに嫉妬している。
「あーあ、結局学生のうちにルーンに勝つことは無理かぁ」
学園生活の三年間、リア・アルナスは相変わらずレベル上げに勤しみ、その強さを磨いてきた。様々な経験をしてきた。
それでも、友人であるルーンにはまだ勝てない。
こうやって自分ではまだまだ勝てない相手に遭遇すると、リアはこの世界には本当に強者が多すぎるとそう感じてならない。どれだけ自分自身を磨いても、強くなったとしても――まだまだ先がいる。
(……アスラードとか、プルフェみたいなのもいるし。うん、人の噂になっていないだけで強い存在は世の中にはたくさんいる。いつか、そういう存在全てに勝てるようにならないと)
彼女はいつだって強くなることに貪欲で、どれだけ自分では勝てない相手と遭遇しても強くなることを諦めない。
「それでも昔よりは強くなっている」
「それは私も実感しているけどさ、もっと強くなりたいなぁ」
強くなりたい、と彼女はルーンの言葉に口にする。
彼女の望んでいることなど、いつだってそれだけなのだ。
「リアよ、卒業したんだろう? おめでとう」
「ありがとう」
「卒業後は薬師になるんだったか」
「うん。そうだよ。ここから少し距離がある街で新米薬師になるから、たまにしかルーンの所にはこれなくなるかな」
彼女の就職先は少しだけこの山から離れている。なのでこれまで以上にルーンの元へ訪れるのは少なくなるだろう。
「でも薬師として就職しても、私、強くなるよ。次に会った時にルーンに勝てるように」
「いずれそうなるだろうな」
「そうなるようにする。でもすぐには無理かもだけど」
なんだかんだリアは現実が見えているので、現実的に考えてすぐにルーンに勝てるだけの実力を身に着けられるとは思っていない。とはいえ、いつか必ずルーンに勝てるだけの強さを手に入れることを一つの目標にしている。
その目標は、学生時代を終えたとしても、これから就職をするとしても変わらないものである。
「お前はこれからどれだけ強くなるだろうな」
「そんなの、何処までもだよ。――私の命が続く限り、私は強くなり続けるから」
ルーンの言葉に、リアは自信満々にそう答えた。
「それじゃあ、ルーン。またね。その時は、覚悟して」
「ああ。またな」
そしてそのまま軽い調子で、彼らは会話を交わし別れる。
転生をした少女は、死を経験したからこそ死にたくないと願った。
だからこそ、ひたすらに強くなることだけを望み続けた。
人前に出ることを嫌がる彼女は、自分の正体を隠し続ける。姿を現わさずに暗躍し続け、その存在を世界に刻み続ける。
彼女の正体を探る者は多くいるが、彼女自身に到達できる者は今の所いない。
――彼女はこれからもただ、強くなることを望んで暗躍し続ける。
完結させると前々から言っていましたが、他の作業や若干スランプ気味になっていたりして完結まで時間がかかりましたがここで完結です。
色々中途半端な面もあるかもしれませんが、元々リアの学園生活を書こうと思って書いた作品なのでリアの三年間を書けたので満足はしています。予定していた入れたいことは詰めこめはしたのかなと思っています。
これからもリアの日常は続いていくので、気が向いたら新米薬師編を書き出すかもしれないです。
設定や話自体は私の学生時代に思い浮かんでいたものになるので、矛盾点など多々あるかもしれませんが少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
リアはこれからも正体を隠しながらただ強くなるためだけに行動し続けるでしょう。あまり喋らずに、誰の前にも姿を現わさずに、裏で行動し続ける子なので途中書きづらさもありましたが楽しんで書きました。
100万文字、460話もあるので此処まで読んでくださった方は本当にありがとうございます。しばらく閉じていた感想、解放したので感想など頂ければ嬉しいです。
2024年 5月9日 池中織奈




