それは世界を滅ぼす災厄のようなものらしい ⑥
急所。
それはそう呼ばれる個所なのだろう。
だからこそ、暴れる。
(あー、凄い水しぶき。魔力が暴走していて、危ない感じ)
魔力が溢れている。その魔力は彼女に襲い掛かる。彼女を支配下におさめようとそういう本能が働いているのだろう。だけれどもそれが分かっていてそのまま支配下に降りるような彼女ではないのだ。
彼女の魔力と、魔物の魔力が反発しあう。魔物の魔力は、彼女に襲い掛かり続ける。
(鬱陶しい。でもどうにかするしかないか)
魔力による干渉を彼女がはじけるのは、それだけ魔法を極めているからである。自分が生きやすいようにするために、必要だと感じた時に彼女は常に魔力を使っていた。魔力回復薬などをがぶ飲みしながらも常に魔力を使用し続けたリアだからこそ出来ることである。
なんせ彼女は、目立たないように魔物を狩り続けることに命を賭けているといっていいほどに躊躇せずに鍛錬し続けていたのである。
なかなか自分の思い通りにならないリアのことに、その魔物は苛立ちを感じている様子を見せている。
(私の方に魔力のリソースを割いているから、その分、他への支配は単純なものになってそう? いや、でも無差別気味に魔力を垂れ流しているから周りの生物たち変な影響受けているなぁ)
彼女の視界の隅で、その魔物の影響を受けていた水中の魔物たちが暴れている。……魔力の影響を受けてしまったからか、正気を保てていないのだろう。強すぎる力は身を滅ぼすものだ。影響を受けた魔物たちからしてみれば、その大きすぎる魔力には耐えられなかったのであろう。
まだ人が影響が少ないのは、距離があるからだろうか。
その魔物と距離の近い魔物たちの方が、大変な状況だ。
(力任せに暴れられるのは面倒だけど、まだ水中から出てこないならいいか。とりあえず、引き続き攻撃)
魔力による干渉、触手による攻撃。
――それらを全て交わしていく。
少なくとも魔力による干渉は、その干渉を一度受けてしまえばリアであろうとも大変なことにはなるだろう。だからこそ、彼女は注意を払いながらその魔物にとっての急所と呼ばれる場所にひたすら攻撃を繰り出す。
それは地味な作業である。
一撃でその魔物を華麗に葬るというわけではなく、急所を少しずつ攻撃してその魔物の息の根を止めるためだけに行動をする。
勝利することに固執し、素早く対処することを求めれば気を抜いてその魔物に意識を持っていかれてしまうことだろう。
彼女はあくまで冷静である。
目の前の敵を倒すために、最善の行動を選択し続ける。
一瞬の油断が命取りになる状況で、それを選択し続けるのは難易度が高いことである。
その魔物の急所と、影響を受けた魔物たちへと攻撃を繰り出し続けるリア。
彼女という脅威を排除すべく、魔力で支配下に陥らせようとし、影響を受けた生物たちに攻撃をさせようとするその魔物。
――その攻防は、それなりに長い時間繰り広げられた。
少なくとも基本的に一振りで魔物の命を葬ることの多いリアからしてみれば、長い時間だったと言えるだろう。
何度目だろうか、急所へ繰り出される連撃。
――それで、その魔物は息絶えた。
でも息絶える時でさえ、その魔物は厄介だった。死に間際に大量の魔力を外へと放出しようとしていたのだ。
それが魔物にとっての最期の一手だったのだか、それとも死に際にはそういう風に魔力を放出するように出来ているのか彼女には分からない。
(外に魔力が漏れないようにするか)
咄嗟に結界を張り、その魔物の最期の魔力が外へと漏れないようには対応した。結界の中では魔物の魔力が蠢いている。
(……このまま《アイテムボックス》に突っ込める? それまで結界張りっぱなしだとちょっと大変だけど、仕方ないか)
彼女はそう判断して、結界でその魔物の巨体を囲んだまま《アイテムボックス》の中へと突っ込んだ。
――レベルが上がりました。
――称号《災厄殺し》を獲得しました。
そしてその瞬間に、アナウンスが鳴った。どうやらその魔物はよほどの存在だったのだろう。少なくとも世界から《災厄》だと認定されるぐらいには。
この場にいたのがリアだったからこそ問題がなかったが、そうでなければ大変なことになっていたかもしれない。
《超越者》であろうとも《災厄》などと呼ばれている存在の支配下に陥った可能性があるのだ。彼女でさえも、それは浴びると危険だと判断したのだから。
支配を受けていた魔物たちに関しては、全部狩った。
人々に関しては、その魔物が死んだと同時に意識を失ったようだ。
その人々に関しては、専門機関に見てもらうように文字で起こしておいた。とはいえ、その街の一部の者たちは「どうして《姿無き英雄》様は被害者を出さずに倒してくれなかったんだ」と文句を言っていた。流石にこういう状況だったのでそういう声は一部だったが、リアからしてみればあれだけの存在を相手にこれだけの被害で済んだのが良かったこととしか言いようがない。
(世界に《災厄》認定されているものだから、倒せなかったらこの街じゃなくてあらゆる場所で魔物に支配された生物が増幅して大変なことになっただろうしな)
おそらく《災厄》と認定されているぐらいなので、あらゆる生物を支配下に置けるのだろうということが分かる。後になって存在を認知しても、支配下の生物たちが厄介で倒すことが難しくなっていた可能性がある。だからこそ、この段階で倒せたことは本当に運が良かった。
彼女は文句を言う者たちを相手にしている暇などないので、そのままその街を後にするのだった。




