それぞれの繁殖期の本格化 ⑨
強大な力を持つ個ではなく、魔物達の群れ。
一匹一匹はそこまで危険ではなくても、それだけ魔物が溢れていればそれは脅威となる。
ラウルはうじゃうじゃと目の前で蠢く魔物達を見て、ぞっとしてしまう。
これでもまだこの場所は最前線ではないというのは、ギルドマスターからも聞かされている。もっと地獄のような場所もあるとそう言われているから。
……ラウルはそのあたりの点を配慮されている。《超越者》でレベル百五十越えでありながら、その域に正しく到達出来ていないから。そういう場所に投げ出しても死んでしまう可能性があるとギルドマスターに思われているということだ。
ギルドマスターはラウルという存在を不思議に思っている。
だが、リアが友人と言っている存在であるというのもあり気にかけてはいる。ラウルがこのまま亡くなってしまうのは少し惜しいとそう思っているのだろう。
とはいえ、当然甘やかしてばかりというわけではなく危険な場所でもラウルの実力で問題がないと思える場所には躊躇せずに突っ込ませていた。
危険な場所に突っ込まされたかと思えば、比較的安全な場所に行かされたり――そういうメリハリをつけた配置をさせられていた。それはラウルにぬるま湯につからせないようにしているからであろう。
適度に命の危機を感じる配置をさせ、ラウルの成長を促していると言えるのかもしれない。
(……繁殖期の本格化で、俺の知らない魔物も多く見かける。ゲーム時代の知識で俺は色んな魔物の情報を知っているつもりなのに、それでも知らない魔物が多くいる)
ゲームの世界と同じ。だけれどもゲームの知識だけではやっていけないのは此処が紛れもない現実であるからだろう。ゲームで描かれていた魔物以外にも多くの魔物が存在している。それだけではなく、新種の魔物だって生まれていたりもするだろう。それにゲームではあくまでアバターを操作していただけであって、この世界では実際に自分の体を動かさなければならない。
それはゲームでやっていたよりもずっと難しいことだ。
(……怖いな)
恐ろしいという気持ちでいっぱいであるが、それでもこの世界で生き延びていくためには戦い続けるしかない。
魔物を倒していく。
解体に関しては解体班が解体を行っている。リアは誰かの手を借りたりなどほとんどしないので、こういう状況下でも自分で魔物の死骸の処理までやり切っているが、ラウルにはそんな余裕はない。対峙する魔物の解体方法を全て正しく把握しているわけではないので、そうやって他の人が解体をしてくれるのは助かっていることだった。
さて、そうやってラウルは沢山の魔物を倒していった。本人からしてみれば緊張してならない、落ち着かない討伐。だけど周りは平然を装うラウルに騙されているのか、彼が難なく敵を倒してしまったのだとそんな風に思っていることだろう。
活躍を広げるラウルの《爆炎の騎士》という通り名は、さらに広まりつつある。それに伴い、こういう緊迫した状況においても女性陣が寄ってきたりもする。彼は中身は普通の日本人なので、そういうのは全て断っていた。
「あなたが《爆炎の騎士》ですか?」
――そうして魔物討伐を行う中で、ラウルはその少年に遭遇する。
話は聞いたことはあったティアルク・ルミアネスという美しい見た目の少年。リアから話を聞いていたのと、アユミの恋人であるという情報程度しかラウルは知らない。
「そうだが。何か用か?」
一方的にラウルはティアルクを知っているが、特に親しくしたいとは思っていない。何の用で自分に話しかけてきたのだろうかとただ問いかける。
「僕はティアルク・ルミアネスです。《竜雷》と《風音姫》の弟子です。今回は二人から言われて、此処の魔物の対処に来ました」
「そうか」
ラウルはそう答えながら、この少年とどう付き合っていけばいいのだろうかなどと考える。
正直ハーレムを作っており、恋人が沢山いるというのだけでも何とも言えない気持ちになる。それと自分と同じように中身が足りない存在だからこそ、もやっとした気持ちになるのかもしれない。
ラウルはゲームのアバターのままこちらに来たので、レベルに応じた実力にはまだ足りない。
ティアルクはたまたま高位の魔物を倒してレベルが上がっただけであり、レベル通りの実力はない。
(……リアは俺が、この少年みたいに自分の意思で実力をつけることをしないようになれば、俺との友人関係なんてすぐに切るんだろうな)
言われたからこの場に来ただけであって、ティアルクは自分の意思で戦いの中に飛び込もうという意思はない。それがティアルク自身の言葉からも分かる。
聞けば、この場所での魔物の対応が落ち着けば学園へと戻る予定であるらしい。
恋人たちを残してきているので、早く対処をして戻りたいようである。繁殖期の本格化というのはそれだけ人が死んでもおかしくない場であるが、ティアルク・ルミアネスは自分が死ぬかもしれないなどと言う考えはないようだった。




