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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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312/460

異世界から来た二人(+ステルスで一人) ①

 さて、アユミは緊張した面立ちで、街中の飲食店に来ている。

 ――個室のある飲食店にわざわざやってきているのは、同じく異世界からやってきた男性と会う事になっていたからである。

 アユミは、ラウルが自分と同じ存在だと知らないままに接していた。

 ――もしティアルクよりも先に会っていたら惚れていたかもしれないほどに、ラウルの顔立ちは整っていたので、アユミは初めて会った時にドキリとしたものである。アユミも大概、面食いである。

 アユミは、ティアルクにも異世界から来たことは話せていない。自分の過去を話していない状況で、ティアルクと恋人関係になっていることは、アユミにとっても罪悪感を感じることだった。

 過去に秘密を抱えていることはティアルクたちも分かっているだろうが、流石にアユミが違う世界からやってきたとは思ってもいないだろう。

(私が皆の立場だったら、異世界から来たなんて信じられないかもしれない。ティアルク先輩は私が秘密を抱えていても全部受け入れてくれているけれど、それでも……私が転移者であることは言いづらいものだから)

 アユミは、この世界を比較的楽しんでいる方である。

 ゲームのステータスのまま此処にやってきて、夢見心地な気持ちで最初は過ごしていた。けれどここから日本に戻る事が難しいことは今のアユミには理解が出来ている。最初はすぐに戻れるのだろうかという気持ちだってあったが、今ではそういう気持ちはすっかりない。

 ――戻れないこと、もう親に会えないこと。そのことで不安を感じることは当然あった。その不安が、アユミがティアルクと恋人になった一つの理由であると言えよう。この世界での拠り所がもっと欲しかったというのもあるだろう。

 貴族の後ろ盾があるとはいえ、アユミはこの世界での交流関係が狭い。

 そういう交流関係が狭いからこそ、ティアルクと恋人になるということを選択したのだと言えるだろう。もちろん、ティアルクに対する恋心があることは前提だが。

「ラウルさんは、何時頃、此処にきたんですか」

「アユミよりは少し前だよ。といっても最近だけど」

 ――アユミとラウルの会話が始まる。

 こうして転移してやってきた者同士だからこそ分かる会話をしている。ちなみにアユミとラウルは、ゲーム内での交流はなかった。ラウルはカンストしていたが、あのゲームはそれなりにカンスト者もいて、アユミ自身はラウルのことを正しく知っているわけではないのだ。《爆炎の騎士》の名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれないが、その程度である。

「そうなんですか……。ラウルさんは私よりもずっとこの世界に馴染んでますよね。戸惑いとかなかったですか?」

 アユミは、ラウルから自己申告されるまでラウルが自分と同じだとは思っていなかった。それだけアユミの目からしてみれば、ラウルはこの世界に馴染んでいた。

 それはラウルがアユミよりも前にこの世界にきていたからというのもあるし、何よりリアがいたからといえるだろう。

 ラウルはリアの友人だったからこそ、リアに接触をはかられた。リアが接触したからこそ、ギルドマスターの元へ預けられ、リアとギルドマスターの助けがあったからこそ今のラウルがいる。アユミの目には、自立した一人の男に見えるかもしれないが、それは張りぼてである。ラウルは内心、とても不安などが大きかった。

 アユミと会話を交わしながら、気を抜いてリアの事を話さないようにしなければとキリッとした顔をしている。同郷の存在と話すことで、ラウルは少しだけ心穏やかになっていた。

 ラウルは、この世界にやってきてすっかりこの場に慣れている。寧ろ、昔の地球での暮らしが、夢のように思えることさえもあった。それだけラウルは此処での暮らしが必死だった。昔の記憶が本物なのか、今の自分はどういう立場なのか。

 そういう悩みを当然、ラウルは抱えている。

 そしてリアやアユミと会ったことで、昔の地球での暮らしは本当のことだと改めて感じていた。リアとアユミの存在は、ラウルにとって、昔のことが現実だと言う証明である。

 ラウルはアユミのことは、自分よりも年下のようなので特に心配していた。リアにかんしては、この世界で自立して自由気ままなので、ラウルは心配は欠片もしていないが……。

「戸惑いは当然あったけれど、それでも俺がこの世界に来たのは事実だったから」

 ――ラウルがこの世界でこれだけ生きていけているのは、リアの影響が大きい。けれども、リアのことを話すわけにはいかないのでそう答えた。

 なんだかんだリアがいなかったとしてもラウルは、この世界を割り切って生きていただろう。今ほど、心穏やかではなかったかもしれないが。

 そうやって自信満々に言い切るラウルのことを、アユミは眩しい物を見るような目で見ていた。






 さて、ちなみにそんな空間の中、リア・アルナスはユニークスキルを行使してこっそりとその場に佇んでいた。

(なんかラウルがかっこつけてる? それにしても案外、トリップ少女とラウルは気が合うのかな?)

 リアは二人に気づかれることなく、ただそこにいる。


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