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臆病少女は世界を暗躍す。  作者: 池中織奈


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ネアラの決意 1

 小国リルア皇国の皇女―――ネアラの人生は決して普通とは言えないものであった。

 皇女として生まれた事もそうだが、母親が異世界からの転移者であることも含めて波乱万丈な人生を送ってきたといえるだろう。幼いながらに命を狙われ、死を覚悟したこともあったほどだ。しかし、現在は《姿無き英雄》のもとで今までの生活が嘘のような平凡な日常を送っていた。

 ネアラはソファに腰かけ、考えていた。

 つい先日にリアに言われた、問いかけられた言葉を。

 『……強くなりたい、意思ある?』、そう問われた時、ネアラは答える事は出来なかった。それは今まで強くなりたいと思っていたのは、現状を打破するためだったから。

 自分が生き抜くために力が必要だったから。国から逃げるにしろ、皇女として生きていくにも、なんにせよ力が必要だった。

 死にたくなかった。

 その思いが故に必死に自分の強さを磨いた。だけれども、その目的は失われた。

 気まぐれにリルア皇国を訪れ、気まぐれにネアラを《姿無き英雄》が助けた。現状、強くならなくてもネアラは死ぬことはない。ギルドマスターの養子になったこともあり、その命は保障されている。

 (強くなりたくない、わけではない。だけど、妾は――)

 強くなりたくないとか、そういうのではない。寧ろ強くなりたいか、強くなりたくないかと問われれば強くなりたいと答えるだろう。

 だけれども、

 (理由が、ない。強くなりたい、理由が)

 理由が思い浮かばない。強くなるための目的が失われ、自分がどうするべきか、何をすべきかよくわからなくなってしまっている。

 それが、ネアラの現状といえるだろう。

 目標を失った人はどうしようもない虚無感に襲われてしまうものである。

 これから、何のために生きればいいのだろう。

 これから、何をして生きていけばいいのだろう。

 そういう目標が唐突に失われれば、ネアラのように色々とわからなくなってしまうのも無理はない事であった。

 相変わらずリアは、一切ネアラの前には姿を現さない。幸い、食べ物はリアが適度に補充しているのか、食べ物に困る事はないものの、確かに存在は確認できるのに姿が見えないというのは何とも言えない気持ちになるものだ。

 (《姿無き英雄》は、確か十五歳といっていた。たった十五歳で、《超越者》にまで至っているなんて、どうしてなのだろうか……)

 自分の強くなりたい理由がわからないままに、思考は自分を救い出した《姿無き英雄》の事へと移る。

 よく考えれば初めて会った時以外は、きちんとリアと会話を交わした記憶がネアラにはないことに気づいた。初対面の時、十五歳だと告げていた。十五歳で限界レベルを突破し、《超越者》に至っているというのは一言でいえば異常なことだ。

 強さを求め、常に強くあろうとしなければそこには至れない。

 ならば、どうしてそこまで強くなりたいと願ったのか。強くなりたい理由がわからなくなったネアラはそんな疑問を持った。

 他の人の、強くなりたい理由を聞いたら何かしら答えが見つかるのではないかとそんな淡い希望を抱いたから。

 「―――妾は」

 「何独り言いってんだ」

 一人だと思って思わず口から洩れた言葉に、別の声が聞こえてきたことにネアラは思わず後ずさる。そして、恐る恐る声のした方へと視線を向けた。

 そこには、ソラト・マタリが居た。

 回転した扉から現れたソラトのネアラを見る目は相変わらず不機嫌そうである。ネアラが住まうようになってから、リアの姿をあまり見ない事がそれだけ嫌なのだろう。

 びくっとしたネアラはまじまじとソラトを見る。

 (……この男が、《姿無き英雄》の幼馴染とは知っているが、そういえばこの男が何者か妾は知らぬ)

 時々こうしてリアに会いにやってくるソラトは、毎度毎度リアの姿がなくネアラだけがそこに居ることに文句を言ってくる。きちんと話した事などもちろんの事ない。

 ネアラはソラトが《炎剣》の名で知られるギルドランクSSを所持している存在だとは知らなかった。それもそうだろう。ソラトはリアに習って、というよりリアの真似をして自分の事を隠している。

 自身の情報を隠しきっている強者なんて、《姿無き英雄》と《炎剣》ぐらいである。尤もソラトにはリアの《何人もその存在を知りえない》のようなスキルはないため、少なからず情報は漏れているだろうが。

 「なんだよ、じろじろみて」

 「……貴方は」

 「なんだ」

 ギロリとソラトはネアラをにらむ。大人げない事に、ソラトは相変わらずネアラの事が気に食わないらしい。

 睨まれて口を閉ざしたくなるものの、ネアラは問いかける。

 「《姿無き英雄》の幼馴染である貴方は、ギルドに所属しているのですか?」

 「あ? してるに決まってるだろうが」

 「ランクは、なんですか?」

 「なんで俺がお前にそんなこと教えなきゃいけないわけ?」

 ソラトはとても嫌そうな顔を浮かべている。どれだけ自分は嫌われているのだとネアラは思わず苦笑を浮かべてしまう。

 ネアラはソラトに嫌われていても、ソラトの事が嫌いなわけではなかった。というのも、ソラトは真っ直ぐに感情をぶつけてくるからである。

 リルア皇国に居た頃、向けられる悪意は表面上友好的にしながらも、自身の居ないところでささやかれるものが多かった。真正面からぶつけられる方がネアラはマシだと思っていた。

 それにソラトはネアラが気に食わないだけで、手を出すなんて真似はしない。

 ネアラの想像が正しければソラトはネアラよりもレベルが高いだろう。というより、《姿無き英雄》の幼馴染である男が、普通であるなんてこと信じられないというのもある。

 「妾が知りたいから、です」

 「ふぅん、やだね」

 「………ソラト、年下の女の子、いじめる。超カッコ悪い」

 それは、本当に突然会話に割り込んできた。あまりにも自然すぎてネアラは普通にそれに頷きそうになった。だけど、新たな声に驚いてそちらに視線を向ければ、当たり前のように向かい側のソファに座っているリアが居た。

 いつから居たのだろうか、さっぱりわからない。

 「リアちゃん!」

 ソラトはリアがそこに居ることに歓喜して、すぐさまリアに駆け寄った。

 「……別に、私の義妹だから、教えても問題はない。ばらすなら、殺すだけだし」

 近づいてきたソラトに向かってリアはそんな事を言う。さらっと殺すなんて言っているあたり物騒だ。

 「でもなんかやだ」

 「ネアラ、これ《炎剣》」

 「ちょ、リアちゃん!」

 「私、ばれてるのに、ソラトばれてないとか、ずるい」

 そんな風に言いながらばらしてしまうリアは相変わらず結構な自己中な少女である。

 が、ばらされようともソラトはリアがやることなら別に怒る事はないようで《炎剣》という言葉に目を見開いたネアラに向かって、開き直ったように言う。

 「リアちゃんのいう通り、俺は《炎剣》って呼ばれている。一応、ギルドランクSSランク所持者って事」

 ソラトはそれだけ言うと、もうネアラに対する興味がないのかリアに向かって一生懸命話しかけ始めた。最近会えてなかったこともあり、リアと話したくて仕方がないらしい。

 「リアちゃん」

 「ん」

 「最近学園どう?」

 「普通」

 「俺も変わらず。そういえば自称《姿無き英雄》の弟子を演じたら称号に《嫌われ者》って入ったんだけど! 面白くない?」

 「自業自得。勝手にそんなもの自称したから」

 「でも実際本当の事じゃんか。俺リアちゃんに色々ついて回って強くなったし」

 「ん、まぁ、そう」

 ソラトはリアの倍ぐらいしゃべっている。しかし幼馴染のソラトには一応心を許しているらしいリアは喋る事が面倒でも一応返事をしていた。

 「《姿無き英雄》と《炎剣》は……」

 ずっと黙っていたネアラは二人の様子を見ながら口を開く。

 「ん、なに」

 「なんだよ」

 二人は呼びかけに答えて、ネアラの方を向く。

 「どうして、そこまで強くなれたのですか」

 そしてネアラは二人の顔を見ながらそう問いかけるのであった。





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