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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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《英雄》はようやく義妹を鍛える事にする 2

 魔物が蠢いている。

 大量の魔物だ。空を飛ぶものから、地を這うもの、種類は様々。

 それらはカザエイラの森に住まう魔物たち。そしてリアが敢えておびき寄せた存在たちであった。

 何故呼び寄せるなんてしたかといえば、ネアラをその中に放り込むためであり、そして実際に魔物の群れのど真ん中に放り込まれたネアラは危機に瀕していた。

 鳴き声が聞こえる。魔物の不気味な鳴き声が。

 すぐ近くから聞こえて、あわてて短剣をふるう。一斉に向かわれて、逃げる事もままならない。一度でも気を抜けば、こちらを殺すだろう魔物たちを前に、ネアラはひと時も気を緩める事を許されていなかった。

 魔物が爪が掠めようとも、その牙がネアラに襲い掛かろうとも、それでもリアもソラトも助けには入らない。

 本当にギリギリの、死にかける直前まで、手出しする気はないようだった。いや、例え少し救出が遅れて死んだところで彼らは特に気にしないようにさえネアラは思う。

 (強くなりたいと結果的に選んだのは妾だ……。リア姉はそれにこたえてくれたに過ぎない)

 強くなりたいとそう願ったのはネアラ自身だ。それにリアは答えた。そして強くなるために、こうして鍛えようとしている。尤も……、戦いなれていない子供を魔物の群れの中に放り込むなんて無茶な鍛え方を普通はしないのだが。

 ネアラがその手に持つのは、ルカによって鍛え上げられたものだ。ほんの数日前に、はじめてあった義姉がくれたものであった。

 その切れ味は今まで持っていたどんな武器よりも鋭く、そのことにネアラは驚いた。

 ルカは戦闘能力は低いものの、生産職でいえばトップクラスの実力者である。そんなルカの手によってつくられたものなのだから、切れ味が良いのも当たり前といえば当たり前である。

 魔法を唱える暇など、ネアラにはない。

 そもそも戦いながら魔法を唱えるなんて高度な技術、出来る人の方が少ない。リアやソラトはさらっとやってたりするが、あれは例外である。

 魔法の詠唱は長く、詠唱破棄なんて普通の人は出来ない。魔法を行使するのには時間がかかる。魔法は万能ではない。確かに驚くほどの効果を発揮するが、それを行使するにはやはりリスクがある。簡単に魔法とは使えるものではないのだ。

 そういうものであるからこそ、自身を鍛えることをしないものは魔法をほとんど使うことができない。

 ネアラは自分が死なないように間一髪でよけることだけしかできない。そんな状況で、ほかのことをする余裕などない。

 魔物の爪が目の前まで迫っていく。

 目玉に突き刺さりそうなほどのそれをナイフで薙ぎ払う。後ろからかまれる。四足の獣の形をした魔物は、容赦なくネアラの身体を傷つける。倒れる。自身の体が獣の口の中へと入っている。食われる。そんな状況だろうとも、まだ、リアは動かない。

 ―――助けてもらえる。

 そんな希望を打ち砕くほどに、動かない。もしくは火事場の馬鹿力を期待しているのかもしれない。リアは、本当に死ぬ直前まで、ネアラを助けることはないのだ。

 いくら魔物に身体の一部を食われようとも、半死程度の状況なら助ける必要はないという判断だろう。どこまでもリアはネアラを甘やかさない。じっとこちらを見ている。ネアラが次に移す行動を見ている。

 (妾に生かしておく価値を見いだせなければ、妾は見捨てられるかもしれない――)

 むしろ、それを実感する。

 そもそもリアがネアラを義妹として扱うのは、ギルドマスターがそれを決めたからに他ならない。ギルドマスターの命令であるからそうしているだけであって、リア本人としてみれば気が向いたときに鍛えることは決めたものの、それ以上の感情はない、といったところだろうか。

 死ぬのはいやだ。

 ネアラが感じた事なんてそんなことだ。死にたくなかった。単純かもしれないけれど、確かに感じているのはそんな気持ちだ。

 死に瀕した状態の中、死にたくないと願うのは当たり前といえば当たり前の話である。

 ネアラはまだ生きてやりたいことがたくさんある。

 そしてそのためには、ここで『死ぬ』という事を受け入れて、行動に出ないというのはありえない。行動をしなければ生きていられない。

 故に、血が溢れようとも、体が食いちぎられそうになっていようとも集中する。死の恐怖を隅っこにやって、魔法を唱える。


 「燃やしつくせ。(Ogni scottatura)

 その身を、その魂を。(Sul corpo, è l'anima)

 それは業火の炎。(È una fiamma di hellfire)

 全てを灰に変えるだろう。(Tutti saranno cambiati in ceneri)

 地獄をかの者に見せよ。(Mostri che inferno di persona)

 骨まで燃やしつくす、その炎を。(La fiamma che tutto ha bruciato ad un osso)

 出現せよ!!(Appaia!!)


 《地獄の炎》(《Una fiamma infernale》)」


 自分が使える最も強い魔法を行使する。現れた炎。だけど、出現させるだけの集中力はかろうじてあっても、それを制御するほどの集中力は正直ない。すべてを燃やし尽くすほどのそれは、自分ごと飲み込んでいく。

 魔物はどうにでもなるけれども、意識は朦朧としている。身体の一部は魔物に食われてしまったし、炎にのまれた状態では自分一人ではどうあがいても死ぬ。生きていくなんてできない。

 (……妾は、認めてもらえただろうか)

 失われていく視界の中で、視線を向ける。先ほどまでその場にいたリアとソラトの姿はない。変わりに、近くから声が聞こえてきた。

 ネアラのボロボロな姿を見ても決して変わることのない平常運転な会話が。

 「結局助けるの、リアちゃん」

 「ん、生きる、あきらめないから。あきらめてたらそのまま、見殺し、した」

 「まぁ、ギルドマスターが義娘にするぐらいだから、そのくらいは当然だな。そうじゃなきゃリアちゃんの義妹だなんて認められない」

 「……とりあえず、治す」

 平然とした声。そして淡々と《神聖術》が行使される。身体の損傷がひどいのだから、《神聖術》のレベルが高くなければそれを完璧に治すことはできない。けれどリアのそれのレベルは64。ある程度の傷ならすぐに治すことができる。

 そして意識を失ったネアラを抱えて、リアとソラトはその場を後にするのであった。








 

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