リアは夏休みに薬師の元へ行く ⑥
ドナルイは優秀な商人であるのだろう。入手するのが珍しい材料の話を薬師としている。
それに適性価格か、それより少し安い価格で薬師に売っているようである。これで薬師を騙して大金をせしめようとしていたらドナルイの命は此処までだっただろう。
リアは師匠が騙されることがあれば、相手に全く容赦はしないだろう。
(話しかけてくるのは面倒だけど、商人としては優秀そう? そうじゃなければあれだけの材料集められない。師匠が珍しい薬を作るための縁の下の力持ちではあるんだろう。……師匠みたいにあんまり何も聞いてこない系だったらよかったのに)
誰かと親しくすることをリアは好まない。彼女の交友関係と言うのは本当に驚くほど狭く、かぎられている。秘密も多い彼女にとって色々聞いてくる相手というのは苦手である。
(……師匠に材料自分で採取するって言ったら、面倒なことになるかな。師匠はともかくとして他に知られたら色々勘繰られるか。このあたりにそこまで強い魔物が居ないとはいえ、基本的に人の生活圏以外は魔物が襲い掛かってくる可能性があるのがこの世界だから。冒険者とかを雇えば違和感はないだろうけれど……それはそれで面倒なことになりそうだし)
リアがそんな風に思考している間に、薬師とドナルイの会話は続く。
「あの薬草はないのかい?」
「実は薬草の生えているエリアにしばらく立ち入り禁止になっているようなんだ。魔物が出ているとかで……。いつも薬草を採取してくれている冒険者たちも入れないようで……」
「そうなのかい。それは困ったね」
その薬草採取をしている冒険者というのは、ランクの低い者たちなのだろう。
魔物の繁殖期の前触れの時期である今は、魔物の生態が色々と変わっている。ギルドとしても危険な場所に低ランクの冒険者たちをやってその命を散らすのを防ぎたいからこその処置であろう。
リアは高ランクの冒険者であり、《超越者》である。だからこそ魔物の繁殖期の前触れである今の時期でも今までと変わらない暮らしをしている。だけれども、確かにその前触れは様々な影響を与えているのだろう。
(……師匠の仕事にも、魔物の繁殖期の近づきというのは関わっているのか。師匠が欲しがっている素材は……うん、私は持っている。ええっとどうやって師匠に渡すのが一番良いかな。冒険者ギルド経由で、あの商人に落として、それでかな。もちろん、私経由だということはばれないようにしておいて、お義父さんか、ソラトに頼めばよいようにするだろうし)
薬師の求めているその薬草をリアは《アイテムボックス》の中に収納していた。色んな場所に――それこそ普通の人が足を踏み入れることのできないような場所にリアはスキルを使って意気揚々と足を踏み入れていく。その場所には採取できるものも沢山ある。
基本的に彼女は魔物討伐を専門にしているが、《調合》のスキルも持ち合わせているのでそういうものを採取も行っている。
ぽんっと今渡すことは簡単であるが、そうすればどこでどう手に入れたか問い詰められてしまうことになる。そういうことも考えてリアはどういう行動をするかを考えている。
「どうにか手に入らないか色んな所で探してみます」
「ああ。頼んだよ」
薬師はドナルイのことを信用しているのだろう。ただそんな風に告げる。
それからしばらく話して、ドナルイは家を後にする。
ドナルイが去った後、薬師はリアを一瞥する。
「本当に……リアは会話が苦手なんだね。そういう生き方は将来苦労しそうだね」
「大丈夫です。問題なし、なので」
「そうかい」
薬師はそれ以上、リアに何か言うことはなかった。
人と喋ることや関わることを好まず、一人で淡々と生きているリアは周りから見れば誤解されやすく損をしやすいように見えるだろう。だからこそ善意を持ってリアにああした方がいい、こうした方がいいなどと言ってくる人はいないわけではない。リアは薬師がそれ以上何も言ってこないことが心地よいと思っている。
リアはこの世界において圧倒的な強者の立場にあるため、正直どんなふうに生きていくかは自由である。誰かに何か意見される必要は全くないのだ。
(師匠はこういう性格だからいいけれど、さっきいた商人はやっぱり注意すべき。師匠が注意はしたけれど、自分が正しいと思い込んでいるのならば色々口出ししてくる可能性あり。私のためになんてことを名目に何かされるの面倒。なるべく師匠がいる時以外はあの商人といないようにする方がいい。二人きりじゃないなら、師匠が注意してくれるはず)
薬師はそういう性格だからこそ、リアに師匠として選ばれた。しかしドナルイはリアにとって一度の邂逅で関わったら面倒な枠に入れられてしまっているらしかった。
「師匠、あの商人、面倒だったら私、ちょっと怒るかもです」
「……話しかけないようには再度言っておくよ」
「ありがとう、ございます」
薬師の言葉に、リアは頷くのであった。




