それぞれの繁殖期の本格化 ⑧
「ふぅ……」
《爆炎の騎士》ラウルは目の前で横たわる魔物の死体を見下ろし、息を吐く。
ラウルはこの世界にやってきて二年。その間で、大分この世界にも慣れてきた。まだまだその百五十というレベルに見合うだけの実力を身に付けているとは言えないかもしれない。
しかしそれでも少しずつその実力は身について行っていると言えるだろう。元からレベルが高いというアドバンテージがあり、ラウルはこの世界で生きやすい。それにリアという旧友が自分のことを助けてくれている。そういう良い意味での偶然が重なって、ラウルはなんとか生きていけている。
レベルが百五十。
そこからはレベルは上がっていない。それだけレベルを一つ上げるのにも経験値が必要なのだ。
こうしてこの世界で生きていけばいくほど、レベルを上げていくことが難しいというのを実感している。自分がまるでずるをしているようなそんな気持ちにさえなる。
(……俺はリアみたいにコツコツレベルを上げて、強者に至ったわけじゃない。ゲームで行ったことがそのまま此処につながっていて、百五十もあるけれど――そのレベル通りの実力はまだない。それでも俺はギルドに所属していて、レベルが高いから……その分の責任は負わなきゃならない)
自分がこの世界にやってきたばかりだからなどという言い訳は、出来ない。この世界にやってきてそれだけ時間が経過してしまっているのだから。
「《爆炎の騎士》様、ありがとうございます!」
「《爆炎の騎士》様、次は――」
ラウルの《爆炎の騎士》というゲーム時代にも使われていた通り名はこちらでも浸透している。これはリアがそういう風にしたからというのもある。
魔物を倒せば倒すほど、周りはラウルのことを称賛する。
それだけラウルと言う存在が戦う力のない者たちからしてみれば、救世主と言える存在なのだ。
ちなみにナキエルに関しては流石に高位レベル者であるラウルについてはこれないので、別行動をしている。
この二年間でラウルもギルドの依頼を様々受けていたため、ギルド職員たちからの信頼も厚くなっている。
友人であるリアは中々ラウルにも会いに来ないので、こちらに来てからのラウルは他の人たちと交流を深めている時間の方が長い。とはいえ、リアは地球に居た頃からの友人と言うことでラウルにとっては特別な友人である。
慣れてきているとはいえ、相変わらず戦うことは少し躊躇してしまう。レベルが高くても恐ろしい魔物を相手に戦うことは怖ろしいと思う。だけれども、周りから感謝をされること、そして誰かの命を救えることは嬉しいことだった。こうして力があるのだからこそ、出来ることがある。
そう思うとラウルは魔物を倒すことに対するやる気が増していくものである。
(……リアも同じように魔物を倒しているだろうか。いや、きっと俺以上に活躍しているはずだ。リアの噂は本当に沢山舞い込んでくる。普段からリアは学園に通っていて、平日が忙しいというのに――沢山の噂が聞こえてくるぐらいなんだから。今は学園は休みになっているらしいし、本当にずっと戦っているかもしれない)
常に戦い続けること。
それはラウルにとってはストレスになることであり、常に戦い続けようなどとは思わない。ラウルは必要があれば魔物を倒すが、好き好んで魔物との戦闘に飛び込むタイプではない。
そういう部分の考え方からして、ラウルはリアたちとは違う。
(俺のレベルなんて簡単に越してしまいそうだ。それでいてリアの場合だとどういう魔物と対峙しても怖気づくことはなさそうだしなぁ。俺は自分では絶対に勝てない相手が目の前に居たら、きっと動けなくなってしまう。レベル高位者である俺がそんな姿を見せたら周りの不安をあおるだけだ。だからそうならないようにしようとは思っているけれど――、でもこういう時期は正直何が起こるのか全く分からないから恐ろしい)
幾らレベルが高くても、ラウルは地球に居た頃と性格が変わっているわけではない。
リアたちのようにこの世界に根付いているわけではなく、魔物の繁殖期というのは怖ろしいものだった。あと何年、この世界で過ごしていけばこの世界に根付いていけるのか――ラウル自身にもそのあたりは分からない。《超越者》としてこの世界で生きていくのならばいずれ地球で生きていた頃のラウルよりもこの世界で生きているラウルの方が長くなることだろう。
(……繁殖期なんてなければいいのに)
ラウルは心の底からそう思う。人が死ぬ確率が上がる危険な時期。そんなものは彼にとってはない方がいいものだった。
レベル上げが出来ると喜んでいたリアとは全く違う。ラウルからしてみればそういう考えのリアたちの方が理解出来ないだろう。
ラウルは魔力の渦から湧いて出てきた魔物を倒していく。
――これ以上魔物が出てこなければいいとそう思っているのに、想像以上の魔物が次々と現れてくる。




