薬を売っている連中 ④
マナの言っていた魔物の繁殖期を長引かせようとしていた組織。
彼らは何の目的をもってそんなことを行っているのか、リアには理解が出来ない。長引かせることによって一時的な利益を得ようとしているのか、それともただただ人の不幸が好きだからという理由でそういうことをしているのか。
――どちらにせよ、これから魔物の繁殖期が本格的に始まる段階で、そういう存在はいない方がいい。
(んー。私は正直彼らの思想は理解出来ない。そういうのはどうでもいい。ただ人が死ぬのはなるべく見たくないし、こういうのは先につぶしておきたい。下手にかき乱されたら困る。そういう魔物の繁殖期を長引かせようとする人って、自分が死ぬことを考えていないってことだろうか)
リアはそんなことを考えながら、少しずつ情報収集をしている。正直、過去の魔物の繁殖期に長引かせるためにかき乱した時の記録はあまり残されていない。文字として残すことはほぼないようだ。けれど完全にないわけではない。
そういう隠れている情報を探し出すのに、リアのユニークスキルは適している。
あとは口頭で伝えられている情報を聞き取ることもリアには可能だ。リアはこのまま魔物の繁殖期をかき乱されると困ると言う理由で動いている。
リアに目をつけられたその組織は不運であったと言えるだろう。
リア・アルナスは、ただただ目的のために躊躇いもせずに動いている。少しずつ組織の一員を見つけては、ギルドマスターへと連携をする。少しずつでもリアはその組織を追い詰めていく。
――その組織は用意周到である。追い詰められれば、尻尾を切り落としてすぐに逃げ出そうとする。少しずつギルドが動いていることもその組織は悟っていたのだろう。
こういう組織は、少しでも自分に分が悪いと思うとすぐに生贄を作って、そのまま逃げ延びるものである。そういう組織だからこそ……リアは見つけられた。逃げようとしている存在を。
どれだけ蜥蜴の尻尾切りのように騒ぎを起こしてギルドに捕らえられるものが多く存在していようとも、そちらに注目をさせようとしていたとしても――リアはじっくりと観察しているのだ。
(あれかー)
リアは、それを見つめていた。
この国から手をひこうとしている、その存在を観察して、見つけたのだ。
それは国外にも名をはせる商会だった。大きな権力を持っている。それでいて清廉潔白なイメージを持つ。国が大変な時には力を貸し、戦争が起きた時には貧しい人たちに炊き出しをしたりしていた。そういうこともちゃんとやっている。
それでも世界をかき乱すことを少なからずやっている。
リアだってユニークスキルを持っていなければ、そういうことをやっていると気づけなかっただろう。リアはそれをなんとか見つけた。
(ふーん。商会かぁ。末端の人たちはこの商会がそういうことを行っていることは知らなさそう。トップは真っ黒かな。薬をバラまいている組織の方でもこの商会とのかかわりを知らない連中も多いみたい。そういう風にしているからこそ、足を掴まれなかったって言えるのかな。というか、いきなりこの商会のトップを殺したら色んな影響起きそう。そういうのも考えてこういう風に行動しているのかな? さーて、とりあえず捕まえようか)
その商会のトップは、この国が混乱に陥るのを見たかったのか、それともよっぽど肝が据わっているのか、この国に居座っていたようだ。
そこを、リアが捕まえた。
周りの商会の者たちは商会がそういう組織とつながりがあることを分かっていないようなので、とりあえず殺しはせずに回収する。急に気絶させられた彼らはたまったものではないだろうが、まぁ、それはそれである。
リアは彼らを気絶させ、組織と繋がっている商会のトップである中年の男性を回収する。……誘拐とも言えるかもしれない。ちなみに以前の魔物の繁殖期のことを考えれば、この商会はずっと前の代からそういう組織を運営していたと言えるのかもしれない。
(はー、面倒だしこの人はお義父さんに回そうと。私がやるよりそっちの方がきっといいし。というか私じゃ、どんな風に折り合いをつけた方がいいかもわからないしね。それにしてもこういう連中ってどうするのを考えるのが為政者とか上に立つ人だよね。私には無理だな、うん)
リアはあくまで自分勝手に戦う存在である。そういうことを考えるのは、為政者の仕事である。
「お義父さん、これ。逃げようとしてた。組織のトップ?」
そういうわけで急にリアは誘拐してきた男を連れてきていた。突如、やってきたリアにギルドマスターは呆れてはいるものの、驚きはしない。リア・アルナスがそう言う存在だと分かっているのである。
「どうする? お義父さん、殺すより連れてきた方がいいと思ったけど」
「そうだな。いい判断だ」
「……これ、どうする? お義父さんに任せていい?」
「ああ」
「ん。じゃあどうするか決まったら言って。この人、殺すの不味いなら、他殺しに行く?」
「それは、後でな」
「うん」
リアはそんな会話を交わして、その場を後にするのだった。




