入学して一か月半経つが、《姿無き英雄》のぼっち生活は続く
リア・アルナスがアルフィルド学園に入学して、既に一か月と少しが経過している。
この一か月の間にリアは学園でこそこそと好き勝手に過ごしていたり、ギルド会議に出席したり、ネアラを救い出したり、エルフの女王様と出会ったりと色々と普通じゃない生活を送っていたりする。
が、それもまたリアにとっての日常であり、特に騒ぐことでは何もなかった。尤もネアラが義妹になったり、エルフの女王様と出会ってしまったことはリアにとって全くの想定外の出来事であったといえるのだが。
《姿無き英雄》――なんて呼び名でリアが呼ばれ始めて早数年。強者として注目される存在でありながらも、リアは個人情報を一切隠して、平然と学園生活を送っている。
《姿無き英雄》とは、文字通り姿の見えない英雄。性別も、名前も、見た目も、声も、年齢も、全てを明かさないでおきながらも、その存在をこの世界中に知らしめている紛れもない強者。
多くの者が《姿無き英雄》にあこがれている。
多くの者が《姿無き英雄》を目指している。
そんな存在であるリアは、今日もアルフィルド学園で元気にぼっち生活を送っていた。
強者というものは、人に焦がれ、求められ、常にその周りには人が群がるものだ。この学園の生徒たちだってリアが《姿無き英雄》だと知っていれば放っておくことももちろんないだろう。
――ただ、彼らは学園で目立たず暮らしているその少女が、リア・アルナスが《姿無き英雄》だなんて考えもしていないというそれだけの話である。
今日も、リア・アルナスは誰とも会話を交わす事をしない。
前世からコミュ症を煩わせているリアは、基本的に人と会話をすることを苦手としている。慣れていない相手とはまず喋らない。そもそも人となれ合う暇があるならば、強くなるために自身を磨きたいなんて考えを持つのがリアである。
休み時間の度にリアは大抵本を読んでいる。
《隠蔽》のスキルで簡単な、誰でも読むような書物の題名を偽っているが、実際に読んでいるのは実戦向きの本とかばかりだ。前世で引きこもりで、ゲームばかりしていたリアだから、物語とかも読まない事はないけれども大抵が実践に役に立つものばかりだ。
そもそもこの世界では印刷技術が地球より発展しておらず、書物はそこそこ高価なものだ。リアは学園の図書館で借りたものだという《隠蔽》を行ってそれを読んでいた。まぁ、実際はギルドの図書館から借りてきたものや自分がギルドマスター経由で購入したものばかりなのだが。
(これ、結構面白い。役に立ちそう)
一人書物に目を通してそんな事をリアは考える。周りが楽しそうに友人と話している声を聞いていても、リアは特にそちらに対する関心はない。
リアが学園に来た目的は、薬剤師か司書の資格を取るためであって誰かとなれ合うためではない。アルフィルド学園という名門学園の卒業資格さえあれば最悪資格が取れなくても就職に困る事はないため、とりあえず卒業資格がほしいだけであった。
《ギルド最高ランク》所持者というのも立派な仕事なのだが、それは隠れてこそこそやる副業にしたいなんていう願望のあるリアにとって別の仕事をするのは至極当たり前の事であった。お金に困っているわけではない。ギルドでの依頼をこなしているうちに貯金は凄まじい事になっている。
それでも働かないという選択肢はリアにはない。リアの目標は”普通に暮らしながら”、もっと自分を磨くこと。
自分で薬剤を調合できるならば今後は楽だし、本が好きだから司書になるのもいいかなとそんな風に思って、資格を取るためだけにリアはこの学園に居る。
リアは、学園でいつだって一人だ。時折、ティアルク・ルミアネスたち一味が話しかけてくることもあるが、それを受ける事はない。そもそも一人で可哀想などという同情心から近づかれてきても良い気持ちにはならない。
そして時々リアのクラスの前を通るソラトがリアに話しかけたくてうずうずしているのを見るが、リアはそれは華麗にスルーしていた。
お昼休みだってリアはのんびりと一人で食事をとる。教室、人気のない裏庭、学食――リアが食事をとる場所はその日の気分によって様々だ。
誰に誘われても断り、マイペースにぼっち生活を送るリアの事を学園の生徒たちは割とそういう存在であると認識して干渉しようとはしない。そもそも弱者に偽装し、平民であり、しかも性格的にも面倒なリアに近づく者など居ないのも無理はないだろう。
あまり人と交流を持たないリアだが、学園内の情報は他の人よりも知っているだろう。それは休み時間などでユニークスキルを使って学園内をうろちょろしているからだ。
自分から望んで入学したためリアは学園での生活が嫌いなわけではない。寧ろのんびりと出来るし、時折面白い情報が転がっていたりするため面白がっている節がある。
適当にのんびりと一人でリア・アルナスは学園生活を過ごす。
―――《姿無き英雄》というその一面を一切隠し通しながら。
英雄のぼっち生活は続いていきます。




