ミレイ・アーガンクルという少女1
《美貌は世界を救う》。
その名称を聞いて、まず人はどんな事を思い浮かべるだろうか。もしかしたら、何をふざけた事を言っているのだとのたまう人もいるかもしれない。
しかし、これ、とある女子生徒の発現させたユニークスキルの名称であったりするのだ。
ユニークスキルの名称というのは、地球でいう厨二病がかんがえたようなかっこつけたものが多くある。
リア・アルナスの《何人もその存在を知りえない》にもそれは言えるだろう。
そして、その《美貌は世界を救う》という地球人にとってみれば恥ずかしいといえるユニークスキルを所持しているのはリアと同じクラスの少女であった。
そして、リアは現在その少女、ミレイ・アーガンクルと授業で同じ班になっていた。
「アルナスさん」
ミレイ・アーガンクルはこの王国の中でも屈指の権力を持つ、アーガンクル公爵家の娘であった。
強大なまでの魔力を持ち、美しいと称される見た目を備え合わせている彼女はもちろんの事学園の中で人気者である。
(ハーレム主人公のハーレムの一員と一緒の班とか面倒ー)
リアは好意的にやさしく話しかけられているというのに、そんな酷い事を考えていた。正直ティアルク・ルミアネスたち一味は遠目から見る分には楽しいかもしれないが、実際に接するのは勘弁な相手だという認識がリアの中にはあった。
しかし、こうして同じ班になってしまったというのはどうしようもないことだ。
今受けている授業は、『料理』の授業である。何故魔法学園で『料理』の授業があるのかと疑問に思うものも多いかもしれないが、この授業で学ぶ料理とは野外で食べるおいしい料理の調理法である。
要するに森などで食料がなくなってしまった際に自力で、食料を調達して、それをおいしく食べる仕方を教える授業だ。非常食もあるが、それは美味しくないため、野外でおいしい物を食べたいという人々は多い。
ギルド所属者を含めた色々な場所に行く人々にとってこれはありがたい授業でもある。リアは《アイテムボックス》を所持している事もあり、そこに非常食を大量にため込んでいる。普段から料理らしい料理もしないため、《料理》のスキルもリアはこの年まで持っていなかったりする。
が、一般人は《アイテムボックス》なんて持っていないため、食料問題は重大なものであった。
(授業で少しは料理するようになっているからそろそろ《料理》スキル手に入ってもいいとおもうんだけどな)
《料理》、《ダンス》、《読書》などのスキルはそれらの行為を何十回と繰り返しているうちに勝手に出現するスキルである。
ちなみに、今回班に分かれているのは班ごとに用意された材料で料理を作ってみろという実習だからである。
「アルナスさん……。相変わらず返事なしですか」
「貴様、ミレイ様に失礼だぞ」
「ア、アルナスさん、返事をした方が」
ミレイ以外にもリアの班のメンバーは二人居た。
恐らく貴族だと思われるえらそうな男と気弱そうな女子生徒である。
「私は別にかまいませんわ。アルナスさん、頷きだけでいいですから、返事を返していただけますか?」
リアは、前世からのコミュ症を大いに引きずっており学園内では必要以上にしゃべらず過ごしていた。それは入学してからずっとの事だったため、ミレイは諦めているのか、咎める事をしなかった。
寧ろそうやって優しく問いかけるあたり、ミレイは優しい少女なのだと周りに思わせる。
こくんと、リアは一回頷く。
しかしいくらミレイが優しい少女であろうとも、リアのコミュ症が解除されるわけではなく、リアは相変わらずの様子であった。
「貴方は確か、《料理》スキルを持っていませんよね?」
それにリアはまた頷く。
「なら、この中で《料理》スキルを持っているのは私だけですね。三人とも私の指示に従ってくだいさいますか?」
そう、この中で《料理》スキルを所持しているのはミレイだけだった。
ミレイが問いかければそれぞれが返事をする。貴族の男は「もちろんです」と、気弱な少女は「は、はい」と、そしてリアはもちろん頷くだけだ。
「なら、今回は《七彩キノコの煮込み》を作りましょう」
ミレイがそういってテキパキと指示を出す。その指示にリアはおとなしく従いながらもミレイの事をちらりと見た。
表情には出ていないが内心は興味深いなぁと思っていた。
(アーガンクル公爵家なんていうこの国でも屈指の公爵家の娘でありながら《料理》スキルを持っていて、野外料理とか得意って面白いよね。貴族の中には料理なんて全然した事ない令嬢も多いのに)
そう、貴族の令嬢の中にはミレイのように料理が出来るものは少ない。この世界は強者が権力を持つ世界であるから、貴族は常に強者であろうと努力をするといった教育を施される。しかし、こういう自然の中に潜った際に必要な技術を身に着けず、『戦う事』だけを鍛えている貴族というものは多いのである。
まぁ、リアも料理に関しては人の事を言えないけれども。
(まぁ、お義父さんがアーガンクル公爵家は実践や実技に力を入れてるっていってたし、きちんと教育受けているんだろうけれど)
お義父さんが評価するほどなのだから、アーガンクル公爵家は面白い家なのだろうとは思っているリアであった。
貴族の中には、実践に力を入れず、ただ魔法を強く放てるとか、力が強いとかそういうのだけの者も多いのだ。でもそれじゃあ、戦い方を知らなければ、実践を知らなければ生きていけるはずもないのである。
(それに、この子はユニークスキルも面白いしね)
そう思いながらもリアはさらっと《分析》のスキルを行使して、本人に気づかれないようにステータスをのぞき見する。
ミレイ・アーガンクルのユニークスキル。
それは《美貌は世界を救う》という名前のものであった。




