闘技大会が終わった後の週末
闘技大会が終わり、週末がやってきた。
リア・アルナスは、のんびりと過ごしている。いつでも、どこでも――リアという存在はマイペースである。
学園ではティアルク・ルミアネスとカトラス・イルバネスの事が話題になっている。それも当然のことだと言えるだろう。
ティアルク・ルミアネスは、闘技大会で二年連続の優勝を果たした。それは今までにない偉業である。ティアルクの本来のレベルを知っていれば、それも当たり前のことだと納得できる。――だけれども、知らなければ何故レベル三十程度で学園で闘技大会で勝利することが出来るのだろうかと疑問を感じるものだ。
ティアルクを囲むものもいれば、いぶかしむものもいる。
大貴族の娘であるミレイが傍にいることや、王族とも仲よくしているという実例があるため、国と事を起こそうとしている存在ではないとは思われているようだが、何者だろうか? という疑問はつきないようだ。
(ゲンさんとルミさんの弟子だと断言しているのならば、問題がない。それならば皆逆に安心することだろう。でも何も広めずに力を示せばそうなるよね)
うんうんなんてリアは頷きながら、リアが向かっているのは薬師の元である薬師のおばあさんに会いにいっていた。
接触を果たしてからというもの、リアは何度もその場に顔を出していた。ギルドの仕事をこなしたり、学園生活を送りながらも――飽きもせずリアはそこに顔を出す。
まだ薬師はリアを弟子にするとは一言も告げていない。――それでも何度も何度もこの場に顔を出すリアに、薬師の心も少しずつほぐれてくるものだ。
(……この娘はよくわからない。不思議だ)
薬師は、その場に居座るリアを見ながら不思議な気持ちになる。
……何度も何度も、薬師の元を訪れるリア。そんなリアは、追い返したとしてもノックをしたり、家の前で待っていたりする。断っても断ってもやってくるリアを、何度目かの訪問の際に、薬師はついに折れてリアを中へと入れた。
見た目が幼い無表情の少女を、外に放りだしたままにすることは薬師の良心も痛むものだ。それに何度も何度もここを訪れられれば、本気でリアが此処で薬師になりたいのだということが分かった。弟子を取るつもりがなかったとしても、心が動かされないわけではない。
そして中へと入れたリアは、ただじっと飽きもせずに薬師のことをみていたりする。そのうち、《調合》をやってみるか? と問いかけたのも当然であった。幾ら薬師が周りを気にしない性格だったとしても、ただ無言で見つめられても気まずくなるのも当然である。
そして弟子になるわけでもないのに、リアはそこで時々過ごすことになった。
そのリアの調合の腕は、薬師の目から見てみても素晴らしいの一言だった。今すぐでも薬師として働けそうな――そんな実力をリアは兼ねそろえている。
(どういう手段を使ってこちらに来ているのかもわからない。学生にしては落ち着きすぎている。そもそもこうして外の街に自分で働きに出たいと何度もやってくる行動力があれば、この実力があれば他の薬師の元でだって幾らでも働ける。……本人はただの学生だと言っていたが、何だかチグハグな印象だ)
リアは薬師の弟子になるために一生懸命である。そしてリアは薬師に近づこうとしている。そうして近づこうとしているからこそ、リアの本質が薬師にも見えてくる。あとは薬師がリアよりも長く生きていて、そういうのを感じやすいからこそチグハグな印象を感じるのだろう。とはいえ、幾ら不思議であろうとも、薬師は特にそれを暴こうとする気はない。誰にだって過去はあるものである。
好奇心旺盛な人であるならば、リアのチグハグな要素を見ればすぐに聞き出そうとすることだろう。それも悪気もなしにである。しかしこの薬師はそういう人間ではない。リアはそういう人間だと薬師のことを分かっているからこそ、弟子になろうと思ったのだが。
(まぁ、しかし、この娘がチグハグだろうともどうでもいい。それよりも、私が考えなければならないことは、この娘を結局どうするかだ)
じっと薬師はリアを見る。
リアは黙々と調合をしている。ちなみにはっきりとその視線を感じているが、リアは薬師に何か声をかけることもない。
(……この娘は、やろうと思えばなんにでもなれる。そういうバイタリティがある。それでもこの娘は、此処で弟子になりたいといった。何故かは不明。それを聞く気はない。弟子を取る気はなかった。誰かに後を継がせる気もなかった。ただ……この娘は普通と違う)
――長年生きているからこそ、リアのそういう部分が見える。リアの本質をなんとなくわかっているだけでもすごい人物といえるだろう。
そして薬師は、リアの事をじっと見つめて決断する。
「……娘。あんたを弟子にしよう。学園卒業後、此処で暮らすといい」
何度も何度もやってこられて、リアを見て、薬師はそう心変わりをした。
「ありがとうございます」
そしてリアは相変わらずの無表情のまま、それを喜ぶのだった。




