友人との会話を終え、エルフの国へと向かう。
「あーめんどくさい」
「面倒だとは言っても、あのエルフの国の女王の誘いを断れないのだろう? あきらめて行ってこい」
「もー、ルーンは冷たいなぁ。折角会いに来た友人が落ち込んでいるんだからもっとこうさー」
現在、リアは霊榠山の山頂に来ていた。リアの小さな体なんて一回で飲み込んでしまえるほどに巨大な真っ白なドラゴンがいる。
危険度最高クラスのドラゴン――――《ホワイトドラゴン》のルーンである。その隣で平然と寛いでいるリアはやっぱり色々とおかしい。
もちろん、いつもの恒例の殺し合い(遊び)を終えた後にである。神聖術によってそれで傷ついた傷はすっかり治されている。
ルーンに寄りかかり、リアは寛いでいる。楽しそうににこにこと笑う。
リアにとってみれば、数少ない友人―――いや、唯一の友人であるルーンとこうして過ごせることが楽しいらしい。ちなみにリアにとってみればソラトは幼馴染であり友人という感じではないらしい。
友人がドラゴンだけなんてやっぱりリアは強者であるのにぼっちという言葉がよく似合う。
「ふむ、なら気晴らしに散歩でもするか?」
「いいね、それ! ルーンとの空の散歩は超楽しいから好きだよ、私!」
リアが仮面の下で、楽しげに笑っている。危険度の高いこの霊榠山の山頂に好んで訪れるものはほとんど皆無であるのだが、それでも万が一の可能性を考えてかリアは仮面をかぶり、すっかり顔を隠している。
それからリアとルーンは、空中散歩を開始する。
自分の真っ白な翼で羽ばたくルーンと、《空中歩行》のスキルを用いてその横を歩くリア。
霊榠山は白い霧に覆われた幻想的な場所である。上空から見える景色は絶景の一言に尽きる。
時折互いに殺しあう魔物たちが見えたり、普段はもっと大きく見える湖が小さく見えたり、そういう光景を見ることはリアにとって楽しいことであった。
《ホワイトドラゴン》ルーンの事を恐れて山頂に近づくものがほとんどいないのもあって、この場所はリアにとってリラックスできる場所であるともいえた。
ルーンは危険な魔物の一種である。知性を持ち合わせ、圧倒的に強い魔物。人を害さないわけでも、人を食わないわけでもない。ただ必要最低限に食料確保をしている存在である。手を出さなければ特に害はない。というよりルーンを倒せる人というのは本当に限られているので触らぬ神に祟りなしである。
リアもルーンに気に入られることがなければとっくにルーンに殺されるなり、食われるなりしていたことであろう。
「あはは、楽しいねールーン」
「そうだな、しかしリアは元気だな」
「そりゃ、元気だよ。お友達と遊べたからね。それに私散歩好きなんだもん」
「リアは俺以外に友達できたか? 学園に通っているんだろ」
「えー、いないよ」
「……人の友達も作れ」
ルーンがそんな言葉を発するが、リアはそれに首を振る。
リアがかかわりのある人物たちは、義理の家族だったり、幼馴染だったり、同じギルドランクXの存在だったり、エルフの女王様だったりと友達とは違う存在たちである。
十五になるというのに、人の友達がいない状況は悲哀を誘う話だ。
最も、本人は欠片も気にしてはいないのだが。
「ねー、ルーン。これ終わったらまた殺し合い(遊び)しようよ」
「……あれだけやられてまたやる気か」
「うん。やっぱエルフの国の建国祭やだなって思って、仕方ないから付き合ってよ。ストレス発散に」
「まぁ、いいだろう」
そして結局空のお散歩を終えてから、また殺し合い(遊び)は行われるのであった。
そんな他人には理解できなさそうな友人同士の交流を終えると、リアはエルフの国へと向かうのであった。
ルーンと殺し合った(遊んだ)あとすぐにスキルを使って、エルフの国まで向かうというのだから色々と異常の一言に尽きる。
とはいえ、リアにとってみれば友人と遊んで向かっているだけという認識である。
エルフの国へはこの前と同じく、海上を歩いて《空中歩行》のスキルで歩いて向かう。《空中歩行》、《瞬速》、《何人もその存在を知りえない》の三つのスキルを併用して、のんびりとした海の旅である。
ひたすらにスキルを使用して、かけていく。
誰にもそれを悟られることなく、ただ静かに移動している。
時折MP回復薬を飲みながらも、一気に横断する。
その途中には、特に特筆すべき出来事などなく、本当にただ移動しているだけであった。
その時点でリアは色々退屈していた。
(暇だな、なんでわざわざ行かなきゃいけないんだろう。招待主がエルフの女王様ではなければ断ったのに)
などと思考して、むすーっとしていた。
相変わらずここまで来ておいて、エルフの国の建国祭に出席するのは不本意なことであるらしかった。
最もそうはいっても仕方がないことなのである。
(何か起きて建国祭にいかなくていいとかならないかなー)
と期待しながら横断していたのだが、結局今回はエルフの国につくまでの間に何かが起きるということはなかったのであった。




