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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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ネアラの決意 2

 ”どうしてそこまで強くなれたのですか”


 その言葉を投げかけたネアラは、リアとソラトの返答を待つ。

 最強の一角である《姿無き英雄》とその幼馴染でありSSランク所持者の《炎剣》の答えを聞きたくなってしまったから。

 「…どうして、そこまで強くなれたか?」

 「はい」

 「どして、それ、聞く?」

 ネアラを射抜くように見つめて、リアは言った。

 「この前、貴方は妾に強くなる意思はあるのか聞きましたよね。妾は強くなりたいとは思います。だけれども、強くなりたい理由が、妾には思いつかないのです。

 だから――、お二人が強くなりたいと願った理由を参考に聞きたいと思いました」

 真っ直ぐにリアとソラトの目を見る。逸らされない目。そこにこの前の、おどおどとした迷いの気持ちは見られない。

 それがわかるからこそか、二人は答えた。

 「……死にたくなかったから」

 「リアちゃんにおいて行かれたくなかったから」

 二人の答えは簡潔だった。

 本当に単純で、答えられた方は「それだけ?」と思ってしまいそうなほどに簡潔な強くなりたい願う理由。でもきっと本人たちからしてみれば、明確な理由。

 そもそも強くなろうとすれば、それだけ命の危険がある世界だ。強い意志がなければ、強くなる事を人は途中であきらめてしまうものだ。挫折することなく、その思いを胸に自分を磨いたからこそ、《姿無き英雄》リア・アルナスと《炎剣》ソラト・マタリが居るのだろう。

 折れない思いは、ずっと心の内にある強い思いは、人を動かす力になる。そんなこと、ネアラにだってわかっている。身を持って知っている。ネアラもリルア皇国に居た頃、力をつけたのは生きるためだった。

 でも、分からない事もあった。

 「《姿無き英雄》は……今も、死にたくないと力を磨いているのですか?」

 リアはその言葉に頷くだけだ。めんどくさいのか、答えはしない。

 「でも、貴方は《ギルド最高ランク》所持者で、《超越者》です。そんな貴方を死に追いやるものなんてほとんどないのではないですか」

 それは尤もな理由であった。《超越者》に至れるほどに強者であるというのならば、よっぽどの事がないと死なない。死に追いやるものなんてない。

 だけど、リアは首を振った。

 「それ、違う」

 そう告げて、続ける。

 「私、より、強いの、一杯いる。殺される可能性も……、ないわけじゃない」

 自分よりも強い存在は沢山いると。そしてその存在に殺される可能性もあるのだと。

 要するにリアが言っている事は、死にたくないから、殺されないようにこの世界の誰よりも強くなりたいというそういうことだった。

 他人に言えば馬鹿にされてしまうほどに、何処までも被害妄想が強く臆病でネガティブな願望。でもその願望故にリア・アルナスは《姿無き英雄》になりえた。

 戦う事が怖いと引きこもるわけではなく、強くなれば死ななくて済むからと戦闘の中に常に身を置いた。

 「死にたくないから……、強くなった」

 「そう。私は、死にたくない」

 強い意志のある目が、ネアラを見返す。

 「単純なので、いい。強くなりたい、理由ある?」

 問いかけられて、考えてみる。

 強くなりたい、理由を。そしたら、するりと口からその言葉は出てきた。

 「………大切な人を守りたい」

 そもそも、強くなろうと思った当初は自分の母親を、最弱の、スキルも何もない弱い母親を守りたかったからだった。

 それを思い出した。

 そうしているうちに、死なないために強くなると目的が変わってしまったけれど、守りたかったのだ。あっけなく、守りたかったものは手からすり抜けてしまったけれど、自分の母親に死んでほしくなんてなかったのだ。守れなかったけれど、生きていてほしかった。

 (もう、嫌だ。大切な人を守れないなんて嫌だ)

 目的を思い出した当初の、目的をそうしたら、心に湧き上がるのはそんな思いで。

 もう二度と守れないで嘆くのは嫌だとそう思う。

 死なないために一生懸命で、目的が失われたなんて虚無感に浸っていたけれどよく考えればそんなことなかった。

 守るために強くなりたい――っていうその目的は、まだまだ弱いネアラにとってかなえるべき目的だった。

 「そう」

 ネアラの言葉に、リアは珍しく笑っていた。

 ネアラの言葉が、強くなろうという意思がお気に召したらしい。

 「《姿無き英雄》」

 「……一応、姉妹設定。リア姉、呼ぶよし」

 《姿無き英雄》と呼べば、リアはそんなことを言う。一応義理の姉妹になったのだから、そういう風に呼べということらしい。まぁ、確かに外で《姿無き英雄》なんて呼ばれたらリアは相当困る。

 「……適度に、鍛える。死ぬ、面倒。頑張れ」

 リアはただそれだけいうと、またすぐにその場から姿を消すのだった。

 一瞬にしてその場から消えてしまったリアに、ネアラは何度も瞬きをしてしまう。

 「え、ちょ……」

 結局どういうことなのだろうかとよくわからないで困っているネアラの問いに答えたのは、不機嫌そうにネアラを見下ろしているソラトであった。

 「リアちゃんはお前を鍛えるっていってんの。気が向いた時だけだろうけれど。死なれると面倒だから死なないようについてきて、そしてがんばれってリアちゃんがいってんだから嬉しそうな顔ぐらいしろよ」

 長い付き合いのソラトにはリアの短い言葉だけでも色々理解できたらしい。ネアラはその言葉を聞いて、《姿無き英雄》に鍛えてもらえるのだと心を躍らすわけだが。

 「でもまぁ、リアちゃんは気まぐれだからリアちゃんが鍛えるって言い出すまではギルドマスターにでも鍛えてもらっておけば。何もせずにぐうたらしてたらリアちゃんお前鍛えないぞ、いつまでたっても」

 不服そうながらもソラトが一応そんなアドバイスをしてくれるのは、リアがネアラを鍛えると少なからず決めたからであった。

 「……はい! 《炎剣》」

 「それと俺の事も適当に呼べ。……あ、でもどうせなら呼び方リアちゃんと一緒がいいからソラ兄でいいや」

 ソラトもリアと一緒がいいなどといって《炎剣》であることを隠してのんびりと過ごしているので、そんな風に言う。

 ソラトもそれだけ言うと、回転扉の向こうへと消えていくのであった。




 「……妾は絶対に強くなる」


 ネアラは、自分に言い聞かせるようにそんな決意をするのであった。



 

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