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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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リアは夏休みに薬師の元へ行く ②

 リアは黙々と、ただ調合を進めている。

(結構うまく出来たかも。こうやって調合が上手く出来ると楽しい)

 戦うことを好み、強くなることを誰よりも望んでいるリアだが調合なども好きである。自分のスキルを磨くことが出来ることはリアにとって嬉しいことだ。

 そうやって調合をしながら、ふと、外を見ると……、

(なんか、ソラトいるし。私が此処にきているのどこかで聞いたのかな)

 リアは外にいるソラトに気づいて、思わずそんなことを考える。

 ソラトはリアの視線に気づいて手を振って、そのまま去って行った。

 おそらくリアの姿を一瞬見たかっただけなのだろう。

 薬師は外にいるソラトには当然気づいていないようだ。

「師匠、そろそろご飯します?」

 リアはしばらく調合の作業を行った後、丁度良い時間になったので薬師にそう声をかけた。リアは基本的に自分本位な人間なので、誰かのために行動することはあまりない。

 なので、ネアラなどがこの光景を見たら驚くことだろう。

「ああ。そうするかい」

「私、作ります。料理習いました」

 リアは有言実行な存在なので、少し前に宣言した通り料理を習っていたようである。

 彼女は一見すると感情が見えない。基本的にその表情は変わらないし、何を考えているか分からないものだ。それでもこういう言葉をかけられると、リアは案外情が深いのだと薬師は思った。

「期待しているよ」

「はい。キッチン借ります。あるもの、使っていいですか? 駄目なら一旦、買い物してきます」

「使って構わないよ。材料が足りないなら買い足していい。そのお金は私が払おう」

「ん。大丈夫です。そのぐらいのお金、自分で払います。お世話になってるから。上手く作れないかもです」

「こういうのは何度もやれば上手になるものだよ。それにどうしても料理が上手く出来ないようなら私が作ればいいだけだから」

「ん。頑張ります」

 リアがそういえば、薬師は笑った。

 その後、どんな食材があるか確認したところ、あるものだけではリアが作れる料理はなかったので買い物に出かけることにした。

 基本的にリアは、自分の足で買い物に行くことは少ない。保存食を食べることも多いのから。

 リアは《何人もその存在を知り得ない》を使用せずに出歩くことがそこまでないので、少し落ち着かない様子で買い物に出かけた。

(……姿現しているときに、面倒なこと起こらなければいいな。卒業後、此処で暮らすようになるのならば、慣れなければならないけれど)

 リアはそんなことを考えながら、必要な材料を頭の中に浮かべる。料理と言う行為をそもそもあまりリアはしないので、ネアラから聞いた材料を思い起こして買っていく。

(卒業した後、師匠の手を煩わせるより私が作った方がいい。弟子の方が師匠に料理を作る方が王道な感じだしね。そうなるともうちょっと色々料理のレパートリーを学んだ方がいいかも。師匠が飽きない感じにした方が多分いい)

 師匠に対して弟子というのは敬意を抱くべきものである。弟子であるのならば師匠の手を煩わせない方がいいともリアは考えている。

 彼女が作ることの出来る料理の数は正直言って限られている。基本的にそういうことよりも、強くなるために鍛錬をすることばかりに必死だったから。基本的にストイックなリアはそんなものに時間をかける必要性もないとそんな風に考えていたのである。

 だけど今は、料理をする必要を感じている。

(家事も出来るようになった方がいいか。ネアラが来てから、大体ネアラ任せ。あとソラトが掃除とかしてくれたりしてたから、そこまで色々やってこなかった。薬師の弟子としての生活は、学園生活とはまた違ったものになるはず。基本的には師匠以外とは話さずに済むはずだけど、今よりもユニークスキル使わずに外に出ることが多くなるなら関わる人も増えるかも……。なるべく、誰とも関わらずに生きた方が楽だけど、どうなるかな)

 ユニークスキルを使わずに外を出歩くということは、それだけ周りにリア・アルナスという少女が認識されるということである。

 今の学園生活とはまた違う暮らしが、この街では待っているだろう。

 リアは少しだけそのことに関して、色々考えているらしい。

 戦闘の場であるのならば、敵対するものはただ殺せばいいだけだ。そこに交流なんてものは必要ない。――しかし、街中で突然気に食わないから排除するというのは出来ないだろう。彼女の素性が広まればどれだけ自由にしていても大体は許容されるだろうが、そもそもそれを広める気は彼女にはないのだから。

(……よっぽど、アレなことがあるなら考えよう。基本的には普通に暮らしていればそこまでのややこしい事態には陥らないはず)

 結局リアはそういう結論付けた。

 そうこう考えているうちに、買い物を終えてリアは薬師の元へ戻った。

 そしてそのまま薬師に料理を振る舞うのであった。




 

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