学園でうろうろしながら、観察中 ①
リア・アルナスは、魔物の繁殖期に対して準備をしていようが、学園卒業後の手続きをしていようが、結局のところいつも通りである。
学園に真面目に通い、授業を受ける。
ただただ誰とも会話を交わすことなく、移動の際には《何人もその存在を知りえない》を行使して、動き回る。
リアは今日も学園内を徘徊している。
リアが移動していても、誰一人リアの存在に気付く事はない。
(それにしても学園内は、落ち着いている。魔物の繁殖期の情報が広まれば混乱に陥るだろうから、大抵は知らないと見るべきか。でもあのハーレム主人公はそのうち知らされるかな? ゲンさんとルノさんは敢えてあのハーレム主人公に魔物の繁殖期のことを言わないかもしれないけれど……どこかから広まる可能性は十分ある。その時に騒いだり、広めたりしたら、まぁ、処分ものだよね)
実戦経験を積んでいるリアからしてみれば、幾らこの学園の生徒たちが同年代の者よりも戦闘経験があろうとも――魔物の繁殖期の際には役に立たないものが多いだろうと理解している。
出来ると口にするだけならば簡単でも、実際に役に立てるものは一握りである。そしてそういう場面で実際に出来たものこそ、《超越者》になれる素質のあるものと言えるのかもしれない。
ティアルク・ルミアネスには、魔物の繁殖期が訪れる情報が一般人たちよりも早いだろう。必要以上に広めないようにと言われていても、隠し通せるのか? と考えるとリアはティアルクは隠せないだろうと思っていた。
(……まぁ、そのあたりは私の考えることでもないか。普段から魔物の討伐などをしている人たちは知らされていなくても感づいてきてはいるだろうけれど、それ以外の人たちはまだまだ気づくこともない。知っている人が死ぬのもなんか気分が悪いから、この学園にまで被害がないようにはなるべく守っておこうかな。結局魔物の繁殖期はこれから起こることだけど、何時頃起こるのか明確に分からないからやりにくいんだよね)
リアは《空中歩行》スキルを行使して、道のない場所を移動している。考えているのは魔物の繁殖期についてのことである。そうやって考えながら歩いていたら、教師たちが話しているのを目撃した。
人目につかない場所で、わざわざ人に聞かれないように魔法を使って話している。とはいえ、リアはそれをかいくぐって会話を聞くぐらい造作もないので、盗み聞きしていた。
「では本当に、魔物の繁殖期が起こると?」
「そうだな。今年か来年かそのくらいだろう」
「……となると、今年の課外実習は行わない方がいいのでは?」
「そのあたりは事前に課外実習場所の視察をしたうえで問題なさそうなら行うことになるだろう」
魔物の繁殖期が起こるかもしれないということを知った教師が不安そうにしているようだ。
(課外実習かぁ。それもあったか。そこで魔物が大量に出てくるって可能性もあるよね。ただでさえ、色々引き寄せるようなハーレム主人公もいるわけだし。んー、フラグだなぁ)
リアは毎年のように色々起きている課外実習では、絶対に何か起こるだろうなとは思っていた。とはいえ、何か起こったとしても結局リアのやることは変わらないので、それはそれである。
(教師から不安が伝わっていって……そのうちその不安が伝染していくとかあるのかな。一応この二人の教師のことは時々観察しておくか)
リアはそんなことを思いながら、教師たちの会話が一旦終わったのでその場を後にする。
リアはその後訓練所に向かった。訓練所には多くの生徒たちがいる。毎日コツコツと訓練を積むことは良いことだとリアは思うが、脳筋気味の思考のリアはそれよりも実戦で魔物の巣にでも突っ込んだ方がいいのでは? とは思っている。
じっと覗き込んだ先で、人だかりができていた。
その人だかりの中心にいるのは、ティアルク・ルミアネスである。生徒会長であり、この学園内での強者であり、闘技大会でも優勝し続けているのだ。この学園内でも最も人気が高く、有名人であると言えるだろう。
どうやらティアルクに教えを乞うものたちがいたらしく、それに応えて訓練をつけているようだ。
(ハーレム主人公、三年生に上がってから結構生徒たちに訓練をつけていることが多いんだよね。生徒たちが強くなるのは国のためにもいい事かなって思うけれど、自分の訓練はそこまでしてなさそう)
実際は訓練はしているのだが、リアの目からしてみればあまり訓練をしていないように見えていた。
自分を弱いと思っているものは、他人になんか構っていられずに強くなろうと必死になるものである。リアも他人を鍛えることよりも、自分を鍛えることに必死である。その必死さというのは強くなるために大事なものである。
(必死さがあまりないんだよね。ハーレム主人公って)
リアはそんなことを考えながらもティアルクの訓練の様子を覗き見していた。




