夏休みは鍛錬の日々 ③
リアは決して善人ではなく、ただ自分の思うままに動く強者である。誰かが死ぬのを見るのは嫌だななんていう思いから人助けはしているが、それだけである。
リアは横領などをしている人を観察している。
誰もリアのことを認識しない。それだけリアのユニークスキルは周りに知られないものである。
(んー? 黒いと言えば黒いけれど、孤児院とどんなふうに関わっているかというのが分からないな。うまく隠しているっぽい? 少しだけ観察するだけだとぼろを出さない可能性もあるかな)
夏休みという短い間で、この孤児院の問題を解消できるかリアには分からなかった。もっと証拠が簡単に集まっていれば別だが、そうでないならすぐには動けないものである。
数日は観察をしていたけれども、結局すぐには情報は集められない。ずっとこの場を観察しているわけにもいかないので、リアは一旦別の場所に向かった。
やることと言えば鍛錬である。
リアにとって強くなることは一番優先すべきことなのだ。
(……夏休み中にどれだけ強くなれるかな? 魔物の繁殖期に向けて、強くならないといけないから)
リアはずっとそういうことばかり考えている。
来る魔物の繁殖期――それに向けて、リアはより一層強くならなければいけないという気持ちでいっぱいである。元々強くなることに貪欲なリアがいつもよりもそういう思いが強いので、リアは鍛錬してばかりである。
とはいえ、卒業後に働く予定の薬師のもとにはちゃんといっているし、ルーンと遊びという名の殺し合いはしたりしている。
……ソラトやネアラにあまりかまってないので、二人は色々思うことはありそうだが、リアは相変わらずである。
リアは今日も魔物を切り裂く。
魔物を倒して、倒して、倒して――、それでもリア・アルナスは満足しない。もっともっと強い魔物に会いたいという、そういう気持ちでいっぱいのようである。
リアは基本的に戦うことが好きである。
深く考えることよりも、身体を動かした方が好きなのだ。
リアは脳筋な考え方で、それだけの力がある。だからこそすぐに倒してしまおうとそんなことばかり考えているのだ。
近辺で魔物を退治しながらも、時折確認する。
しかし横領している真っ黒な人は、まだまだリアが気にしている孤児院とどういった関わりがあるのか分からなかった。
(うーん、横領はしているけれど……。それだけで突き出して孤児院側の方まで調べられないとかはありそうだから、どうしようかな。ずっとここにとどまっているのもあれだし、お義父さんにひとまず報告しておくか)
一旦、このまま夏休み中この周辺にいるわけにもいかないのでリアはギルドマスターに報告だけして様子見しておくことにする。夏休み中にその問題は解決しないかもしれないが、ギルドマスターが見ていればそのうち何かしら発覚することだろうと結論付けたのである。
そういうわけでリアは今度は別の街に顔を出した。
とはいえ、相変わらずユニークスキルを使って誰にも気づかれていない。
《トラブルホイホイ》の称号を持っているからか、そこでもなんだか怪しい人を見かけた。その人は薬の販売人である。所謂麻薬と言われるものだ。この世界では魔物の材料からとれる麻薬がそれなりにある。人が中毒に陥ってしまうようなそれは、一時的に摂取するだけならばその人を高揚させるだけのものだ。そのため、一部の地域では禁止されていない。しかしリアが今いる街では持っているだけで問題になるものだ。
そもそもそういうものが広まっていければ国家としての力は低下していくものなので、そういうものが広まるのを良しとしないのは当然だろう。
ただそういうものが広まっている場所も当然ある。犯罪都市の様な場所もある。そういう場所にはリアは行ったことがない。
とりあえず幼気な子供を騙して麻薬を広めようとしていた犯罪者をリアは拘束し、騎士の詰め所に放り込んでおいた。
(……この街の闘技場でも広まっているのか。ふぅん)
その街では有名な賭けの場所でもある闘技場がある。その闘技場で勝ち続ければ名声をあげることも出来る。あとは借金などで奴隷に身を落としてしまったものが自分の身分を買い取るために戦っていたりとか、そういう場所だ。
それは一般大衆にとっての賭けの場所にもなっていたりもする。リアの前世で言う所の競馬などと同じような位置づけでそれにお金を費やして破産するものもいる。リアは自分でお金を幾らでも稼げる存在なので、そういう賭け事をすることはほとんどない。
そう言う場所で自分の名声をあげたいからという理由で、その麻薬を摂取して戦ったりしているようだ。
(麻薬を摂取して、勝てても意味がないのにね。今がよければそれでいいって思考なのかな? 私には理解が出来ないけど)
闘技場が活発化すればそれだけ街の収入にもなるので、闘技場だけで麻薬が広まることは許容しているようだ。多分、そういうことをしているからこそ街自体に麻薬が広まろうとしているのかもしれない。




