ソラトは今日もリアのことしか考えていない ⑤
「あなたが《炎剣》殿か!」
「噂は聞いているぞ。ギルドマスターから直接、依頼を頼まれたのだろう」
ロスに連れられてソラトは彼らが現在拠点としている場所へと連れて行かれた。そこに行くと、ロスの弟子たちに囲まれる。
ソラトは仮面の下で、嫌そうな表情を浮かべる。
「……今の状況は?」
無駄話など要らないとばかりにソラトがそう問いかければ、彼らは街の状況を語り出した。ソラトに対して笑顔を浮かべたままである。おそらくソラトがどういう性格であろうとも、《炎剣》と呼ばれるだけの強さがあるならそれでいいのだろう。
それだけ強さというものが重要で、ソラトは強さも実績も持ち合わせているのだ。
「反乱軍の数は日に日に増えている現状です」
「このあたりは繁殖期の影響はそこまで受けていないのか?」
「そこまで大きな影響は受けてないです。というより、ギルドメンバーと領主軍が周辺の魔物は倒しているので」
守られている状況であるというのに、その守ってくれている相手に牙をむいている状態というわけである。
「いっそのこと、一旦魔物討伐を中断して危機感持たせるとかは?」
「……《炎剣》殿は凄いことを考えますね。それも一つの手かもしれませんが、そんなことをしたらギルドの評判にも関わりますから」
凄いことなどと言われたが、そのくらいした方がいいとソラトは思う。
結局のところ口で話しても納得がされないというのならば、無理やり納得させるしかないだろう。
(それにしても自分たちのことを守ってくれているはずの存在のことを倒そうとするなんて。こういう時期に反乱を起こすようなやつが魔物の対応をきちんとやるとは思えないし)
魔物の繁殖期という非常時に、自分が権力を持ちたいという欲の方を優先する存在が権力を手にしたところでどう動くかは想像するのはたやすい。
そうなればますますこの街は混沌に包まれ、魔物による襲撃で命を落とす者は増えていくだろう。
領主たちは一生懸命、魔物から領民たちを守ろうとしている。しかしその領民たちから対応が遅れて死人が出てしまったという一点のみで責められ続けている。
(……貴族は大変だ。世の中にはろくでもない貴族も確かにいるが、結局自分たちが正しい行動を行ったところでこうやって反乱を起こされたりする。資料を見ている限りこの街の領主はまともな貴族だ。領民たちに対しての思いやりを持ち、自分の治める領地を正しく運用しようとしていてもこうだからな。俺は貴族位とか絶対に要らないな)
ギルドに所属する者の中でも活躍した結果、貴族へと至る者はいる。それなりに活躍すれば国にも目をかけられ、そうやって貴族位を得る。ソラトもやろうと思えば貴族位を得ることぐらい簡単である。
しかしそんなものはソラトには不要だ。そんな地位を手に入れたところでリアが振り向いてくれるわけでもなく、リアを追いかけまわす時間が減ってしまうだけだ。
「《炎剣》は魔物討伐以外はあまりやってこなかったのだろう? あまりにも強引な対応は反発を産む。そのあたりは気をつけた方が良い」
「そうですね。俺は魔物討伐がメインです。では、《炎槍》はどのように対応するつもりですか?」
ロスからの言葉にソラトは、声色一つ変えずに問いかける。
《炎槍のロス》という自分よりも上位の存在からの言葉も特にソラトの心を動かすにはあたらない。
「冒険者や反乱軍の甘い言葉に騙されてしまった一般人たちの説得を続けている。どうやら反乱軍に一度所属した者は、抜けることが容易ではないようだ」
「そうですか」
「あの外道共は、冒険者の一部を人質を取って言うことを聞かせるということもしているようだ。それらの救出も必要であろう」
自らの意思で反乱軍に手を貸している者もいれば、大切な人を人質に取られたため反乱軍に加担しなければならない者もいるようだ。
反乱軍たちは味方の数をそれだけ増やしたいのだろう。
領主側の人々は、魔物への対応で少なからず動かせる人数は減ってきているはずだ。だからその隙をついて領主の座を奪ってしまおうと考えているのかもしれない。
(正式な手続きを踏まずに領主としての権限を得たところで、鎮圧されるだけだ。今は繁殖期の本格化で余裕がないだけで、常時であればこれだけ調子に乗って動くことだって出来ないだろうに)
領主の座というのは、国から与えられているものである。だというのも関わらず無理やり力でそれを奪おうとしている。それを奪うことをゴールと考えているかもしれないが、そうではない。領主の座を奪ってしまえば、国も黙ってないのでいずれ鎮圧されるのが目に見えている。
(……自分たちが成功する未来しか考えてない? それはそれで馬鹿すぎる)
領主の座を強引に奪い、その座を保守し続けるなんていうのはよっぽどの力がないと出来ないことである。ソラトは聞けば聞くほど呆れてしまった。
「まず《炎剣》には人質たちの救出を頼みたい」
「わかりました」
ソラトはロスの言葉に頷き、救出のために動くことになった。




