ギルドマスターと闘技大会の話をする。
リアはギルドマスターから、《炎槍》が《姿無き英雄》であるリアに会いたいと嘆いている話を聞いてうんざりとしてしまった。
「……私、絶対嫌」
「はは、別に会えなんていってねーから安心しろよ。ただ《炎槍》がリアを見つけたなら、俺はどうしようもないけどな」
「……その時は仕方がないよ。その時はその時。でも私は見つからないようにする」
リアはそう口にしながら、ギルドマスターのことをジト目で見る。
ギルドマスターはリアにそういう視線を向けられようが、全く気にした様子がない。
ちなみに二人が何処で話しているかといえば、ギルドマスターの家である。リアにとって実家とも言える場所であるが、リアは此処にいることはあまりない。――というのもリアは寝る時以外に昔から姿を現わさないからである。
ほぼいつでもユニークスキルを使いながら、姿を現わさないリアなので当然といえば当然だろう。
「リア、ヴィヴィヨンとは仲良くしているか? どうせリアのことだから、あまり関わってないんだろうが」
「……ちょっとは関わってる」
リアが何故、この場所に来ているのかといえばギルドマスターは義理の父親として、時々こちらにやってくるように言いくるめられているからである。
「ネアラとソラトにどうせ任せてばかりなんだろう。リアらしいと言えばリアらしいが」
「まぁ、そう。お義父さん、精霊は怖い、私はまだまだ精霊を見つけられない」
「それは仕方ないだろう。本当に精霊とやりあう気というだけでもリアらしいけどな」
「……お義父さんは、精霊とやりあう気はない?」
「まぁ、出来るなら精霊と対抗出来た方が楽しいが、むずかしいものは難しいからな。リアみたいに鍛錬だけを続ける暇もない」
「……ギルドマスターって忙しくて面倒そう。やっぱり私は何か責任のある立場にはなりたくない」
リアはギルドマスターにそう言う。
(ギルドマスターって立場ではなければ、お義父さんはもっと鍛錬に時間をさけるし、色々と出来ることもあるだろう。でもお義父さんは、ギルドマスターになる道を選んだ。ギルドマスターとして書類仕事をしたり、ギルドを牽引していくことを選んだ。お義父さんは、ギルドマスターであることを嫌がっていない。それでも私よりもレベルが高い。……そう考えると、上に立つ者でありながらレベルをあれだけあげている女王様はどれだけ凄いんだろうか。長い時を生きてきたからこそだろうけど)
ギルドマスターであるということは、それだけ強くなるための時間がないということ。それでも強い――そのことにリアは関心する。
(私は絶対に嫌だな。私は他の何をするよりも、強くなりたい。鍛錬をもっと続けたい)
リアはそれだけを考えている。
鍛錬を行いたい。他の何を省いてでも。そう考えているリアは、上に立つことを望まない。幾らでもリアはそう言う地位に就こうと思えばつけるだろうが、そういうものにあこがれは一切ない。
「リアはそう言うだろうな。ところでリア、闘技大会は――」
「私は活躍しないからね」
「それは分かってる。去年に引き続きは流石にこちらも望んでない。リアとソラトが真面目にやらないのは知っているが、お前、最近面倒見てる生徒いるだろう。そいつが目立つのを楽しみにしている」
「……多分、お義父さんが望むほどには、活躍出来ないよ」
それは事実である。リアから見て、カトラスはまだまだである。ティアルクに勝てるほどの強さはない。
「《炎槍》はまた闘技大会に参加するといっていたぞ。それで今度は優勝者と戦うんだろか」
「……それも私目当て?」
「そうだな。去年、《姿無き英雄》に会いたがっているからな。優勝者はまた例の生徒になりそうだがな」
「うん。でもまぁ、流石にあのハーレム主人公も《炎槍》には勝てないかと。というか、あのハーレム主人公は、同じレベルの相手にも勝てないと思う」
「それはそうだろう。俺もあいつを見たことはあるが、レベルのわりに強くない」
ギルドマスターとして、ギルドで有望な存在の名前などは把握している。ギルドマスターにとって、ティアルク・ルミアネスはそれなりの興味を抱く存在だが、それだけである。
リアの方がずっとギルドマスターには面白い。
「というか、ただの学生が例えば《炎槍》とかに勝てたら凄い目立つよね。私からしてみれば目立つのは全然いいんだけど。私が目立たなくなるし」
「リアも目立っていいぞ」
「嫌だよ!!」
「そういえばお前の友人にも打診したが嫌がったからな」
「あー。うん、まあ、ラウルはそうかも」
「リアの友人のわりに相変わらずちぐはぐで、お前ほど面白くないな」
「……うん、そういうものだよ。自分で強くなる気がなさそうなら、放っておけばいい」
「そうだな。やる気がないなら放っておこう。リアの友人だから気にはかけとくが」
「うん。じゃ」
リアはギルドマスターとそんな会話を交わしてから、その場を後にするのであった。




