今日も今日とて空に浮かぶ。
リア・アルナスはその日も空に浮かんでいる。まだまだ天空島のその先に向かうための手立ては確立できていない。
(空の上は気持ち良い。あまり人と関わらずに過ごすのは良い)
リアは空の上を散歩している。
天空島への攻略は、まだまだ難しい。だけど、努力さえ続ければ少なからずの結果につながるとリア・アルナスは思っている。だからこそリアは、こうしてまた空に浮かんでいる。空はリアにとって心地よい場所である。もし姿を隠す必要がある時は、空に逃げるのもありかもしれないなどとリアは思っている。
(今はまだまだ無理だけど、私がもっと強くなったら――しばらく天空島のずっと上の島で、のんびり過ごすのもありかもしれない。私がこれからも《超越者》だとバレないようにするためには、普通に生活をするのと、姿を隠すのとかを繰り返すべきだろうし)
リアは将来のことを考えている。薬師の弟子になり、薬師として生きていくことは決めている。とはいえ、リアは身体が成長をしないため、ずっと同じ場所に留まっているわけにもいかない。
(んー。師匠の所でどのくらい過ごすかの目途をたてておく必要はある。長くても十年。でも十年後の二十八歳ぐらいでも私がこのままの姿だと師匠もいぶかしむだろうから、もう少し短めな区切りかな。一応二十八歳ぐらいなら、若作りで通るか? 見た目より若い人はこの世界にもいるし。とはいえ、私は今年十八歳になるっていうのも信じられないぐらいなんだから、もうちょっと悟られないようにしないと。大陸をまたいで、ある程度の期間で移動するのと、本当に人がいない場所に行くのと、そういうのを考えないと)
リアの身長はとても低い。今も十八歳だとは初見の人は思わないほどだ。
これから先、十年、二十年、三十年――ずっと先もリア・アルナスは、今の見た目のままである。それは普通ではありえないことで、それを知ればリアが《超越者》であることを周りは悟るだろう。だからこそ、リア・アルナスが《超越者》であることを隠すことは難しいと言えるだろう。
(……うん、ある程度の道筋は考えるけれども、それ以外は思いっきりよく行こう。色々悩むし、不安もあるけれど、とりあえず私の正体を知った奴が私の事を広めようとするなら殺せばいいし)
殺せばいい――とリアは物騒な思考をしていた。リアの正体を知った者で、リアの平穏を脅かす存在をリアは許さない。
(……天空島の攻略も、精霊への対策もまだまだ進まない。長い期間が必要。就職したら今よりも自由さはきっとない。薬師としての責任もかかるだろうし、どれだけの自由時間が取れるかももうちょっと師匠と話さないと。まぁ、数年、師匠の弟子として過ごすぐらいなら少しぐらい大人しくしているのもありだけど。でもレベルをあげられないのは嫌だから、どこかで睡眠時間を削ってでもどうにかするか。そのあたりだよね。私もレベルが上げにくくなっているし、もっとレベルを上げるために努力をしないと)
リアは空の上で、またレベルをあげたいと思考している。これで十分だと思う事なく、ただただもっと強くなりたいとそればかりを考えている。
(空の上は落ち着く。ずっとここに居たい気持ちにもなるけれど、薬師として暮らしたいし。うん、学園生活よりは、師匠との暮らしは人と出会わずに済みそうだし良い。ちょっと楽しみになってきた)
リアは内心、少しワクワクしていた。
学園生活という同年代が沢山いる生活は、リアにとって居心地が良いものではない。もちろん、自分が進んで学園に通っているので仕方がないが、それでも人に囲まれずに過ごせるのならばそちらの方がリアには良い。
同年代が沢山いる学園にリアが通おうと思ったのもたった三年間だからである。三年通えば、資格を手に入れる事が出来、卒業証を手に入れる事が出来る。
――それが終われば、今よりも人に関わらない生活が待っていると思うとリアは嬉しかった。
(それに私は前世も含めて就職するのは初めてだからな。……まぁ、ギルドで働いているのもある意味仕事なんだけれど、あちらは私にとって仕事というより強くなるためのことだから)
リアにとって初めての就職とも言える場が薬師の元である。リアは相変わらず心配性で、色んな事を考えているが、それでも楽しみにしている。
(だからこそ残り一年を乗り切る。私が《姿無き英雄》だと知られたら、師匠の所で就職もままならないし。雲隠れしなきゃになるし。私の将来の予定にしばらくは姿を隠すつもりはないんだから)
自分の平穏で、快適な暮らし。そのためにリアはそんな決意をしながら相変わらず人一人もいない空の上を一人で散歩している。誰もいないその場をリアは独り占めをしている。
何度も何度も空に来る内に空に浮かぶことも、リアにとって当たり前になっていっている。
天空島の攻略にはまだまだ時間はかかるだろうが、リアは少しずつ結果を出しているのであった。




