久しぶりの学園 ③
「ソラト先輩!! 私、繁殖期で頑張りました!」
さて、リアはティアルク・ルミアネスを観察した後、別の場所へと移動した。そしてそこで見かけたのはソラトとポユである。
そこは誰もいない空き教室。誰もいないその場所でだからこそ、ポユは話しかけた。
相変わらずポユはソラトに興味津々で仕方がないようである。
ソラトの卒業まで残り僅か。……その間に自分に興味を持ってもらいたいなどと、そんな叶わぬ希望を抱いているようである。
彼のことをよく知っている者からしてみれば、ポユへ関心が向けられることなどありえない。
その心にあるのは、リアのことだけなのだから。
「……それが?」
ソラトは興味がなさげである。
ポユがどれだけ頑張ろうとも……彼はどうでもいいのである。正直に言えば繁殖期で死んだとしても彼はなんとも思わないだろう。
それだけの温度差が彼らの間にはある。
ポユはソラトがそれだけ冷たい対応をしていても、めげることなく話しかけている。
「ソラト先輩も繁殖期でおそらく活躍されたのですよね? どうでしたか?」
ポユはソラトが繁殖期において活躍したことを確信している様子であった。彼はポユの質問を聞いて面倒そうにポユを見ている。話すのさえも面倒だと思っているのだろう。
「それをお前に話す必要はないだろう」
その言葉には、何の感情も乗っていない。
(ソラトは自分の情報を漏らすような人間じゃないもんね。ここでソラトが何かしらの情報を漏らして、それが《炎剣》と繋がることを嫌がっているんだろうなぁ。それにソラトは別に自分のやったことを周りに大々的に広めようなどと思ってないだろうし)
じっと、リアはその会話を見ている。
ソラトもポユも気づかない中で、彼女はただ佇んでいる。
「……ソラト先輩、本当に卒業後、私と関わってくれませんか?」
「何度も言わせるな。その必要性はない。……それと俺のことを少しでも漏らしたら殺す。それは卒業後もだ」
「………本当に、ソラト先輩はぶれませんね? それだからこそソラト先輩なのですけれど。でも私は関わりたいです。卒業後の進路は――」
「もしそれを知っていたとしてもお前がやってきたら俺はお前を殺す」
「……はい」
ソラトの卒業後の進路は、リアが薬師見習いを始める街で働くである。調べようと思えばソラトの進路をポユは調べることは出来るだろう。――ただし、それをわざわざ調べてのこのことやってくることがあれば、ソラトは躊躇なくその命を奪うと先に宣言している。
卒業後はリアと少しは仕事の関係で関わることもあるだろう。もしソラトがきっかけでリアのことまで知られては目も当てられない。そんなことになればソラトはリアに怒られてしまう可能性が高く、それだけは避けたいのである。彼にとってはポユの命よりもずっとリアの機嫌の方が重要であった。
「えっと……ソラト先輩のことを言わない代わりにたまに――」
「何か条件付けようとするなら今すぐ殺して、秘密裏に処理するけど?」
「……はい。ごめんなさい」
ポユはソラトと関わりを持ち続けたいと声をあげるが、そんな提案にソラトが頷くわけがないのである。
彼の心を動かすのはそもそもリアに関連することしかない。なので、リアにまつわることで何かしらの利点がなければソラトは誰かと関わろうとはあまりしないのである。自分からプライベートで関わろうとするのは、全部リア関連の人物ばかりだ。
「……その、ソラト先輩と私は二度と会えないのは嫌です」
「俺は会えなくていい」
「わ、私がもっと強くなれたら――ソラト先輩は私の言葉を聞いてくれますか?」
「強くなろうがどうでもいい。関係ない」
その言葉は正しくは少し違う。リアの関心を奪うほどの強さをポユが持つことが出来れば……、リアが興味を抱いたからとソラトは関わる価値があると判断するかもしれない。ただしポユがそれだけの強さを持ち合わせる可能性はほぼないと言えるだろう。それだけの強さに至る者は限られるだけだ。大体がその前に、目標半ばに死ぬ。
《超越者》になり得ると期待されたものであろうとも、多くがそうだ。
今の所、同年代では戦闘能力があるだけのポユではどうしようもないだろう。
「……それでも私はソラト先輩を目指します」
「勝手にしろ」
どこまでも彼は冷たい。目指されたところで、どうもしない。
ポユはソラトが《炎剣》と呼ばれていることさえも把握していない。それでいてソラトが最も大切にしているリアの存在も知らない。それでは結局どうしようもないのである。
それからポユはしばらくソラトに話しかけていたが、結局冷たくあしらわれて終わるのであった。
――ポユは、ソラトの卒業後に彼と関わることは本当になくなることだろう。ポユ自身がどれだけそれを望んでいても、彼はそれを拒否するのだから。
そしてポユがその場を去った後、リアはソラトの前に姿を現した。
「リアちゃん!! いつから聞いてたの?」
「割と最初から。ソラト、繁殖期で活躍した聞いた」
「リアちゃん!! 俺の活躍届いてたの? 俺、頑張ったんだよ?」
「ん。頑張ったのは知ってる。褒める」
「リアちゃん!!」
「抱き着こうとしないで」
ソラトはリアに褒められて勢いよく抱き着こうとしていつも通り避けられていた。毎回避けられているのに性懲りもなく抱き着こうとするソラトであった。
彼女は感情の窺えない表情で、淡々と褒めているだけだ。それでもソラトにとっては嬉しくて仕方がないのかにこにこしているのであった。




