学園の卒業式 ②
「僕はこの学園に通うことができ、多くの仲間と出会えたことを誇りと思っています」
ティアルク・ルミアネスは、生徒会長として卒業式で挨拶をしている。リアはその話を話半分で聞いている。
ティアルクがギルドランクA保持者であることが広まっているのもあり、言葉を発するたびに周りが騒がしい。……一部ではティアルクがいるからこそ、ギルドマスターが目をかけてこの場に赴いていると勘違いしている者もそれなりの数がいるようである。
(ハーレム主人公は、卒業後もハーレムを解散させるつもりは全くなさそうだからなぁ。まぁ、ギルドで働いている分お金も余裕あるだろうし……よっぽど強くなろうとしない限りは無茶もしないか。というか、《超越者》に至る人が少ないのってそういう才能があったとしても途中で満足してしまうからというのもあるのかな?)
ティアルクのことを時折観察していたリアは、そういう結論に至る。
(まだイルバネスの方が強くなろうとしている気概はあるからなぁ……。途中から泣いているし。なんか卒業後も学園に関わっていきそうだなぁ……。そういう平穏な日々を過ごしていきそうなイメージ)
ティアルクは舞台の上で涙を流しており、それに感化されている者も数多くいるようである。
涙を流していないものも感動した様子を見せていたりする。……リアとソラトはいつも通りで、カトラスも特に表情は変えない。
「――以上になります」
そして、ティアルクの言葉が終わった後、卒業証書授与式が行われる。これに関しては全員分行うと時間がかかるため、短縮されている。クラスの代表が取りにいく形である。
もちろん、リアたちは一切目立つ行為はしておらず、どちらかというと平凡を装っているので代表として取りにいくことはない。彼女からしてみれば、何かの代表になるなどという面倒なことは絶対にしたくないのであった。
(卒業証書は、受け取ったら大事にはとっとこう。後々役に立つ可能性はあるし。師匠にも見せなきゃだし)
正直リアほどの実力があるのならば卒業証書などなくてもどうにでも生きていける。しかしまぁ、普通を装うためにも必要なものではある。
卒業証書授与式に関してもリアはただ無言で、表情一つ変えずに参加していた。
それが終わった後、ギルドマスターや学園長の挨拶がある。
「学生諸君、何歳からでも《超越者》は目指せるものだ。人生経験があるとか、ないとかそんなものは関係ない。それを目指すのならばこれからでも足掻けばいい」
ギルドマスターはそう言いながら、ちらりと周りから悟られないようにリアに視線を向けていた。
(お義父さん、こっち見ないでよ!! 《超越者》の話をしているのは私とソラトがいるからだろうな。あとはイルバネスの話も聞いた上で、激励しているのかも。ソラトはお義父さんの言葉とか抜きに《超越者》を目指すだろうけれど。お義父さんの場合は《超越者》が増えれば増えるほど面白いとそう思っているんだろうけれど)
ギルドマスターは愉快犯である。だからこそ、リアやソラトがこうやって普通に紛れて学園生活を送り、無事に卒業までしようとしていることが面白くて仕方がないのだろう。
後々、リアとソラトの正体が学園の生徒達にばれることがあるかどうかは分からないが、どちらに転んでも興味深いことなのだろう。
(……お義父さんの話を皆真面目に聞いているな。結局こういう話を聞いたところで、《超越者》になれるかどうかって本人の頑張り次第だけど。私はお義父さんの強さに関してはいずれ超えなければならない目標ではある。でもそれだけなのだけど、こうやって真面目に話を聞いている人たちってお義父さんのことをなんだか特別視している感あるなぁ。《超越者》とはいえ、同じ人間ではあるのだけど)
どちらかと言えば、同等の存在としてではなく自分よりも上位にいる追いつけないものとして見ているのだろうか。そういう考えをしていると、結局《超越者》には至れないものだ。
リアはギルドマスターの話を聞きながら、そんな思考をしていた。
さて、そのギルドマスターの話を終えた後は学園長の話が始まった。リアはその話も適当に聞いていた。……卒業式の最中、周りが見ていないからとソラトがリアに時折視線を向けていた。それに関しては彼女は後から文句を言っておくことにする。
卒業式では特に何の問題も起こらなかった。これに関してはギルドマスターが卒業式に訪れるというのもあり、きっちり事前に調査が行われた結果だろう。折角のリアの卒業式なので、彼女の手を煩わせたくないという親心でも働いたのかもしれない。
さて、それから卒業式を終え、解散した後にギルドマスター、リア、ソラトは集合していた。
「リア、ソラト。卒業おめでとう」
笑ってギルドマスターがそう言えば、リアとソラトが会話を始める。
「ん」
「リアちゃん、おめでとー!! 一緒に卒業祝いしようよ」
「やだ」
「えー? いいじゃん。狩りとかでもいいよ!! リアちゃんが食べたいっていうものでも全部俺が揃えるよ?」
「やだ」
ソラトの提案はばっさりとリアに断られていた。
卒業式と言う場でも、相変わらずの二人の様子を見てギルドマスターはおかしそうに笑うのだった。
――そうして、《姿無き英雄》と《炎剣》は学園を卒業した。




