リアは検証をしながら、魔物を倒していく ⑫
光ったかと思えば、その場に急に別の魔物が出現する。
(おぉ? これは魔物を生み出す装置的なもの? しかも素材が同種の魔物ってこと? 不思議すぎ。面白いと言えば面白いけれど、中々グロい)
魔物と魔物がまじりあって、新たな個体を生み出す。
そして別の個体が、何かを書き写している。ちらっと覗いたそれは、やっぱり彼女には理解が出来ない文字が書かれている。
(……これを繰り返した結果、さっき戦った巨大な魔物が生み出されたってことかな)
魔物が同種の魔物をまじりあわせて、新たな個体を生み出す。そんな非現実的な状況においても彼女はただただいつも通りである。
この程度のことでは彼女の心を揺さぶることなど出来ない。
(それにしても渦から魔物を生み出したりするのといい、こうして同種の魔物を組み合わせて別の種族を産みだすのといい……なんていうか、本当にこの魔物たちは独特の技術を持ち合わせている。こういうものを人ではなく魔物が持っているっていうのも面白いよね。というか、まだ魔物が持っているから良かったのかも。下手に人がこういう技術を持ち合わせていたらもっと大変なことになっていただろうし)
こういう技術を人が持ち合わせていれば、非人道的な行動に出る者も多く現れただろう。幸いというか、此処に居る魔物たちは人を実験体にはしていない。彼らは渦から魔物を生み出すという行動は行っているが、人前に姿を現そうとは中々していないように見える。それは意図的なものであるのか、リアには判断が出来ない。
もしこの魔物たちが人を本格的に害し始めれば、すぐにリアのような《超越者》によって滅ぼされるだろう。その程度の強さしか、彼らは持ち合わせていないから。
(ああ。だからか。人に本格的に手を出したら大変なことになることを分かっているからか。もしかしたら過去に人に手を出した結果、滅亡しかけたなんてこともあったのかもしれない)
一般人相手であればどうにでも出来るかもしれない。しかし何分、人と言う種族は数が多い。
それだけではなく、《超越者》のような圧倒的な存在もいる。そういう存在に手を出したらどうなるかということは分かっているのだろう。
……彼らはあくまで、自分たちが生き残るために、自分たちのためになるべく人と言う種族を刺激しないように生きていたのだろう。
とはいえ、彼らにとっては不運なことに《姿無き英雄》という《超越者》に見つかってしまったのだ。
その状況で彼らに待っているのは、破滅しかない。
(新たにああいうのを生み出されるのも厄介だから、ひとまず、狩る)
またあの巨大な個体が出てきても面倒である。今は隠密行動中である。目立った行動によって、此処にいることがバレるのは望ましくない。そういうわけで一旦、その場にいる魔物の命を狩り取る。
(今の段階だとこいつらを狩ったことはばれないだろうけれど……。これ、生み出されようとしている方も狩るか)
後々脅威になるかもしれない可能性が一欠けらでもあるのならば、狩り取っておくのが一番だろう。
そういうわけで、ただ無表情のままにリアは狩る。
その場の魔物たちを狩り取り、他の魔物が此処にやってこないかの確認を行う。この場に魔物たちがやってくれば、異変はすぐに悟られるだろう。
(今の所は問題なさげか。なら、次は――)
今、この場でやらなければならないことを、彼女は判断していく。
その魔物の拠点内を歩き回り、危険そうなものは先に排除する。それ以外はまだ情報集めをする。
……人の持ち物らしきものがあったのは、過去にこの場を攻め入った人がいたのかもしれない。
(それか、死体を漁ったか)
人の死体というのは、言い方はあれだが、色んな使い方がある。こういう知能を持つ魔物からしてみれば、それは一種の宝であろう。衣服や武器、人の世界で作られたものなど。そういう何気ないものでも、魔物たちにとっては興味深いことであろうことは間違いない。
知能を持たない魔物は当然そういう行動を行わないが、この場にいる人型の魔物は人の持ち物の価値を正しく理解している。
宝物庫のような場所を見て回ると、リアが想像もできないようなはるか昔の物品も見つかる。
(本当にこの魔物たちは、いつから此処にいるのだろう? そしていつから繁殖期の本格化の裏で動いていたんだろう? でも昔から動いていたにしては人を滅ぼすとかそういう力がなさそう。そう考えるとそれだけの力を蓄えるだけの余裕がなかった? 《超越者》に見つかって潰されかかったこともあったのかもしれない。でもしぶとく生き延びていたのかな?)
リアがそんなことを思いながらぶらぶらしていると、宝物庫の中に人の文字で書かれた本を見つける。それには驚くことに今、リアが攻めている人型の魔物に関する記述があった。
(ふぅん。昔、人と交流を持ったこともあるのか)
それを見る限り、この魔物達は人と交流を持った過去もあったようだ。その書物に関してもリアは持ち帰ることにする。
そしてそのまま宝物庫の奥へと向かうと、そこには扉があった。
その中へと彼女は忍び込む。
するとそこには、薄黒い色の人型の魔物が眠っていた。――死体のように見える。
「……なんぞ、お前は」
だけど、それは、口を開いた。




