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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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家にて。

 「えー、リアちゃん建国祭いくの?」

 家に帰宅すればなぜかいつものようにリアの家に来ていたソラト。そんなソラトにギルドマスターから言われた事を告げればソラトはそんなことを言った。

 ちなみにネアラをはじめて鍛えた日から、リアは少しずつネアラの前に一応姿を現すようになっていた。

 「建国祭、ですか。楽しそうですわ」

 そんな感想を漏らすのは、ソファに腰かけていたネアラである。只座っているだけに見えるが、常にスキルを使い続けるようにリアに言い聞かせられているため、何かしらのスキルを行使してそこにいたりする。

 「私、行きたくない。でも、行かなきゃ。襲来」

 「襲来? え、誰がですか?」

 リアの面倒そうな態度と共に告げられた、『襲来』という言葉にネアラは瞠目する。

 襲来などという物騒な言葉を《姿無き英雄》に言われて只事ではないとでも感じているらしい。が、リア・アルナスという少女をよく知っているソラトはといえば、ネアラのように焦ることもなく、面白そうに笑っている。

 「エルフの女王に気に入られたってリアちゃんいってたもんなー。エルフの女王様がこちらにやってくるよりも建国祭にリアちゃんが顔を出した方がまだ目立たずにすむもんな」

 「ん。エルフ、女王様、襲来。それだけはダメ。絶対」

 などと口にしながらものんびりと果汁を飲む。リアの少し言葉足らずな言葉でもソラトは幼馴染なだけあって色々と理解がはやかった。

 「でも俺エルフの女王様見た事ないから見てみたいな」

 「……じゃ、行け」

 「いやいや、代わりにとか行かないから。リアちゃんが招待されてるんだろ?」

 「ん、でも、行かないでいいなら……」

 「無理だって。レベル三百超えの正真正銘人族最強のエルフの女王様の誘い断るとか、流石にやめた方がいい」

 「ん、わかってる」

 と、口にしながらもやっぱりリアの表情には面倒だという感情が醸し出されていた。

 そもそもの話、人族最強のエルフの女王様から建国祭にわざわざ招待されるという事は一般的に見て光栄なことであるというのに、ここまで面倒そうにするのはリアぐらいである。

 「建国祭って一週間後だっけ」

 「ん」

 「丁度休日だからいいな。学園ある日だったらリアちゃんそれを理由に断るだろ」

 「ん。つか、むしろ、学園あったら。良かった。断れたかも。学生、本分、勉強」

 むすーっとしてそんなことを言う。心の底から不本意であるらしい。やっぱりリアの感覚は世間一般とはかけ離れていた。

 エルフの女王様からの招待をけってでも学園に通う事の方が重要であるらしい。

 聞いていたネアラは頭が痛くなっていた。

 (エルフの女王様に招待されるというだけでも光栄なことのはずなのに、それを面倒って)

 と、思わず頭を抱える。

 エルフの国マナフィルム。その国の建国の女王にして、世界最強の人族。誰もが知る、エルフの国の女王―――マナ。

 紛れもなく、強者。

 圧倒的な、存在。

 知らないものなんていない。彼女は英雄。誰よりも人を救ってきた人であり、その名は誰もに恐れられる。

 そういう存在である。

 「リア姉は……」

 「なに」

 「エルフの女王様の事は、嫌いなの?」

 「いや」

 あまりにも嫌がっているから聞いた言葉は、ばっさりと否定された。

 相変わらず嫌そうな顔を隠しもしないが、それはエルフの女王様が苦手だからとか、嫌いだからとかそういう理由ではないらしい。

 「じゃあ、どうして」

 「まったく、お前はリアちゃんがわかってないな。リアちゃんはそもそも目立つ事を極端に嫌っている。そして人の多い場所も苦手だ。何より強者とかかわることをあまりしたくないと思っているんだ」

 なぜかソラトが答えた。

 ネアラに対していつも通り大人げなさすぎるソラトである。こんなのが、《炎剣》だといわれても誰も信じないだろう。

 「女王様、自体。嫌い違う。でも、強い人、怖いから、かかわる、嫌」

 「怖い、ですか?」

 「ん、怖い。敵対、殺される」

 無表情ながらに、そういってぶるぶると軽く震える。リアは本気でその可能性を思って恐怖していた。

 そんな姿を真正面から見据え、ネアラは何とも言えない気分に襲われる。

 (リア姉は、本気でおびえているのだ。もしかしたらエルフの女王がリア姉を殺すかもしれないと、殺されるかもしれないから自分より強い人の事が怖いと)

 そう、事実そうだった。

 少なからずリア・アルナスという少女と直接的に交流を持ったからこそネアラはリアが怯えていることがよくわかる。

 「……リア姉は、わら……私の事も怖いですか」

 妾と口にしようとして、普通な口調になれなければと私とただす。そして確信に満ちた表情で問いかける。

 「ん、あんま、よく知らない、から」

 レベルが低い相手にでさえ、怯えている。よく知らない人は怖い。何を起こすかわからないから怖い。そんな風に、対人恐怖症ともいえるべく、”もしかして”の可能性を思って怯えている。

 (何もかもにおびえ、隠れている。だからこそ、リア姉は《姿無き英雄》と呼ばれている。《臆病者》って称号は、蔑まれるものだ。でも―――)

 ネアラは思考し、リアを見る。

 (リア姉は、臆病だからこそここまで強くなったんだろう。慎重でおびえているからこそ、ここまで強くなった人――――。妾も、リア姉みたいに強くなりたい)

 臆病だからこそ、リアは強くなった。怯えていたからこそ、強者になりえた。そうでなければ強者に至ることなど、リアはできなかったはずだ。

 「リア姉……」

 「ん?」

 「強くなりたいから、また、鍛えて」

 「ん? 気が、向いたら」

 リアは気まぐれで、自分勝手で、だからこそ鍛えることも気が向いた時にしかしてくれない。

 (でも、私はこの人の下で強くなりたい。リア姉に、信頼される妹になりたい)

 そう、思った。願ったから、頑張ろうと決意した。




 

 

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