エルフの女王様からお手紙が来て、渋々建国祭に行くことになる。
「お前に、手紙が届いている」
リアがそんなことを義父であるギルドマスターから告げられたのは、ネアラを気まぐれに鍛えてから少し経過した日の事であった。
相変わらず、《姿なき英雄》である事実を隠し通してリアはのんびりと学園生活を送っていた。まぁ、時折レベル上げのために魔物狩りにいくという普通に考えれば非日常を送っているわけでが。
さてさて、ソラト経由でギルドマスターに呼ばれたリアはギルドへと顔を出した。そこで言われたのが上記の言葉である。
それを言われた瞬間、リアは思わず顔をしかめた。
ギルドマスター経由ということは、《姿無き英雄》宛の手紙であるということを理解したからだ。正直そんなもの受けとるのは面倒だというのが正直な話である。
しかしギルドマスターがこうして手渡してくる手紙なのだから、それなりに重要な手紙であるのは間違いのない話であった。
「それ、絶対に受け取らなきゃダメ?」
「受け取らなくていいものならば、お前をわざわざ呼び出したりはしない」
そういってニヤリッと笑ったギルドマスターはなんともまぁ、相変わらず楽しそうである。
「ほら、これだ」
リアは拒否権がないことを察してそれをおとなしく受け取る。そしてその裏に書いてある『マナ』と書かれている。
ありふれた名前であるが、その名前の知り合いは一人しかいない。リアは凄く目を背けてしまいたかった。
「ほら、はやくよめ」
「見ないふりは?」
「ダメに決まっているだろう。あっちから襲来してくるぞ」
なんて言われて、渋々リアは封を切る。
そこに書かれていたのは以下の通りである。
『リアちゃんへ。
今度私の国で建国祭がおこなわれるから、リアちゃんも来てね。来なかったらこっちからリアちゃんに会いに行くから』
と、本当に簡潔にしか内容が書かれていないものだ。なんとも軽い。昔からの友人にするような手紙をよこされても困るというのがリアの思いであった。
そもそもエルフの建国祭とか、人間であるリアには関係ないものである。
「なんでエルフの女王様がこんなもの送ってくるの?」
「そんなのマナが会いたがっているからに決まっているだろ。お前の事気に入っているからな」
「えー」
リアは思わず文句を言った。
強者が身勝手な生き物であるということは、この世界に十六年も生きていれば理解できるが、それでも素性を隠しがっている相手を大衆溢れるエルフの国の建国祭に会いたい、気に入ったという理由で呼び出さないでほしかった。
「ははは、あきらめるんだな。嫌がろうとも拒否したら本気で襲撃するぞ?」
「それは、困る」
「だったらおとなしくいくんだな」
ギルドマスターはどこまでも楽しそうである。リアが嫌々エルフの国の建国祭に向かわなければならないことが、余程愉快でたまらないらしかった。
なんとも性格が悪い。
(なんで私の周りには愉快犯ばかりいるのだろう……)
などとリアは思わず遠い目になる。
「実はお義父さんが渡してなくて私が見ていないと言い張って、知らなかったってことには…」
「そんなつまらないこと、俺がやるわけねぇだろ?」
「……ですよねー」
「第一、俺がリアに対してマナの手紙を渡し忘れるなんてありえないからな」
それもそうである。
面白いことが大好きで、義娘の事をどうしようもないほど面白がっているギルドマスターが手紙を渡さないなんてことは絶対にない。
ギルドマスターと仲良いエルフの女王様が、それがわからないはずもないだろう。
「うぇー、やだ」
「ははは、おとなしく出席するんだな」
「本当に、本当に! 見なかったふりをしたくてたまらないよ」
などと訴えても結局どうすることもできない。行く以外の選択肢はリアにはない。
リアはあきらめたようにはぁ、と息を吐く。
「……出席する。仕方ないから」
「アスラン大陸まではどうやっていく? 一緒に船に乗るか?」
「そんなことしない。もちろん、私はスキルを使っていくよ」
「くくっ、そうか」
リアの返答を聞いたギルドマスターはそれはもう楽しそうだ。
船に乗ってのんびりと海を渡ったほうが楽に決まっているのに、わざわざ疲れるだろうにスキルを使って毎回海を横断するリアが面白くてたまらないらしかった。
(これだから、リアはレベルが上がり続ける。面白い)
リアは常にスキルを使おうとしている。息をするようにスキルを使い、常に行使している。故に、そのレベルの上がるスピードは半端ではない。
ギルドマスターもなるべくスキルは常に使うようにしているが、正直習慣的にスキルを使っているものでなければ、リアのようにスキルを使い続けることなど厳しい。どうしようもない疲労感に襲われる。それにスキルを使う事には集中力もいる。
リアが常にスキルを使い続けていても平然としているのは、うんと幼い頃からスキルを使い続けているからとギルドマスターは予測を立てているが、正直出会う前のリアについてはギルドマスターも詳しく知っているわけではない。
強くなりたいと望み、孤児院を抜け出して魔物を討伐していた。自分を磨いていた。そういうことは情報として知っているが、なぜそこまで強くなりたかったのか、幼い子供一人でどうやって魔物を倒せるまでになったのかなどはリアは語らない。
無理やり聞き出すこともできないわけではないが、ギルドマスターはそれをしていない。
結局《姿無き英雄》と呼ばれる彼女は、義理の家族にとっても謎に満ちているものなのである。そんなリアだからこそ、ギルドマスターは面白いと思っているわけだけれども。
「あー、めんどくさい」
「はは、エルフの女王からの招待を面倒なんていうのお前ぐらいだろうな」
「……面倒なものは面倒だよ」
義理の親子はそんな会話を交わすのであった。
そして《姿無き英雄》はエルフの国の建国祭に顔を出すこととなる。




