リアは街を救いに行く ⑨
その気配の元へとリアは近づく。もちろん、ユニークスキルを行使してだ。
そこには、人型の魔物が二体ほどいる。それは何か言葉を発している。それは人語ではなく、魔物たちだけの言葉なのだろう。しかしどこかざわめいているように思える。
(……この種族の魔物だけが喋れる言語? 意思疎通の仕方がそうなの?)
そんなことを考えながらその魔物が地面に描いている図を見る。
その図は……魔物と魔物を掛け合わせるような、そういうものだった。
(掛け合わせる絵。あとは魔力の渦も描かれている。書いてある文字は読めない。この魔物たちは意図的に何かよからぬことをしている?)
文字は読めなくても、その図で何を伝えているのかはなんとなく理解することが出来る。
彼女はしばらくその魔物たちを観察することにする。この魔物達に関しては倒し切ることは簡単だ。しかしその前に情報収集はしておくべきと判断した。
「ギュイギュイ」
「ギュギュギュギュ!!」
何を喋っているかはやはり分からない。だけど先ほど彼女が魔物と戦闘していた箇所を指さして何かを言っている。それでいて何かを地面に描いている。木の棒で描かれるそれは先ほど彼女が倒した魔物が描かれ、何かをまた喋っている。
不気味な鳴き声。
そして何かを思い至ったのか、その魔物たちはその場から去っていく。
その後ろをリアはついていく。
(何をやらかしているかが一番の問題。街の近くで知能のある魔物が何か起こしているのは困る。こんな風に知能が高い魔物だと人に対する興味などないのが多いイメージだけど……、そうじゃない魔物か。この魔物たちは長生きしているのかな? 長生きしていてこの程度の強さだと、ただ生き延びて知能だけ宿っている形かな?)
見る限り、彼らは全く強くない。それなりにレベルが高ければ倒そうと思えば倒せるだろう。
それだけの強さしか持ち合わせていないのにも関わらず生き延びていること。ある意味それは、別の意味での強さとはいえる。
彼女の目の前で、二体の魔物が森の中へと近づく。
そこには、小さな何かがある。それは魔力が渦巻いている場所。
その二体の魔物は、杖を持っている。それを重ね合わせて、何かをしている。
(魔力が集まっている。……意図的に土地の魔力を吸い上げている?)
そう思った時、目の前で驚くことが起きた。
それは繁殖期の本格化でよくみている魔力の渦。魔物を溢れ出させる、その原因の元。
(魔力の渦って基本的に自然発生するものだとは思うけれど……、こうやって意図的に生み出すものもあるのか。ただ他の魔力の渦とは少し違いそう。こういうことをこの二体が起こしているからこそ、先ほどの魔物も出ていたのかな)
彼女はそのまま観察を続ける。
その魔力の渦はそのまま大きくなっていくかに思われた。
これ以上大きくなるようならば、その前に壊してしまおう――。そう思っている状況だったので、リアは驚く。
(大きくなるのが止まった? 魔物が人工的に作ろうとしているものだからっていうこと? それにしてもこういう厄介な魔物、どのくらいの数がいるんだろうか。数が多かったら、他の場所でも同じことが起きているかも。というか、もしかしたら過去の繁殖期の本格化の時だってこういう魔物が色々暗躍していた?)
そういう可能性があるかもしれないと考えて、リアは少しだけ嫌そうな表情をする。
(人の中にも繁殖期を長引かせようとする人たちもいるとは聞いていたけれど、魔物の中にもいるのは面倒だよね)
そうして考えていると、目の前で魔力の渦が一瞬で消える。それと同時に現れるのは、また見たこともない魔物である。
魔力の渦を生み出していた二体の魔物は、その魔物に狙われないように何かしらの対応をしているのだろう。その魔物が現れたことで嬉しそうに二体の魔物たちは鳴き声をあげている。
(とりあえず全部狩るか)
さて、ここまで傍観していたリアであるが流石にこのままにしておくわけにもいかない。
そう判断してからは、彼女の動きは速い。
まずは、生み出された魔物を狩る。一番厄介なのはその一体だからである。魔力の渦から生み出されたばかりのその魔物は先ほどの紙型の魔物よりは力が弱い。それは先ほどの紙型の魔物を生み出すためにこのあたりの土地の魔力を使ってしまったからなのかもしれない。
そういうわけでその生み出されたばかりの魔物は、そこまで強大な力はなかった。
大きな音と共に、その魔物は切断される。一瞬の絶命。
それに当然一番驚いているのは、暗躍していた二体の人型の魔物である。
「ギュギュギュ!?」
「ギュギュイ!? ギュギュギュ!!」
声をあげて、何が起こったのかと騒ぐその魔物たち。
リアはその二体の魔物を剣で狩った。
おそらく長生きしているであろうその存在たちは、自分の命がなぜ失われていったのか分からないままに絶命したのだ。
(このまま、帰る。報告する)
彼らを葬った後、リアはそのまま報告をするために戻るのだった。




