夏の日に、ソラトは将来のことを考える ①
「リアちゃんに会いたい……」
ソラトはそんな言葉を口にして、うなだれている。
場所はリアの家。まるでわが物顔で、リアの家でだらしない様子を見せている。その目の前には、ネアラとヴィヴィヨンがいる。
基本的にリアから気まぐれにしか構われることのない三人がこうしてこの場に揃っている。
中でもソラトはリアに会いたくてたまらない様子である。リアは今でこそ、学園に通っているので学園がある間はいつでもソラトが見ようと思えばリアの姿を見ることが出来るが、リアはそうでない場合は中々捕まらない。
ソラトはリアに追いつけていない。
その年にしては強者であることは疑いもないことだが、リアはそれ以上に強者である。
リア・アルナスとはそれだけ異常で、特異な存在である。
「ソラ兄って本当にリア姉のことが大好きだよね。ソラ兄ってわざと弱いふりとか、周りから侮られるような行動せずにスのままだったらもてそうなのに」
ソラトは見た目も悪くない。それでいて《炎剣》などと呼ばれている強者である。その素の状況を見せつけていれば、それはもう色んな人が寄ってくるだろう。きっとその生き方の方が楽だろう。それでもソラトはリアという光にあてられて、今の道を選んでいる。
「嫌だよ。俺はその他大勢に何を思われようとどうでもいいから。リアちゃんだけが俺を特別に思ってくれればそれでいい。リアちゃんがどう思っているかが重要で、それ以外なんて気にする価値もない」
「ソラ兄って……、本当にぶれないよね」
「リアちゃんは目立つことを嫌っているし、ああいう性格だから俺が目立つ行動ばかり起こしていたら俺に近づいてくれなくなっちゃう」
「それはそうだね」
――ソラトにとってはリアが全て。それ以外はどうでもいい。考える価値もない。ソラトは望めば色んなものが手に入る立場にある。それだけの力をソラトは持ち合わせている。それでも、そんなものはソラトにとってはどうでもいい。
ソラトにとって重要なのは、本当にリア・アルナスというただ一人の少女のことだけなのだから。
(リアちゃんが、俺のことを幼馴染としてだけじゃなくてもっと特別に思ってくれたらいいのに。そのためにはもっと強くならないと。ユニークスキルを使ったリアちゃんに気づけるぐらいに。でも絶対にリアちゃんから脅威に思われちゃだめだ。そうなったら案外臆病なリアちゃんは俺に警戒して近づかなくなるかもしれないから。リアちゃんが本気で俺から逃げたら、俺は中々リアちゃんを探せなくなってしまうから)
――ソラトはリアが、完全に自分から逃げることをいつだって恐れている。
リアのことが特別で、それこそ依存していると言われるぐらいにはソラトはリアのことを好きでたまらない。
「自由気ままなリアちゃんは、どこかに飛び立つことを決めたら本当にどこにだって行けてしまう。それこそ、俺なんかじゃ手が届かないところにだって」
「……そうだね。私のことだってリア姉が気まぐれに構っているだけであって、いつだってリア姉は私を捨てることが出来るから」
ネアラにとってもリアという存在は特別である。そのリアはいつだってすべてを捨てることが出来る。尤もそれはソラト相手にもネアラは言えることである。ソラトだってネアラがリアの義理の妹ではなければこんな風に面倒を見てくれることはない。結局強者の気まぐれで、構われているだけである。
「ソラ兄はきっとリア姉が一生振り向かなくても、ずっとリア姉のことを追いかけてそうだよね」
ネアラはリアがソラトにそれだけ関心を求める日が来るとは思っていない。
ソラトがどれだけリアを好きでも同じだけの気持ちをリアは返すことはないだろう。それだけリアは自分が強くなることが第一で、それ以外のことはどうでもいいと思っているから。
あるとすればあまりにもソラトがしつこすぎるから諦めて折れるぐらいだろうか。ネアラはそちらの方がしっくりときていた。
「リアちゃんはそうだろうね。でもそういうリアちゃんだからこそ俺は好きなんだから、俺はリアちゃんをずっと追いかけるだけだ。いつか追いつきたいけど、リアちゃんは本当にどんどん先に行くからなぁ。せめてリアちゃんが表舞台に出ている間に、リアちゃんの傍に出来る限りいることだな。リアちゃんは《超越者》だから、一か所にずっと留まり続けることはしないから」
リアは学園卒業後の就職先を決めているが、《超越者》であるリアは姿かたちが幾ら年月を経ても変わらないので一か所に留まることはしないだろう。
――リアが表舞台に大人しく出ている間にソラトはなるべくリアの傍に居たかった。そうじゃないと、リアと中々会えない生活になってしまうから。それこそ学園入学前はそうだった。なのでソラトにとって学園生活は割といつでもリアを見れるのでとても幸せである。
「俺もリアちゃんが姿を隠すなら、リアちゃんを探しに追いかけるつもりだからその準備も今からずっと進めている」
ソラトはもうそういう未来を考えている。




