リアは、魔物の繁殖を観察する ②
鹿の魔物達の集まる場所を覗き込んで、リアは驚いた。
魔力の渦のような場所から、魔物が現れている。その渦がどこから繋がっているのかはリアには分からない。魔物の繁殖期というのがどういう理屈で起こっているのかは分からない。それはきっとこの世界の人々が誰も解明できていないことである。こうして魔力の渦から魔物が生み出されていく場面など、観察できる人は限られている。
(……魔物の繁殖期。前世のゲームなどでいうスタンピード。それが起こるのは、こうして無限にあふれ出る場所がいくつも存在することになるからってことかな。その渦の中へ入っていこうとする魔物はいない。逆に渦の中へと入っていくことはない。それだけ危険ってことかな)
リアは初めての魔物の繁殖期が起こることに少しの不安と楽しみを感じていた。
(流石にあの渦の中に入り込んだら私も死にそう。死にたくはないからなるべく近づかないようにしたい。つぶしたい気もするけれど、つぶした場合にどうなるかも分からない。魔物の繁殖期は時々起きるもので、一定期間起こらなかったことはない。となると、この世界にとって魔物の繁殖期っていうのは必要なものってことなのかな? 下手に世界の仕組みに含まれているものをどうにかしたら大事になってしまうこともあるかもしれないし。んー。ルーンとかエルフの女王様に聞いて色々考えた方がいいか。ああいう渦って手を出したら逆に魔物が大量に溢れたりとかするのかな?)
リアは前世でこの世界の事をゲームとして知っていたとしても、この世界ではまだ十数年しか生きていないのだ。
それに幾ら知っているつもりでも、世界というのは謎に満ちているものだ。すべてが解明されているつもりだったとしても、そうではないのだ。
(んー、それにしてもファンタジー世界って、前世の世界よりも余計に謎に満ち溢れている。とりあえずあふれ出た鹿の魔物を狩るのは、良しとして……あの渦自体は観察するべきか)
リアはそんなことを考えながら、強化してもらった《白雪》と《黒雛》で魔物を狩った。
(一定の魔物を狩ったら、渦がちょっと小さくなってる?? ふーん。なんかよく分からないけどそういうものなのかな。不思議だなぁ。渦から現れることもあれば、ただ単に魔物が生存本能を刺激されて子をどんどんなしたり……うーん、不思議。というか、そういう気持ちが溢れるって魔物限定なのかな。獣人とかだと発情期とかもあるって聞くけど、人間とかにもそういう影響与えられる時期とかもある? でもまぁ、危機的状況になると人も子供が多くなる傾向にあるだろうから、魔物の繁殖期だとぽんぽん子供も増えるかな)
リアはそんなことを考えながら、やっぱり魔物の繁殖期はよく分からないなぁなどと思っている。
リアは時々、魔物を狩りながら魔物の観察をする。結構、小さな魔物も多くいる。
(というか、子供がどんどん生まれるのは分かるけれど、魔物の繁殖期で人に襲い掛かるとしたらもっと大きくならないとどうしようもないよね。あれかなー。成長がはやくなるとか? それとも人の街に襲い掛かるのは大人だけで、子供の魔物はお留守番していて、次世代に繋いでいくとか? この世界だと時々魔物が突然わいてくることはあるけれど、それが最も活発化するのが魔物の繁殖期って感じなのかな?)
リアは次々と疑問がわいてきて、そんなことを思考している。
魔物の繁殖期も、この世界も謎に満ちている。その謎を知ることが出来ればきっと楽しいだろうとリアは思う。
(魔物の繁殖期は時々しか起こらないから、直近に起こるものを終えたらまた随分先になる。どうせなら、魔物の繁殖期の観察を続けて出来る限り分からないことを知っていければいい。そうしたら次回の魔物の繁殖期に備えられるし。というか、私結構初めての魔物の繁殖期のことを楽しみにしているんだなぁ)
魔物の繁殖期がどんなものになるだろうか。どれだけ狩り放題で、レベルが上がっていくだろうか。そんな風にリアは魔物の繁殖期を楽しみにしていることを実感する。
《超越者》であるリアは、長い時間生き続ける。レベルをどんどん上げて行けば、リアはどれだけ長く生き続けるかもわからない。
その中で魔物の繁殖期にも幾度も遭遇することになるだろう。
その時のためにも良い経験を積んでいきたいと思うのは当然である。
(――さてさて、適度に魔物の間引きはしたけれど、今でこれならこれからどうなっていくかな。どのくらい魔物が増えていくんだろうか。見た事がない魔物もいるだろうし。毒とか異常攻撃持ちももっといるかもしれないし、その辺は対策をもっと練らないと。……そういえば魔物の繁殖期だと、精霊とかはどういう風になるんだろうか。精霊は魔物とは違うだろうけれど、影響受けたりするんだろうか? やっぱりその辺も確認したほうがいいよね。精霊が暴走とかなったら怖いし)
リアはそんな可能性を考えて、マナの元にも話を聞きに行くことを決めた。
しばらく魔物を狩って、リアは街へと戻っていった。




