残りの夏休みもあとわずか ②
魔物たちに自分の存在を悟らせないように、ユニークスキルを使ったままその命を狩り取っていく。
彼らは何が起こったのか理解出来ていない。気づけば周りにいた魔物たちが事切れていく様子は……本当に恐怖でしかないだろう。
自分たちの命を奪った存在が誰か分からないまま、ただただ彼らは死んでいく。誰かこの光景を見ているものが居れば、突然魔物達が死に絶えていくのでさぞ驚いたことだろう。
それは戦闘などと言えるものではなく、まさしく蹂躙だった。
この世界に生を受けてから、淡々とレベル上げを続けてきた彼女はその世界における強者である。
(この位の魔物じゃ、レベル上がらないか。でも経験値にはなる)
魔力の渦からはい出てきた魔物たちを一通り排除し終える。そこに佇むのは、リア・アルナス一人だけだ。
(……魔物の繁殖期、そろそろのはずだけどいつが本格始動だろう? 沢山の魔物が出てくるんだよね。普段は大人しい魔物も凶暴化したりする。……うん、楽しみ)
リアは少しだけ興奮している。
まだ見ぬ魔物。それを恐ろしいとは思っている。自分では手に負えない相手が居たらどうしようかとも考えている。――でも彼女がその時が来るのを楽しみにしているのは事実である。
強くなりたいという欲求を、彼女は常に抱えている。
(……他の場所の魔物も狩りにいこう。渦から溢れた魔物、普通の人、対処難しいかも。それに面白い魔物もいるかもしれない)
その魔力の渦はあくまでまだ予兆。
だけれども、一般人にとってはそこからあふれ出てきた魔物でさえも脅威である。そもそも魔物というのは元々から危険で、それに命を奪われる人は多くいるものだ。
そのことをリアは十分に理解している。
魔物の繁殖期で見たことのない魔物が見れること、戦えることは楽しみにしている。
しかし、誰かが死ぬのは望ましくないと思っているのも事実である。
だからリアは今日も元気に魔物を蹂躙している。
スキルを使って、普通では移動できない範囲を移動する。繁殖期の予兆であるその渦は同じ場所に集中して出現しているわけではない。実際に繁殖期が始まれば一部地域ではすさまじいことになるらしいが……現状では近くに渦が大量にあるというのはない。なのでリアは魔物が沢山いる場所を求めて動き回っている。
レベル上げが趣味ともいえるぐらいにリアはいつも時間があれば魔物を倒すことばかりしている。学生最後の夏休みという……普通ならば青春を謳歌してそうな時期を遊ぶことなく、ただただ自分の将来のために動いているだけである。
リア・アルナスと言う少女は、前世の記憶があるからこそ良くも悪くもぶれがない。この世界で生まれ落ちた時から、既にその性格は完成されている。
それでいて特に周りから影響されることもなく、そのままやりたいように生きている。
移動した先で、魔物が集まっているのが映る。同じ種族のその魔物たちは集団で行動する習性でもあるのだろう。リアはその魔物を狩っていく。
リアはルーンのことは友人だと思っているが、それ以外の魔物に関しては狩りの対象としか思っていない。だからそこに躊躇などはない。
(あんまり戦い甲斐がある魔物、いない。どこ?)
リアは薬師のところでしばらく大人しく過ごしていたというのもあるだろうが、暴れたりない感覚があるのだろう。あとは望まない交流をさせられたことに対する不愉快さ。そのあたりを発散するためにももっと戦いたい……と望んでいるのがよく分かる。
(行ったことない場所、もっとどんどん行くのもあり。もっと私が戦ったことない相手。夏休みの時間があとわずかだから、あまり見て回れないけど……どこかいないかな)
もっとワクワクするような相手と戦いたい。そして自分の強さを磨きたい。
……その気持ちでいっぱいなリアは休むことなく行動している。通りがかりに魔物を狩っていく様子はあちらからしてみれば通り魔のようなものだろう。
(あ。なんかいる)
そうして動き回っている中で、リアは立ち止まった。
そこにいる気配が、何処か尋常ではなかったから。
(大きな魔物。首が三つの犬? ケルベロスかな。あれ、倒すのもよさそう)
リアは好奇心に満ちた目でケルベロスを見ている。そのケルベロスは巨体である。リアはケルベロスとは戦ったことがないので、その個体が普通のものなのか、違うのかは分からない。
ただ気配は強そうである。ただそれだけの理由でリアは倒してみようかなどと思う。
もちろん、殺されるつもりはないので慎重に近づくつもりであった。
だけど、そのケルベロスのうちの一つの頭がリアの方を向いた。
「……何かいる。危なさそうなもの」
「何? 本当か?」
「全然分からないが」
その三つのケルベロスの頭はそれぞれ言葉を発した。
(……言葉を喋れるぐらいの強い個体? 普通のケルベロスは喋っているって話、私は知らないけど)
リアは言葉を発したケルベロスに、そんな感想を抱く。
「いや、絶対にいる。姿は見えないが、何かが……何者だ?」
リアはその言葉に、どうしようかと少し悩んだ様子である。
リアが出てこないため、そのリアに気づいた子が「本当はいないのではないか?」「俺も気づけないぞ」などと言われており……、
(……人に害成す魔物じゃないなら、喋るのもあり)
という結論に至ったので、姿を現すことにした。




