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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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アルナス家の三姉妹

 「はじめまして。ネアラ。私はギルドマスターの実の娘で、この子の義理の姉のルカよ。だから貴方のお姉さんってことになるのかしら。よろしく」

 そこはルカの経営する鍛冶屋兼アイテムショップ『エストニア』。営業時間のすぎたその場所には三つの人影が存在した。

 一人はこの店の店主であるルカ・アルナス。ギルドマスターの実の娘である赤髪の女性だ。

 「妾はネアラ。よろしくお願いします」

 ルカの目の前でそう口にするのは、少し緊張した面立ちを見せる黒髪の少女――ネアラ・アルナス。

 「………」

 無言のままその様子をただ見て居るのは、相変わらず無表情を浮かべている栗色の髪を持つ少女――リア・アルナス。

 血のつながりはそこにはない。だけれどもギルドマスターを父としている事は共通している。そう、この場にはアルナス家の義三姉妹が存在している。

 ルカが自己紹介をしている事からもわかる通り、ネアラがギルドマスターの養子となってしばらかくが経過しているというのにルカとネアラは会った事がなかったのだ。

 ネアラと一緒に住んでいるリアであるが、正直ルカとネアラを会わせるのはめんどくさいという思いから実行する気はなかった。しかしルカの方から「お父さんから聞いたわ。新しい妹に会わせなさい」と言われたため、連れてくることにきたのであった。

 付き合いが長い事もあって、リアはルカに心を許していることもあってめんどくさいといいながらも実行したのである。

 ルカとネアラが交流をする中で、われ関せずな態度のリアである。椅子に座って、表情を変えないままにぼけーっとしている。

 何を考えているかわからない目を浮かべ、その場に存在している。

 (はやく帰りたい。こんな事する暇があるなら魔物を狩って遊びたい。経験値をためたい)

 ルカとネアラの交流に自分が居る必要がないとさえ、リアは考えていた。

 そんな暇があるくらいなら正直魔物を思いっきり狩りたいなどと物騒な思考を持っている。

 身内に対する愛情は少なからずある。リアに情がないわけでは決してない。だけれども、だ。

 義父であるギルドマスターがネアラを義娘としたとしても。過ごした時間が短いネアラの事は、リアにとってあくまで他人としての認識の方が強い。結局の所まだネアラを鍛えるという約束は果たされておらず、リアの気分次第でいつ果たされるか定かではない。

 「リア」

 めんどくさいという感情を表に出しながら座り込んでいるリアに咎めるような、仕方がないなとでもいうような声でリアを呼んだのはルカであった。

 リアは立っているルカを見上げる。ルカは低い位置にあるリアの頭を撫でまわして、いう。

 「もう、姉妹の交流なんだから貴方も混ざりなさい」

 「めんどい。あと頭なでるの、やめてルカ姉」

 「面倒じゃないの。貴方も私の妹、この子も私の妹。仲良くしなさい」

 「私、それより魔物狩り行きたいんだけど…」

 「もう、本当物騒ね。魔物狩り魔物狩りってそんなに戦うの楽しいの?」

 「楽しいっていうか、勝ったら凄い嬉しい。倒せば倒すほど強くなれるもん」

 そんな風に淡々と答えるリアである。

 趣味が自身の鍛錬、レベル上げみたいなリアに対して、ルカは複雑な思いしかわからない。もう少し年頃の女の子らしい趣味を持ってくれないものかというのが正直な感想であるといえた。

 しかしそんなことをいっても仕方がない事もルカは把握している。リアが八歳の時――七年前にリアはギルドマスターの養子になった。

 父親が何処からか連れてきた小さな子供を前に、ルカはどうしようもないほど驚いた事を覚えている。面白い事が大好きで、圧倒的な力を持ち合わせているギルドマスターが『面白い奴を見つけた』などと口にして、連れてきた存在。

 何処が面白いのか最初はちっともルカにはわからなかった。何処からどう見ても、何処にでもいる少女で。無表情で、何を考えているかわからなかった。だけど、知れば知るほど、リアは普通ではなかった。

 「リアは本当昔からぶれないわね」

 「私は私だもん」

 七年前とリアは変わらない。成長はしている。けれども、芯の部分はぶれていない。

 強くなりたいと貪欲に望み、そのために毎日毎日鍛錬を飽きもせずに繰り返す。危険だという場所にレベルを上げたいからと飛び込んで、好き勝手に生きている。

 リアがぶれないのは、前世の記憶があり、幼少期より自分というものが確立していたからといえるがそんなことルカには知る術もない。

 相変わらず表情を変えずに「はやく帰りたいな」とでも思ってそうなリアから視線をそらし、ルカは新しく義妹になった存在を見る。

 この世界で珍しい黒色を持つ少女。

 どういう生い立ちを持ち、どういう性格をしているか、なんて全然ギルドマスターはルカに教えることもなく、ルカにとってネアラは「リアが助け、父親が養子にすると決めた将来有望な少女」という認識しかない。

 ネアラはリアとルカの会話を聞きながら自分はどうしていればいいのだろうとそんな風に戸惑ったような表情を浮かべていた。

 「ネアラ」

 「は、はい。ルカさん、なんですか?」

 「ルカ姉でいいわ。リアもそう呼んでいるから。それより貴方はどういう武器を使うの?」

 「……妾は短剣術だけ一応スキル持っている」

 「あら、ならこれかからも短剣を使うのかしら?」

 「一応、そのつもりだが」

 「なら家族になったお祝いに私が打ったもの、あげるわ、一つ」

 ルカがそう口にすれば、ネアラは目を見開く。それはルカが有名な鍛冶師だと知らされているからだ。家族になったからとぽんっとそんなものをあげることに驚いているようだった。

 「じゃあ、リア一緒にネアラに合う短剣を選ぶわよ」

 「何で私が…」

 「お姉ちゃんだからよ」

 結局リアはルカの押しに負け、倉庫の中からネアラに与える短剣をルカと共に選ぶことになったのだった。



 そうやって、三姉妹の初交流は過ぎて行った。





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