決闘をするそうですよ? 1
「決闘に僕が勝ったらもうフィリアさんにかかわらないでもらう!」
それは入学してから一週間ほど経過したある日の出来事だ。
そこは人気のない中庭。
季節は春。桃色の桜の花びらが宙を舞っている。
花々や木々の手入れをする庭師以外はほぼ訪れる事のない場所だ。そんな場所に珍しくも何人もの生徒達が存在していた。
その一人が今、言葉を放ったティアルク・ルミアネスである。
その周りにはもちろん、ミレイ達が居る。
それに対峙するのは三人の男子生徒達であった。
一人の少しだけぽっちゃり体系の男がどうやらリーダー格のようだ。現に他の二人の男はその男子生徒を立てるかのように後ろにたっている。
そんな男子生徒の足元には、座り込んでいる一人の女の子が居た。
桜色に煌めく美しい髪に、瞳を持つ少女は見るからに悲壮感を漂わせていた。
その少女――フィリアに対する事でティアルク・ルミアネスは揉めているらしかった。
「じゃあ僕が勝ったらお前ら全員奴隷にしてやる!」
「そんな事させるわけないだろ!」
「はっ、勝てる自信がないんだろ」
馬鹿にしたように笑うそいつはいかにもな下種顔を浮かべている。
「なっ、そんなわけないだろ。僕は負けない。勝って全員お前なんかにはやらない」
挑発に乗ったのかそう言い放つティアルク。その会話が終えると同時にぽっちゃり君とティアルクの間に『決闘が承諾されました』というその文字が出現する。
そしてその後にはこんな風に続いていた。
参加者。
ティアルク・ルミアネス。
オルガン・カザスタス。
詳細。
ティアルク・ルミアネスが負けた際、本人およびミレイ・アーガンクル、レクリア・ミントスア、エマリス・カルト、アキラ・サラガンはオルガン・カザスタスの奴隷となる。
オルガン・カザスタスが負けた際、フィリア・カザスタスにオルガン・カザスタスは接触する事が出来なくなる。
空中に表示されたそれは『決闘システム』と呼ばれるものが起動した事を意味していた。『決闘システム』とは賭け事ありの一対一の対人戦のシステムである。どういう原理かは不明だが、その決闘を世界に認めさせ、正式に受諾されその決闘がなされた場合、約束を破る事は不可能となる。
例えばこの決闘の場合、ティアルク・ルミアネスが負ければ自動的に彼らは《奴隷》という身分にステータス上落とされてしまうし、オルガン・カザスタスが負ければフィリア・カザスタスに近づく事が出来なくなる。
簡単に言えば近づこうとしたら体調を崩したり、不可視の壁のようなものが出現し近づけなくなるのだ。
最もこのシステムはどちらかが『決闘をする』と宣言し、それに相手が乗り、賭けるものに対して納得していた場合のみ起動する。
(わー)
そしてそんな様子を木の上に座り見つめている者が居た。
棒読みでそんな事を思っているその存在はリア・アルナスである。
昼休み、一緒に過ごす人もいないリアは食事を取った後、なんとなく昼寝でもしようと人気のない此処の木の上にとどまっていたのだ。
そうすれば明らかな小物悪役っぽい男たちと苛められてる少女がまずやってきて、苛めの様子を見ている間にティアルク達がやってきたのであった。
一応可憐な少女が苛められている事に助けようかとは思った。
しかし姿を見せずに助ける方法を思いつかず、見ている限りでは死にはしないだろうという事でリアは少女を助ける事を早々に断念していた。
こういう場合、リアは割と自分の目立ちたくないという思いを優先するような冷たい人間なのであった。
(えー。というか挑発のっちゃダメっしょ。いや、そりゃレベル差かなりあるし普通に考えて主人公君負けないけどさー。奴隷にするとかいってんだよ? それ承諾しちゃっていいの? 明らかに下種いから人質とかとっちゃう気がするんだけど)
男たちが去った後にフィリアという苛められてた少女に話しかける様子のティアルクに思わず呆れたような目を向ける。
フィリアはティアルクの事を王子様を見るようなキラキラした目で見ているがそんなのリアにはどうでもよかった。
自分を助けてくれる王子様なんて乙女心満載の想像などリアはした事がないほど枯れているため、爽快と助ける様子にも特に何も感じない。寧ろ恋愛何それおいしいの? という感じである。
(そもそもこの世界には奴隷制度があるわけだし、身分とか絶対だしさー。ギルドランク隠したいなら大人しくしよーよ。つか、穏便に済ませたいならギルドランクAだとばらしてさっさとやった方が一番いいよね。カザスタス家って伯爵程度なんだしさ)
ギルドのランクの高い者は権力者ともやりあっていけるほどの力を持っている。
ギルドランクは最高ランクXから、SSS、SS、S、A、B、C……と続いていき、Fランクで終わる。10段階に分かれているのだ。A以上ならそこそこの知名度もあってその辺の貴族黙らせるぐらい割と出来るものである。
(決闘でそんな賭け事を承諾しちゃうなんてさー、私なら怒るな。自分が奴隷になってしまうかもしれない賭けとかした馬鹿には)
互いが納得してはじめられた決闘は当人同士の問題だ。当人達が納得して、決闘した結果負けても文句は言えない。「負けたら奴隷にしてもいい」という事に納得したのだから。
実際その後の決闘でティアルク・ルミアネスが負ければ、彼らの身分は正式に奴隷に落とされ、学園にも通えなくなるだろう。
抗議しても遅い。それは互いに納得して行われた決闘なのだ。
そもそもの話、勝てると思って受けて、結果として負けて抗議するなんて情けない真似誰が出来るだろうか。
第一、勝者が敗者に無理を強いようとそれは仕方ない事なのだ。
魔物相手に負ければ高確率で死ぬし、相手がゴブリンなどの人相手に性行為が出来る魔物であれば女は最悪の場合は子作り道具にされる。実際に魔物の子供を生んだ人間の女性の話は少なからずある。
戦争で負ければ勝者の言い分をのまないわけにはいかないし、最悪国民全員を奴隷にするとかいう無茶ぶりを言われても逆らう事は出来ない。
残酷な現実は何処までも広がっている。
此処はそういう世界だ。
(てか苛めっ子と苛められっ子の家名が一緒って家族? 家族間の問題に関わっていいのかな? それよか決闘システム使わずに闇討ちとか。正体不明の存在に襲われる可能性があると思ったらおびえて学園に出てこなくなるとかもありえそうだし。普通にボコボコにするのもいいよね。どっちが上か体に分らせれば相手従順になりそうだしさ)
さらっとちょっと恐ろしい事を考えながらもリアは木の上から相変わらず彼らをただ見ていた。
(さてと、ま、一応あの苛めっ子達の様子でも見にいこーかなぁ。なんとなく、人質とか取りそうなイメージあるんだよね。流石にクラスメイトが奴隷になるのはちょっと気分が悪いし?)
そんな事を考えながらもリアは彼らに気づかれないようにその場を後にするのであった。




