それは世界を滅ぼす災厄のようなものらしい ①
リア・アルナスは、その日も剣を振るい、魔法を行使する。学園が休学になり、《姿無き英雄》として様々な場所を飛び回っている彼女は存分にレベル上げに勤しめることに満足していた。
見たことのない魔物に出会え、強敵にも遭遇する。そういう命の危機に陥っている時の方がレベルが上がりやすいと彼女は身をもってしっている。
(魔物狩り放題で、良き)
《超越者》に至っている彼女のレベルは上がりにくくなっている。だけど、こういう状況だからこそ普段よりも経験値を入手しやすい。そのことを彼女は心から楽しんでいた。
(人に関わる必要、ほぼなし。楽)
彼女は人と関わりを持つよりも、こうやって魔物を倒している時の方が楽とさえ感じているのである。
誰かと会話をすることが苦手だからこそ、こうして口を開くこともなく……ただただ魔物を狩り続けられることは彼女の気持ちを高揚させる。
街に襲い掛かっていた魔物を一閃。その命を狩る。
そして物資を運ぶ商人やその護衛たちが命の危機に陥っていれば、襲撃者である魔物の命を狩る。
魔物を狩り、その素材を《アイテムボックス》の中へと入れて、後はただ戦う。
全く人前に姿を現すこともなく、言葉一つ発さない。だけれども助けられた側は《姿無き英雄》に救われたということを分かっているからこそ、その英雄へ感謝の気持ちを口にする。リアは把握していないが、ギルドには《姿無き英雄》に救われたことに対するお礼の品が沢山届けられているようだ。
リアのことを悪く言う声がないわけではないが、それよりもずっと感謝されていることの方が多い。
リアは様々な場所に顔を出し、ただただ魔物を狩っていく。
突如として現れた大量の魔物を前に、絶望している者たち。だけどその状況をたった一人の少女が変えていく。リアがその場にいるだけで、状況は一変し、失われるはずだった命は生き永らえる。
それだけの力を彼女は持ち合わせている。
だからこそ、ギルドマスターに《姿無き英雄》に関して問い合わせる者はそれなりの数がいるようだ。どこの街に来て欲しいとか、高貴な方を守って欲しいとか、そういう彼女の事情などお構いなしに好き勝手いっているものはそれなりにいる。
彼女がそれだけ特別で、こういう状況下において彼女のような力を持つ存在を手元に置いておきたい存在は多いのだ。
そもそもリアがそれを頷くことはないだろうと理解しているので、ギルドマスターはそれを拒否している。
リア・アルナスは繁殖期の本格化の今、人の相手をすることを望まない。未知なる魔物、自分が出会ったことのないような強敵。それと戦うこと、そしてレベルを上げること。それだけしか考えていないのだ。
これで大人しく要人の護衛をしろなどと言われたら、彼女は拒否するだろう。
どれだけ戦う力があろうとも命がけの戦いに赴くことを望まず、そういう誰かの護衛をすることを望む者もいるだろう。かなりの報酬を積んで、リアのことを護衛としてとどまらせたい王族貴族もいるようであるが、彼女はそんなものには靡かない。
今まで稼いできたお金も貯めるだけ貯めており、手をつけていない。それこそ一生涯の生活費以上は稼いでいる。それは彼女があまりお金を使わないタイプだからというのもあるだろう。彼女の趣味は鍛錬であり、暇さえあればいつも狩りばかりしている。本を読むこともあるが、書籍の値段などたかが知れている。
住んでいる家に関しても、《超越者》が住まっていると思えないような場所であり、食事に関しても関心がない。どこかに出かけるにしても自分の足でスキルを使って出かけ、泊る場所も普通の宿か野宿。なるべく人前に姿を現したくないと思っているので、中々お金も使わない。
なので《姿無き英雄》をそういう報酬で釣ろうとしてもどうしようもないのである。
(次は……此処にいくか)
彼女の頭の中は、新たな魔物との出会いしかない。
どんな恐ろしい魔物がいるだろうか。そしてその魔物はどれだけ戦い甲斐があるだろうか。そして自分のことをどれだけ強くしてくれるだろうか。そういうことで頭がいっぱいである。
マッカージのようなギルドマスターから信頼を得ているギルド職員の前に顔を出しては依頼だけを受け取って淡々と去っていく。
……《姿無き英雄》が人前に出たがらないことを知っているので、彼らは当然彼女のことを周りに話したりはしない。せいぜい、実際に《姿無き英雄》にあったギルド職員内で話す程度である。ギルドマスターからくれぐれも《姿無き英雄》のことを外に漏らさないように言われているのだ。それが行われれば、間違いなく殺されると聞いた彼らは家族にさえも彼らのことは話さない。
さて、リアが次に向かおうとしているのは海沿いにある街である。海に面した港町。普段は穏やかなその場所は海からも陸からも魔物が現れ大変な状況らしいという話である。
彼女は海の魔物と戦うのはそこまで慣れていない。だからこそ、その街に向かって海の魔物と戦おうとそう思ったようだ。




