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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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それぞれの繁殖期の本格化 ②

 剣を振る。

 魔法を使う。

 淡々と目の前の魔物を倒していく。

 それはまるで作業のようだ。

(……このあたりは弱い魔物ばかりだ。もっと強い魔物と戦わないと)

 強い魔物と戦いたい。もちろん、死ぬつもりはない。

 とはいえ無茶をしなければ倒せない魔物というのはいるので、それらに遭遇した場合のことをソラトは思考する。何事にも絶対というものはない。

 リアに近づくためにも、《超越者》になるためにもそれだけのことを想像しなければならないのだ。

 そうやって備えをしておくことが一番である。

 影がソラトを覆う。

 それは空を飛ぶ巨大な竜のような魔物。

 街の方へと向かっているのを目撃したソラトは、息を吐き、剣を投げた。

 その剣を当然その魔物は避ける。これは倒すために投げたわけではない。その魔物の興味を引くためのものである。

 ソラトの存在に気付いたその魔物は、火を噴いた。

 魔法でその火から逃れる。《炎剣》などという炎にまつわる通り名がついていても、炎に対して万能というわけではない。

(人語を話すだけの知能はなさそう。俺があったことのないリアちゃんの友人である《ホワイトドラゴン》はこういう野良のドラゴンよりもずっと強い。……俺はそこに辿り着かなきゃならない)

 まだソラトは霊榠山の山頂に辿り着けるほどに至っていない。リアと一緒に生きていくためには、追いつくためには――この程度の竜種相手に負けるわけにもいかない。

 ただ絶対に目の前の魔物に勝つことが出来るとソラトは慢心しているわけではない。

 魔法を行使する。だけどそれはその魔物にはじかれる。火の魔法に対する耐性がどうやらあるらしい。

 ソラトの場合、魔法は火に特化しており、他の魔法属性は使えない。適性がなくてもよっぽどの努力をすれば魔法を使えないこともないかもしれないが……基本的に適性のないもの以外は鍛えない方が多い。

 自分の得意な魔法への耐性があることを把握してもソラトは冷静である。

(さて……)

 《炎剣》としてのソラトの代名詞である炎。それが相手に通じにくいという状況はある意味ピンチともいえる。それでもそんなことで諦めるつもりは全く彼にはない。

 長剣を振るう。

 そして自分で作製した魔法具を使って、自分の使えない属性の魔法を体現する。中々ソラトの息の根を止められないことに対してその魔物が徐々に苛立ちを感じていることが分かる。

 そういう苛立ちから、生物は焦ってしまうものである。

 その竜種にしてみれば、人など簡単に殺せるものであったのだろう。なのに、目の前のソラトは死なない。それどころが自身へ傷をつけていく。

「ぐがああああああ」

 その事実に、咆哮を上げた。

 そして勢いのままにソラトへととびかかり、次の瞬間にその魔物は絶命する。

 一般人にとってみれば恐ろしい魔物。それを倒すことが出来たというのに、彼は喜びや安堵の表情を一つも見せない。

(このぐらいの魔物相手にこんなにてこずるようではまだまだ)

 ――リア・アルナスという圧倒的な強者を、全く慢心もせずにひたすらに戦い続ける存在を知っている。その存在に近づきたくて仕方がない彼は、このぐらいではまだ満足しない。

(もっといい倒し方を学ばないとだめだ。リアちゃんに追いつけることが出来るように、リアちゃんが俺のことを見てくれるように)

 相変わらずずっとリアのことばかり考えている彼は、そのまま倒したばかりの魔物を解体している。こういう魔物の素材はあらゆることに使える。自分でも魔法具を作ることのあるソラトにとっては、自分で使うためにも重要なものである。

「《炎剣》様!! そちらの魔物はお一人で倒されたのですか?」

 ソラトが解体を進めていると、その場に冒険者パーティーが飛び込んでくる。男五人組のそのパーティーの面々はソラトのことをキラキラした目で見ている。

「ああ」

 質問に対して答えながらも、ソラトは彼らへの関心はない。

「《炎剣》様、一人でこのような強大な魔物を倒してしまわれるなんて本当に流石です! 一人で解体をすることも難しいのではないでしょうか? ぜひ、私達にも手伝いをさせてください」

「不要だ。もう終わる」

「そうですか。解体だけではなく、魔物討伐を手伝いさせていただけませんか! 《炎剣》様のご活躍を是非、間近で見させていただきたいです」

 《炎剣》はあまり他の冒険者との関わりを持たない存在だ。一人で依頼をこなしていく。その《炎剣》に近づきたいと望む冒険者の数は本当に多い。

 そして彼らは勝手に《炎剣》という存在に期待する。人を救ってきた噂が流れている《炎剣》ならば自分たちを導いてくれるだろうとそう思っているようである。

「いや、俺は一人で向かう」

 こういう冒険者たちを相手にするような暇はソラトにはない。自分の現状に満足していないからこそ、そのような余裕はない。

 断られたことにショックを受けた様子を見せる彼らを一瞥して、ソラトはその場を去るのだった。




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