王女は強さを求めてる ①
コルネッタは王女という立場である。それゆえにコルネッタの周りにはそれはもうたくさんの人が集まっている。コルネッタにとって、人が周りに集まるのは当然のことであった。
学園に入学してからは、より一層同年代と接する事が増えている。
交友関係を広めることはコルネッタにとっても望むことであるが、それでも将来のためにはならない繋がりというものもあったりする。王族として、周りに侮られることのない態度をすることを心掛けているコルネッタは、これだけ多くの同年代と接する事に少なからずの疲れを感じていた。
(……これが《超越者》であったならば、周りの目なんて全く気にせずにただただ自分がやりたいように生きていくんでしょうね。やっぱりそういう存在は凄い。この世界にとっての英雄であり、どんな権力者にだって屈しない強さを持っている)
強いということは、それだけ権力である。どんな権力者であっても死んでしまえば終わりだ。
――権力者だろうとも、圧倒的な強さを前にすればただの人である。例えば、ドラゴンのような強大な力を持つ魔物のような存在に襲われれば権力なんて何の意味もなさないものとなってしまうものである。そういうものであるから、権力というものは力の一つであるが、絶対的なものではない。
そもそも王政も時と場合によっては意味のないものになる。クーデターなどが起これば、コルネッタだってその立場を失ってしまうだろう。そしてそういう時には、コルネッタの周りに集まってくる人など限られてくるだろう。
王女というその立場を持つからこそ、周りから人が集まってくることをコルネッタは十分に承知している。王女という立場がなければ、コルネッタはただの小さな少女でしかない。
それを王女として認識しているからこそ、余計に《超越者》という存在に憧れるのかもしれない。ただ一人の個として、ただその人自身がそこにいるだけで――、それだけで人が集まる。立場を失ったとしてもその強さは揺るがないから。その生身一つで生きてきたつよさは残るから。
彼らにとって、立場は何一つ関係がない。
ただその身一つで、大きな重圧や責任が大きい王侯貴族と渡り合える。
(それにしてもここの授業はとても役に立つわ。流石、有名な学園だけあるわ。私は王女で、後々政略結婚の手駒になるだろう。今はまだ戦争なんてここでは起きていないけれど、これからどうなるかもわからないし。それに……お父様から魔物の繁殖期が近づいてきていることを聞いた。まずはそこで生き延びることと、民を守ることを第一に考えないといけない)
――王族として、王女はその情報を王からもらっていた。
それで動揺しなかったと言えば嘘になる。それでもコルネッタは、王女として戦う力を求めている。より一層、鍛錬に励むコルネッタの事をまわりの生徒は熱い目で見つめて、コルネッタのように頑張ろうと鍛錬をしているので、良い相乗効果を生んでいると言えるかもしれない。
(……混乱を防ぐために一部の人たちにしかまだそのことは伝えられていない。私の周りにいる生徒たちはそれを知ったらどうするかしら。そういう時に限って、その人の本心が透けて見えるものだわ。逃げるか、戦うか。でも勝てない相手には逃げるのもアリだから、どれが正しいとかはないのだけれども。でも混乱して他の誰かの命が危険に陥る事は当然あるもの。私も……本当に命の危険に陥ったらどんな行動をしてしまうか分からないわ。王族として相応しい態度をしたいと思っているけれども、結局そんなのその立場になってみないと分からない)
学園生活を通じて、コルネッタは多くの事を学んでいる。少しずつ自分でも強くなっている実感はある。だけれども、なんだか……それでも足りないと思ってしまう。
人に囲まれる王女という立場。王族として自由に使えるお金も一般人よりは多いだろう。強さも一般的にみれば強い方だろう。コルネッタは多くの物を生まれながらにして持っている存在である。それでも人というのは欲張りなもので、コルネッタはまだまだ足りないと思っている。
その心は、《姿無き英雄》に憧れているというのもあり強さを求めている。
王女という立場だからこそ、がむしゃらに魔物退治などに向かえないというのもコルネッタにとっては一つの枷である。騎士を連れて、魔物退治にはよく向かっているが、それでも足りない。
(もっと強くなるためには、どうしたらいいかしら。魔物の繁殖期に備えて……もっと強さが必要だわ)
そう考えるコルネッタの耳に、レベルを上げるための薬があるという怪しい噂が入ってきた。
それは街の裏通りで売られているものらしい。学生の中には、その薬を実際に服用してしまったものもいるんだとか。その者がわざわざ「殿下には特別にお伝えします」といってその薬の情報を伝えに来たのである。
その学生は、特別な情報をコルネッタに与えたというそういうつもりらしい。




