入学した王女様
王女様が学園に入学した。
――そのことで生徒たちは騒がしい。王女という手の届かない位置にいる存在が同じ学園に通っているというのは、それだけ周りにとってみれば特別なのだ。
同じ学園の生徒であるということで、王女と繋がりを作りたいと言う者は多い。
――護衛が周りにいるとはいえ、王女であるコルネッタは寄ってくる存在にうんざりしていた。
(何故こうも、皆自分の力を誇示するのかしら。《姿無き英雄》様は、こんな風に自分の力を誇示することもなく、ただその成果を持って周りに知られているだけなのに。ああいう方の方が絶対かっこいいわよね)
コルネッタは、《姿無き英雄》にあこがれを抱いている。《姿無き英雄》の在り方は、王女であるコルネッタにとってはかっこいいと思ってならないあり方だ。
実際の《姿無き英雄》――リアはただ自分の正体がバレたくないだけである。ただ目立てば目立つほど、周りから注目を浴びて、面倒なことになってしまう。――それが嫌だからこそ、リアは隠しているだけだ。
《姿無き英雄》を正しく理解して、《姿無き英雄》に憧れているものは少ない。《姿無き英雄》に関する噂と想像で《姿無き英雄》を決めつけている。
(《姿無き英雄》様は誰にもばれずにただその力を示し続けている。魔物を狩ったり、盗賊を狩ったり、色んな場所で目撃情報があるから、もしかしたら《姿無き英雄》は一人を指す言葉ではないのでなんていう噂もされていたけれど……それはギルドマスターが否定していた。ギルドマスターは《姿無き英雄》様に会ったことがある。なんて羨ましい。ギルドマスターは王族にだって引けを取らない権力者だから、私が会いたいって我儘を言って《姿無き英雄》様に会えるわけでもないもの。《姿無き英雄》様に私が会うためにはもっと正当法を使うしかない)
そんなことを考えているコルネッタは、何処までも《姿無き英雄》のファンなのである。
ちなみにコルネッタはそんなことを考えながらすました顔をしている。内心はミーハーな気持ちで一杯だが、王侯貴族なんてそういう風に取り繕うことぐらい簡単に出来るものだ。ちなみにリアは《超越者》だが、そういう顔芸は全く出来ない。
護衛たちと共にコルネッタは、廊下を歩く。
護衛を連れて歩くコルネッタは大変目立つ。ちなみに護衛も生徒として此処にいる。なるべく普通の学生としての生活を送ることが決められているので、護衛も最低限である。
そうしてあるくコルネッタは、小さな生徒を見かける。
茶色の髪の小さな生徒――リア・アルナスは無表情で歩いている。幾らユニークスキルを使ってばかりのリアでも、学園ではそれなりに姿を見せている。
「あの生徒、凄く小さいわね。同じ年かしら」
同じ年だったとしても――小さく見える。リアは目立ちたくないと思っているが、即急に《超越者》になったために、リアはその小ささからこの学園でそれなりに目立ってしまうものである。
「ああ。あの生徒は三学年の生徒だそうですよ。嘆かわしいことに《臆病者》の称号を持っているそうです」
護衛としてこの学園の生徒たちのあらゆる情報を頭に入れている護衛として此処にいる生徒。――《臆病者》の称号を持っている生徒は少ないため、リアのことは悪い意味で記憶に残っていたらしい。
「まぁ、そうなの。でも嘆かわしいなんて言っては駄目よ。《臆病者》の称号を持っている人がこの学園で三学年まで頑張っているなんてすごいことじゃない」
コルネッタはそう言って護衛をたしなめる。
若干上から目線の言い方だが、それも仕方がないだろう。コルネッタは王女であるから、生まれながらに上に立つ人物である。それでいてだれかを馬鹿にする発言を良しとしない。そういう存在である。
立派な人物であると言えるのかもしれない。
「本当に殿下は優しい方ですね。あのような生徒にもそのような言葉をかけるとは。私共も見習わなければ」
コルネッタがその言葉を聞きながら先ほどリアがいた場所を見た時――もうそこにはリアはいなかった。
(……この学園の生徒は、強さを貪欲に求めていて、イケイケな感じの人が多い。けれど、これからどうやっていくかは人それぞれだものね。《臆病者》の称号を持っていたとしても馬鹿にしていいわけでもなく、将来的には評価が逆転することもありえるものね。死ぬまでその人の評価は分からない。ううん、死んでから評価が逆転する人だっているから、そういうのは一概に言えない)
――コルネッタはその年の割には、色んな事を思考している。それは幼いころから勉強に励み、聡明に育った証であると言える。
――コルネッタは、もうすでにあこがれの《姿無き英雄》を見かけていることも、《姿無き英雄》と同じ学園に入学したことも、当然のごとく気づくことはなかった。




