筋肉生徒会長は見ていて面白い。
マルス・リガントはアルフィルド魔法学園の生徒会長である。この学園内における紛れもない強者。
そんな彼は現在、生徒会室に一人でいた。
考えるより行動しろとばかりに普段は何も考えていないような脳筋の代表であるマルスは珍しく生徒会長席に腰かけ、考え込んでいる様子である。
(……ティアルク・ルミアネスとは何者なのだろうか)
マルスの思考している事はそれであった。ティアルク・ルミアネスの実力はレベル三十一にしては違和感があるものであった。手加減の仕方がへたくそだからこそ、少しでも実力のあるものにはこういった考えを持たせる。
生徒会長として学園の秩序を守らなければならないマルスにとって、ティアルク・ルミアネスとは不可解な存在であるといえた。
接触してみてわかったことだが、決して彼の性格は悪くない。そして嘘をつく事をためらうような正義感に満ちたところがある。
そんな彼が実力を隠すのだから、何かしら正当な理由があるのだろうとマルスは考える。
(しかし、強い事は悪いことではない。だというのに手を抜くのはおそらく異常なほどにレベルが高いのだろう――…)
それを安易に想像できるからこそ、マルスは余計に頭を抱えたくなった。なんでそんな存在が学園に通っているんだとか、何か学園に起こるのではないかとそれを思うと正直考えるのが面倒になってくる。
そもそも難しい事を考えるのがそこまで得意でない自分が生徒会長をやっている時代にそんな面倒な少年が入学なんてしなくて良かったのではないかとさえも思っている。
そんな風に考えるマルスは、まさか、ティアルクよりもレベルが高く、圧倒的な強者である《姿無き英雄》と《炎剣》がこの学園に入学しているなんて考えもしていない。
――――そして、その《姿無き英雄》が窓の外からマルスを覗き込んで遊んでいる事も。
《空中歩行》と《何人もその存在を知りえない》。
その二つのスキルを利用して、リア・アルナスはマルスに悟られる事なくじーっとマルスの事を観察していた。
(筋肉会長、なんか考えてるなー。珍しく難しい顔しててなんか面白いよね)
リアにとって筋肉会長であるマルスは、観察している分には愉快な存在であった。そもそも《筋肉こそ力なり(マッスルパワー)》なんて愉快なスキルを所持している時点でリアにとって笑える対象である。
(というか、ユニークスキルってマジ厨二だよね。面白いけどさー。しかし何を悩んでんのかな、筋肉会長は。なんか普段、「筋肉、筋肉」としかいってない脳筋男が難しい顔してるって気になるよね)
空中で停止したまま、窓の外からまじまじと見ている。
だけど、それにマルスは一切気づかない、いや、気づくことが出来ない。そうしてじーっと見ていたら、生徒会室に別の誰かがはいってきた。
それは、生徒会副会長であるアイディーンであった。
「む、アイディーンか」
「珍しく、何を考えているのですか」
生徒会室に入ってきたアイディーンはそれを問いかける。
(お、いい質問だよ。氷の副会長。私も気になってたから聞いてくれると助かる。だって気になる事わからないままって気分悪いし)
窓の外ではわくわくした表情を浮かべながらもそろりと気づかれないように聞き耳を立てているリアが居る。
マルスはもちろん、そんなリアに気づくことは無くアイディーンの方だけを見て告げる。
「ティアルク・ルミアネスについてだ」
そんな言葉にリアはおぉと思いながら聞いていた。リアの目から見てもティアルク・ルミアネスは手加減の仕方がなっていなかったものだが、やはり会長はそのことが気にかかっていたのだろう。
マルスが難しい顔をしている事からも彼がティアルク・ルミアネスに対して決して楽観的に考えていない事がうかがえる。
(まぁ、そりゃそうだよね。ティアルクが何者かわからないからこそ不安なんだろうね。正体がわからないって事は一種の恐怖だもん)
何者かわからないものが近くにいるということは一種の恐怖である。リアだって、誰かわからないものには恐怖する。そして恐怖するからこそ、調べ上げて何者か把握して安堵するのだ。
「そうですね。彼はおかしいです。明らかに普通じゃない」
「レベル31にしてはおかしい。何者なのか知りたいのだ」
「そうですね。学園の平和のためにも彼が危険な存在でしたら困ります」
「うむ。そして願わくば俺の筋肉のためにぶつかり合いたいものだ!」
「……結局それですか。まぁ、戦いたいなら勝手に戦えばいいですよ。私は関与しません」
脳筋なマルスは結局のところ、強い者と戦いたくて仕方がないだけらしかった。
その事を知り、アイディーンはその水色の瞳でちらりとマルスを見て、無感動にいう。
(氷の副会長は幼馴染だっていうのに筋肉会長に対して超冷たいなぁ。いや、でもクールビューティーって嫌いじゃないし、良い性格していると思うけどさ。それに筋肉会長と氷の副会長の会話聞いているの面白いしね)
リアは生徒会のツートップの会話を盗み聞きして楽しんでいた。聞かれている本人たちからすれば『知らない間に存在も悟れない相手に会話を聞かれている』のだからぞっとする事実だが、生憎二人はリアの存在に気づく事が出来ない。
(ハーレム主人公は詰めが甘いから、多分そのうち筋肉会長たちにばれるよね! そうなってたたかうなら観察して遊ぼうかなー)
なんて考えながら、リアは他に面白い事はないかなーとその場を後にするのであった。
勿論、最後までリアがそこに居ることに二人は気づかなかった。