残りの夏休みもあとわずか ③
「……小さな娘?」
「どこにいたんだ?」
「気配を消していたのがこんな子??」
リアの姿を見ると、ケルベロスたちは不思議そうな顔をした。
リアの気配を察した個体も、それだけ小さな少女だとは思わなかったのだろう。仮面を被っているにも関わらず性別を察したのは、鼻が優れているからかもしれない。
リアはケルベロスたちにどう声をかけるか悩む。そもそもこういう魔物と話すのもあまりないことなので、無言になる。
「……」
何もしゃべらないリアに、ケルベロス達は不思議そうだ。
「喋れないのか?」
「違う。……喋れる。話すの、苦手」
リアがそう答えれば、ケルベロスたちはそれぞれ口を開く。
「俺たちを前にしても焦りもないか……」
「こんなに小さいのに不思議だ」
「でもガロしか気づけなかったのならば、この子は強そう」
リアはそもそも初対面の存在が一人いるだけでも喋るのが億劫になる。……それがケルベロスであるから、初対面の存在が三人いることになる。
(……うん、喋りかけたけれど私に害をなす存在なら殺そう)
物騒な思考をしながら、リアは口を開く。
「何してる? 人の街、近い。何かする気なら、殺す」
そこは人里に近い場所だった。だからリアはそう口にする。
これだけ尋常でない雰囲気を醸し出している魔物が人の街に襲いかかれば、大変な被害が起こることは間違いない。それが分かるからこそ、リアは排除すると決めたのならば躊躇する気はない。
「中々物騒だな」
「俺たちは強いんだぞ! 負けないぞ!」
「こら、そんな風に喧嘩腰になるな。少女よ、別に俺たちは人に害をなす気はない。そんなことになったら《超越者》たちが出張ってきて死ぬことが分かっているからな」
喧嘩腰な二頭に対して、冷静に言葉を紡ぐのはリアの存在に気づいていたリアから見て右の頭である。
「私、《超越者》。だから、危険なら殺す。倒すの無理なら逃げて、増援呼ぶ。だからあんまり好き勝手しない方がいい」
リアがそういえば彼らは驚いたように声をあげる。
「《超越者》!? こんなに小さいのに?」
「匂いは人間だけど、まさか違うのか??」
「害する気はないので、安心してほしい」
やはり匂いでリアの性別や種族をあてていたらしい。ケルベロスはそれだけ鼻がいいのだろう。とはいえ、人間であればあるほど彼女が《超越者》であるというのは信じがたいものであろう。
彼女の身長はそれはもう子供と見間違うほど低く、年若く見える。人間でその年で《超越者》に至るというのは、普通ならありえないことだ。
「……私、人間。ちょっと前に《超越者》なったから、小さいまま。それよりなんでこんな場所にいる? 討伐されたくないなら、大人しくしていればいい」
その言葉にまたケルベロスたち――特に真ん中と左の頭は騒ぎ出す。
「その年で《超越者》?? そんな情報、聞いたことがない。でも実際に人間の匂いしかしない。それにガロしか気づけないほどならば……本当に??」
「その年でそれだけの実力があるのならば有名になっているはずだろう?? 理解が出来ない!! あいつからもそんな話は聞いていない!!」
彼らの言葉をそのまま受け取るのならば、おそらくこのケルベロスたちはそれなりに人の世界に触れているのだろう。それこそこの世界で有名な《超越者》の情報を知っているぐらいには。
あいつなどと口にしているので、もしかしたら特定の人と交流を持っているのかもしれなかった。
(……こういう強そうなケルベロスと交流を持っている人か。私は知らないけれど、有名な人?? それともこっそりケルベロスと仲良くしている系の人? そういう人もいるよね、きっと。うん、そうやって表に出てないで実力がある人って世の中にいる。そういう人は警戒するべき。それにしても煩い)
彼女は思考しながら、あまりにも二頭が煩いので仮面の下で嫌そうな顔をしている。
「……《超越者》で、これだけの隠密能力に長けているとなると《姿無き英雄》?」
「……ん。誰かに話したら殺す」
「本当か!? 《姿無き英雄》は何年も前から活躍しているはずだが……、それがこんなに小さい少女だとは。あと話すつもりはないからその殺気はしまってくれ!!」
リアの気配に気づいていた右のガロと呼ばれた頭は、リアから溢れる殺気に慌てたようにそう言った。
やはり人の世界のことをそれなりに知っているらしいケルベロスはすぐにリアが誰なのか思い至ったらしかった。
ガロとリアの会話を聞いて、真ん中の左の頭は騒ぎ出す。
「……煩い」
あまりにも騒いでいる様子は彼女にとっては不快だったのだろう。《アイテムボックス》から取り出した長剣を、その首にあてる。
「今すぐ静かにならないなら、首を落とす」
そしてリアがそういえば、彼らは急に静かになって「……ああ」と返事をするのだった。
真ん中と左の頭が静かになったことに、リアは満足そうである。
「あなたが一番冷静そう。それで、なんでここに??」
「……あなたが《姿無き英雄》だというのならばちょうど良い。ちょっと助けて欲しいことがある」
リアの問いかけに、ガロはそう答えた。




